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1.炎の夜


 ある夜の事だった。

 初老の男は、眼下に広がる惨状を眺めていた。街は燃え、車はひしゃげ、そして多くの敵と味方が地に伏しており、動く者はいない。男を除いて、そこには死が充満していた。


「はっ…放せ…」


 男の手の中で藻掻く存在が声を上げた。ああ、そうだった。まだ生き残りがいたと、男はその存在に視線を戻す。

 自分の腕の先、胸ぐらを掴まれた敵兵は、折れた四肢をばたつかせて藻掻いている。


「放していいのか?……この高さから」


 男は再び眼下を望む。敵兵が息をのむのが聞こえた。恐怖するのは当然だ。男と敵兵は、地上から数十メートルほど上空に、初老の男の魔法で浮遊しているのだから。

 男が魔法を解除すれば、二人とも落ちる。四肢が折れ、魔法を使う力も残らぬ敵兵には絶望しかなかった。


「しかし、派手にやってくれたな。お前達が放った広範囲破壊魔法のせいで、ここ一帯は焼け野原だ」


 二人の足下で、炎が吹き上がった。どこかが爆発したらしい。熱風が二人を襲い、敵兵は余りの熱さに絶叫するが、男は火傷一つ負わなかった。


「俺は、お前を生かすことも出来るし、この高さから落として、即死をさせず、苦しめて殺すことも出来る。……さあ、言え。お前らの飼い主は何処だ……()()()()()!何処の国の回し者だ!?」


 男は吠えた。今すぐにでも敵兵を放り落としてやりたかったが、情報は聴き出さねばならない。事実、このテロとも呼べる行為は世界情勢に関わるものだった。


「――……誰が、吐くか。殺すなら殺せ!この、世界の害悪め!」


 しかし、敵兵は口を割らなかった。

 その途端、男の顔から感情が消えた。

 眉一つ動かさない無表情。それが、敵兵が見た最期の光景だった。



    ※     ※      ※



 初老の男は、地に降り立った。

 辺りの炎は既に消えかけている。男が対極の魔法を用い、早急に消火したのが効いたようだ。

 しかし、被害は甚大で、所々に黒焦げの人の形が転がっている。敵も味方も全員、判別不可能に近い。


(あの敵兵、殺すべきでは無かったな……)


 男は自分の短気を恥じた。

 怒りの余り、殺してしまったあの敵兵だけが情報源だった。この有様では証拠となるようなものも見つからないだろう。

 しかし、奴等が与えた被害を考えれば、殺したことに後悔はない。

 奴等が焼け野原に変えた区画は、工業区画だった。軍関係の工場などが多いが、労働者の家族が住まう住居や労働者向けの飲食店なども有ったのだ。故に、戦闘の中心となった場所から離れるように歩を進めれば、黒焦げの兵士ではなく、そういった一般人の死体が増えていった。


 しばらく歩いたところで、男は一組の夫婦の死体を見つけた。

 夫が妻を守るように覆い被さっている。だが、気になるのは妻の方の姿勢だ。彼女もまた、何かを守るかのように丸くなっている。

 何故か、男の胸がざわついた。確認するだけだと、心の中で誰に向けたものでもない言い訳をしながら、夫婦のもとまで歩み寄る。そして、男は「すまん」と呟いて、夫を退かし、その下の妻も仰向けにしたその時――我が目を疑った。



 そこには、彼等の子供がいた。しかも赤ん坊だ。

 驚くべき事に、息をしている。事切れた母親の腕の中で、その子は眠っていた。


(あの業火の中を……奇跡だ)


 煤で汚れてはいるが、大きな怪我は無さそうだった。

 男は「さあ、おいで」と微笑み、赤ん坊を抱き上げる。その手に確かな温もりが感じられた。命の温もりだった。


「……よく守った。君達は素晴らしい親だ。後は、安心して眠りなさい」


 それから男は夫婦を隣り合わせに寝かせると、深々と頭を下げた。最敬礼だった。

 僅かに、夫婦が微笑んだように見えた気がした。

 




 そして男は、ゆっくりとその場から立ち去っていく。しっかりと赤ん坊を抱いて。



――東京都湾岸部・第7工業区画テロ事件は多数の死傷者を出したが、その場に居合わせた軍人達の活躍によりテロ集団は殲滅。被害を第7区画の半壊で抑えた。尚、このテロ行為について国際テロ組織の関与が疑われているが、依然として声明等は無く、現在も調査が続けられている。『200×年×月×日の帝国新聞より抜粋』――

初めまして。柴剣道です。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


昔から物語を書く事が好きなのですが、とうとう、なろうに投稿してしまいました!


稚拙な文ですが、楽しんでいただけるよう頑張って更新したいです(のろのろとですが汗)


今後もよろしくお願いします!

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