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大盾の学徒兵 ー大和魔法術学園 特別練成科ー  作者: 柴犬道
第二章・学園編(1年)
22/26

21.蒼角とクロガネ

忘れちゃった人は読み直してね!


 ーー大型連休明けに行われる、班対抗戦闘訓練。


 その様な訓練があると授業の端々で伝えられていたが、担任の美樹が正式に詳細を発表したのは連休に入る直前、幸雄(ゆきお)達が日々の勉学と放課後の研究という生活をひたすら繰り返している時だった。


 その内容は単純明解なもので、四対四のサバイバルだ。相手の班を全員戦闘不能にするか、もしくは最終的に倒した人数の多い方が勝ちである。

 そして舞台は、学園の敷地内にある野外訓練場の一つ。土地を贅沢に使い、人さえいればすぐに生活が出来そうな町が再現された市街地戦専用の訓練場だ。


 幸雄を含む特別練成科生徒達は、今まさにその町中に潜んでいた。



「――皆さん、模擬戦開始まであと少しですから、今一度装備と作戦を確認しましょう」


 潜伏に適した建物の中、和水(なごみ)が音頭を取り、幸雄たち特練一班はそれぞれ自分の装備を確認していく。彼らは、頭に通信用のインカムをつけ、体操服の上には各所プロテクター、さらに各々用意した()()()()()()を身につけていた。


 戦闘用魔道具とは、術者の具現魔法を強化かつ安定して運用する媒介、もしくは内蔵された魔力を用いて攻撃などを可能にする武具の総称だ。様々な形状があり、真一は刀、(つかさ)は拳銃を二丁、和水は木製の長杖というように各々の戦闘スタイルに適したものを選んでいる。

 その中で一人、幸雄だけが、半身を覆える程大きな盾と拳銃、ナイフ、そして煙弾や閃光手榴弾などを装備していた。そのほとんどが魔道具本体に内蔵された魔力を利用するタイプの物である。


(ごちゃごちゃして重いけど、『魔力なし』が戦うためには仕方ないか)


 自分が希少な『自動発動型魔法』の保有者だったとは言え、普段は魔力が少なく、具現魔法もまともに使えないレベルである事に変わりはない。それ故に、魔力内蔵式の戦闘用魔道具を多数装備する必要があるのだ。

 幸雄が一人、誰よりも重い装備量を嘆いていると、司が彼の袖を引いた。


「……これ、持っていって」


 そして、何かを押し付けた。


「なんだ、銃の弾倉(マガジン)?」

「ええ……誰よりも使うでしょう?私の魔力を込めたから……使って」


 ずしりと手にかかった重さは予備の弾倉だった。拳銃型の戦闘用魔道具は、術者の具現魔法を強化する媒介になるだけでなく、弾倉に充填した魔力を弾丸として発射することで、術者の魔力を消費することなく発砲が出来る。

 幸雄は弾倉を利用した発砲しか出来ないため、多いに越した事はないというわけだ。


「助かる。有り難く使わせてもらうな」 


 幸雄の言葉に司が微かに笑顔を見せる。それと同時に


「さて!次は作戦をおさらいしますよ!」


と和水が召集を掛け、彼女考案の作戦を大まかに確認して聞かせた。そして、一区切りつくと真面目な顔で続けた。



「――良いですか?今回の模擬戦は言わば“小テスト”の様なものです。負けず嫌いな一輝(いつき)くん達のことですから、きっと二班(むこう)もいつも以上に本気で来ると思います。

 ……ですが、わたくしたちだって、タチアナ先生の研究と称した無茶振りに答えて頑張って来たんです。おいそれと負けるわけにはいきません!えい、えい、おーですよ!」


「おう!」

「……ん」

「ああ!尽力する」


 高らかに拳を突き上げる和水。続いて幸雄が気合を入れ、司はうずうずとした様子で頷き、真一は生真面目にそう答えた。


「皆さん、そこは『おー』で揃えるとこですよぉ……」


 期待していた反応と違ったと、しょげる和水の言葉を遮る様に、模擬戦の開始を告げるサイレンが町中に響き渡った――。




 模擬戦開始から十数分。


 サイレンが止み、しんと静まり返った町中を、幸雄たちは慎重に進んでいた。

 真一を先頭に、幸雄、和水と続き、殿(しんがり)を司が務めている。これは和水が提案した作戦行動中の隊列だ。

 『聴覚強化(ヘルエーリック)』など感覚強化も出来る真一が索敵を行い、どんな事態にも即座に対応する司が後ろを固め、比較的安全な隊列の中央に作戦と回復の(かなめ)である和水を擁している。そして、幸雄は和水のそばに付き、何かあればすぐさま身を挺して肉壁となるように控えているのだ。

 しかし、『自動防御』があるとは言え、肉の壁前提の配置は正直いかがなものかと、幸雄は内心苦笑する。「肉壁になって」ではなく、「私を守る盾になって」などと言われた方がモチベーションも上がるのだが……。



「……異常なし。二◯メートル先のビルまで走ろう」


 そんな幸雄の思考を断ち切る様に、真一が皆に告げた。それと同時に、幸雄たちは走り、目標のビルの真下までたどり着く。すると、すぐさま真一と司が周囲を確認し、幸雄は和水を背に盾を構える。その陰で、和水は手元の紙に線と走り書きを書き足した。簡易的な地図である。


「これで、訓練場の三分の一くらいはマッピングできましたね!」

「どうする和水さん。このまま進むか、一度ビルの屋上まで上って高いところから索敵か、どっちがいいだろう?」

「そうですねぇ……一度屋上に行きましょう!上から大きい通りだけでも地図に書ければ、後々役に立つはずですし、二班の動きも分かるかもしれません!」


 和水の指示に、真一は首肯する。

 地形を知り、地の利を活かすことは勝敗を左右する重要な要素だ。

 それは幸雄もまた、真一と深森剣(みもりけん)との戦いを見て学んだことだった。


「ビルの中も異常なしだ」

 

 警戒を終えた真一が告げる。

 そして、特練一班はビルの中へと進んでいった――。





「――高所から、索敵と地形把握を試みるつもりね……」


 一方、幸雄たちがビルへ足を踏み入れたその時、既に()()は幸雄たちの動きを捉えていた。


()()()()()()()()()!」


 眼鏡の位置を直し、特練二班の司令塔、狩屋涼(かりやりょう)は不敵に笑う。

 一班は行動が遅すぎるのだ。美樹先生は、連休直前とは言え、模擬戦の内容も使用する場所も告げていたではないか。

 だからこそ、涼は連休中、学園の資料室に入り浸って調べ尽くしていた。戦場となる訓練場の地形、建築物、主要な経路、最も効果的な魔法、それら全てを。その甲斐あって、訓練開始数分足らずで一班の位置を捉え、その行動を監視することが出来ていたのだ。そして、今、二班は絶好の攻め時を得た。


「今回勝つのは……二班(わちしたち)よ!」


 涼はインカム越しに指令を飛ばした。すぐさま威勢の良い返事が響き、視界の隅で二つの影が、一班の潜むビルへと飛んでいく。それを見届けると、涼は振り返った。


「さあ、海道くん、貴方も出番よ」

「……ようやくか。待ちくたびれたぞ」


 涼の呼びかけに一輝は顔を上げる。その眼光は鋭く、(たかぶ)った魔力が揺らめき、赤茶色の色髪(いろがみ)はまるで炎の様だ。


「やる気は十分みたいね。約束通り、本城くんは貴方に任せるけど……ちゃんと仕留められる?」

「はっ……今度こそ消炭にしてやる」


 一輝の魔力が、ひときわ強く燃え上がった。それに呼応するかの様に、視線の先、幸雄たちのいるビルのその中腹が、轟音を立て、白塵を噴き出した。



     ※     ※     ※




 それは一瞬の出来事だった。

 ビルの半ばまで差し掛かった時だろうか。まるで大砲が撃ち込まれたかの様な衝撃と共に、二つの影が、ビルの壁面を破壊して飛び込んできた。



「『山猫の脚(ジャジャ・ガ・ラパァ)』!」


「具現魔法〜『絞め殺しの無花果(エルヴュクテファイゲ)』」



 幸雄が煙る視界の端で、影の正体が嶋翔子(しましょうこ)と剣の二人だと認めた時には既に、蛇の様に蠢く無花果(いちじく)()()が幸雄たちに迫っていた。

 そのつるは、魔法を唱える間も与えず、全身に巻きつき、口まで覆い隠していく。それはあまりに素早く、一班で最も実力のある司ですら反応出来ないほどだ。

 ただ一人、幸雄だけが『自動防御』によってつるを防ぎ、拘束から逃れていた。


「お前ら、今助ける――」


 幸雄は司たちを助けようとナイフを引き抜いた。

 しかし次の瞬間には、衝撃と激痛が幸雄を襲い、視界が明滅した。

 『山猫の脚』という聞き慣れない魔法を使った翔子が、床にたった一発の踏み込みで大穴を穿ち、その勢いのまま幸雄を蹴り飛ばしたのだ。


 突風に吹かれた木葉の様に、幸雄は宙を舞って窓を破り、きりもみしながら落ちていく。

 窓を突き破るその僅かな間に、身動きの取れぬまま床の大穴に落ちていく司、反対側の窓へ投げ出された真一と和水の姿が見えた。

 その光景に、飛びかけていた意識が引き戻された。


(くそ!このままじゃ、やばい!)


 何とかしなければ。だが、空中ではなす術もない。

 地面への衝突を覚悟し、脆弱な『硬化(シュベール)』をかけたその直後、幸運にも、ビルよりも低い建物の屋上に落下した。


(た、たすかった……)


 一先ず、地面に叩きつけられなかった事に幸雄は安堵した。衝撃緩和の魔法がプロテクターにかけられているから、地面に落ちても死にはしないだろうが、気絶と骨折は確実、戦闘不能は免れなかっただろう。

 乱れた息をしばらく整えた後、幸雄はすぐに頭を切り替え、考えた。


「早く戻って、まずは司だけでも見つけねぇと」


 先程の奇襲によって、一班は分断されてしまった。戦術についてある程度学んだ今なら、状況の危うさがよく分かる。


 二班は幸雄たちを孤立させ、個別に倒すつもりなのだ。


 落ちる間に見た光景を思い出せば、幸雄とは反対側に投げ出した真一と和水を追う様に、翔子と剣が飛び出すのを見た気がした。あの凸凹コンビは、真一と和水を一人ずつ仕留めるように言われているのだろう。

 そして、おそらく、拘束した司を大穴に落としていったのは、彼女を少しでも足止めする為だ。

 具現魔法『絞め殺しの無花果(エルヴュクテファイゲ)』で全身を包んでしまえば、流石の司でも抜け出すのにしばらくかかるはず。司を倒そうとしなかったのは、返り討ちにあう可能性が高いと考えてのことだろう。

 なにも厄介な相手をわざわざ倒す事はないのだ。仲間を全て倒してしまえば、多勢に無勢……勝負はついてしまうのだから。


 ビルの中にいるはずの司と合流し、早く態勢を立て直すべきだと、決めた幸雄はインカムの送信ボタンに触れ、司に呼びかける。

 しかし、何度繰り返しても、ハウリングの様な奇妙な音だけが耳に響いた。


(くそっ!何でつながらない。二班が妨害電波でも出したのか?それとも司は、もう……)


 焦りと共に嫌な予想が頭をよぎったその時――



「――油断するなよ。本城ぉ」


と、煽る様な言葉と共に、幸雄を炎が包み込んだ。


 幸雄を襲ったのは、具現魔法『炎槍(フランメランツェ)』。

 凝縮された炎の槍は火柱となり、敵を焼き尽くさんと轟々と燃え盛る。まともに食らえば火傷では済まされない高火力の具現魔法である。



「――ちくしょう。指輪の魔力、ちょっと使っちまったじゃねぇか!」


 だが、火柱から歩み出た幸雄は、無傷。『自動防御』の障壁は、指輪に貯められた魔力を使い、炎熱を完全に遮断していた。


「……何故、貴様は毎度、無傷なんだ」


 声とともに火柱がかき消え、風が熱気を払っていく。

 幸雄は顔を上げ、苦々しげに顔を歪める()()と向き合った。


 やっぱりなと、幸雄は心の中でため息をついた。自分を毛嫌いする一輝が、自分を潰しに来ることは予測していた。だが、こんなにも早くやって来るとは。

 運良くこの屋上に落ちたと思ったが、どうやら狙ってここに蹴り飛ばされたのだろう。一班は、二班の策にすっかり嵌ってしまったらしい。


「……まぁいい。ここで消炭にすることに変わりは無いからな」


 一輝はそう呟くと、手にしている長杖に魔法を纏わせた。先端に青白い牡鹿の角があしらわれた身の丈ほどの杖が、神々しく輝いていく。

 途端、幸雄の魔道具職人の卵としての目が、直感が、その杖は桁外れな代物だと察知した。そして、背を向けて逃げることは不可能だと、幸雄は悟った。戦わねば。本気で挑まなければ、この男に殺されかねないと。


 素早く盾を構え、幸雄は一輝を見据えた。その姿に一輝は薄く笑みを浮かべる。


「海道家が引き継ぎし魔道具……『蒼角(そうかく)』の力、貴様で試してやろう」


 一輝が蒼角を幸雄へ向けた。対する幸雄は、唱えた。



「試作型拡張障壁『クロガネ』――起動!」


 自分が唯一誇れる()()()、その起動命令(キーワード)を。

 



久々の更新!

いま少しずつ書きためているところです。

この小説はちゃんと完結させたい!

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