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大盾の学徒兵 ー大和魔法術学園 特別練成科ー  作者: 柴犬道
第二章・学園編(1年)
19/26

18.特練の昼休み

久しぶりに徒然なるままに書きました笑

のんびりマイペースでも更新していき、完結させたいと思います!




 大和魔法術学園の入学式から一週間が過ぎ、新入生たちも次第に学園に慣れ、いよいよ本格的な高校生活が始まった。

 大和人、獣人、留学生といった多様な生徒達が、俯瞰すると六角形状の校舎やその中心部にあるガラスドームの地下校舎、または外縁に広がる学園の施設に分かれ各々勉学に励んでいる。


 六角形の大和魔法術学園は、各頂点部分に六つの塔――北の“天の塔”から時計回りに“火の塔"・“爪牙の塔”・“大地の塔”・“水の塔”・“大樹の塔”――が建っており、辺にあたる部分は一階から三階まで各塔を繋ぐ廊下となっている。

 六つの塔の中でも、最も高い塔である“天の塔”へと入れば、そこは職員室や事務課、校長室といった生徒には肩身の狭い空間ばかりだ。

 この、生徒が好き好んで寄り付かない建物を三階まで駆け上がり、左右に伸びる回廊を右に進む。そして“天の塔”と、上空から見て右隣の“火の塔”を結ぶ廊下のちょうど中間地点まで来ると、そこにあるのが大鏡だ。

 この一見何の変哲も無い大鏡に見せかけた転移魔道具の向こう側は、学園の所有する広大な土地の端にひっそりと建つ小さな講堂へと繋がっている。

 そこに特別練成科――通称、()()の教室はあった。そして、本城幸雄を含む特練生徒八名も他の生徒と同様に……否、鬼気迫る集中力で勉学に励んでいた。


「――大和帝国軍の作戦行動及び魔法戦闘において最小単位となるのが、四人一組(フォーマンセル)。つまり、班!これ基本!忘れないこと!」


 教鞭を執る永田美樹の言葉の直後、教室である講堂に、カリカリとノートにペンを走らせる音が響く。各々のノートはかなりの文字や図で埋められ、配布されたプリントにも既に多くの書き込みが目立った。

 その内容を一般の生徒が見ればきっと驚くだろう。何故なら幸雄達は、入学一週間後にして通常よりも遥かに先のことを学んでいるのだ。

 特別練成科は、特殊カリキュラムとして普通魔法・魔道技術・医療魔法の三科全ての基礎を修める必要がある。たが、時には基礎とは思えない知識も叩き込まれていく。その為、授業の内容は通常よりもはるかに濃く、授業速度も速くなければならない。

 座学に多少の自信があった幸雄でも気を抜けば遅れてしまう程であり、深森剣や嶋翔子といった「勉強よりも実戦派」タイプを見やれば、既に考えることを放棄したのか、茫然自失としている。また幸雄の隣では、真一が受験の時のように『速度強化(ヴィント)』を腕にかけ、高速筆記で乗り切ろうとしていた。


「永田先生」

「美樹ちゃん先生と呼んでね。涼ちゃん、どうぞ」


 この授業速度に遅れずついていき、挙手して質問する余裕があるのは狩屋涼だ。眼鏡キャラという見た目を裏切らない聡明さと生真面目さである。

 ちなみに余談だが、数日前クラス委員長に立候補しており、まさに適任と言えた。


「……数日前に、クラスが四人一組の二班に分けられましたけど、もしかして関係しているのでしょうか」


 涼がそう言うと、美樹はパチンッと指を鳴らした。


「その通り!前に班分けをしたのは、この基本編成にするため。野外授業や戦闘訓練では、皆に今の班で行動して貰うわよ」

「あ~そういう班分けだったのか~」


 教室の右側、海道一輝の後ろで、自我を取り戻したらしい剣が独り言ちた。幸雄も同じ感想を抱き、周りを眺めた。


 現在、特練メンバーは二つの班に分けられている。それが縦二列に長机があるこの教室の左側に着席する、本城幸雄(ほんじょうゆきお)天道司(てんどうつかさ)鳥羽真一(とばしんいち)大熊和水(おおくまなごみ)からなる一班と、右側に座る狩屋涼(かりやりょう)海道一輝(かいどういつき)深森剣(みもりけん)嶋翔子(しましょうこ)の四名からなる二班だ。

 班分けされた時、基本ずっとこのままと言われたが、軍用編成に則っていたのだ。


四人一組(フォーマンセル)は軍人の基本だからね。班の連携がしっかり取れるように頑張りなさい!

 さぁ、次のページ行くわよー」


 授業が再開され、美樹がテキパキと苛烈な勢いで進めていく。

 幸雄は慌てて板書を追い、涼や他数名は涼しい顔をして説明に耳をかたむけ、剣と翔子は再び思考を手放した。そして、真一が魔力切れを起こしたその瞬間、授業が終わるのだった。



   ※   ※   ※



 濃密な午前を切り抜ければ、ようやく昼休みがやってくる。一時間ほどの束の間の休息だ。


「やっと、やっと午前中が終わった……。たべ、食べ物をくれ……」

「お前、最近毎日魔力切れだな。非常食くらい待ってこい」


 貧血に似た魔力切れの症状で真っ青の真一に、幸雄は鞄にいつのまにか入れられている菊江チョイスのお菓子を投げ渡す。「ああ!助かる!」と、真一は器用に片手でキャッチし、貪る様に食べた。「疲れた時は甘いもの」とよく言うが、これは魔力切れにも当てはまるらしい。効果の程は真一が実証してくれている。


「……ねえ、二人とも」

「ん?なんだ司?」


 そんな二人の後ろの席から司が声を掛けてきた。振り返れば、司の手には小さな弁当箱。そして、その背後には、校長の娘の和水が笑みを浮かべて立っており、なぜか重箱を抱えている。


「……和水、どうした?」

「幸雄くん!真一くん!」


 ドンっと机上に置かれる重箱。一目で高価なものだとわかる美しい蒔絵が施された五段式だ。

 そして、突然のことに唖然とする幸雄と真一に


「一緒にお昼を食べましょう!」


と、和水が笑顔で告げた。




 特練の教室である小さな――とは言えど、八人で使用するには十分大きい――講堂の扉を開け、普通に外に出ればそこは日差しが穏やかに降り注ぐ草原が広がっている。

 この草原は周りを雑木林に囲まれ、その向こう側に天の塔が見えている。つまり、校舎から離れているので人目や喧騒を気にする必要もない。

 そんな場所にレジャーシートを広げてしまえば、それ即ちピクニックだ。

 入試の時から縁のある幸雄達三人と同じ班になった和水が、より親睦を深めようと考えてのことだった。


「我が家の料理人が丹精込めて作ってくれました。沢山食べてくださいね!」

「す、すごい……これ!うまい!うまいぞ!」

「すげぇけど学校に持ってくる弁当じゃねぇよ。これ」


 幸雄達の前で和水が広げた五段の重箱は、旬の食材をふんだんに使い、絢爛豪華そのものだ。しかも食べ盛りの男子を配慮してか、揚げ物などガッツリとしたものも程よく、そして彩り良く添えられている。

 普段は購買で買い食いの真一が、美味しさのあまり感涙し、呆れながら箸をつけた幸雄もその旨さに驚いた。司もまた、一口食べ目を丸くしている。

 それから三人は我先にと箸を伸ばした。

 そんな光景を嬉しそうに眺めながら、和水がふと、感慨深そうに口を開いた。


「わたくし、中学ではこういう機会が無くて……それとあまり和気藹々(わきあいあい)とした所でもなかったので、この様な『みんなでお弁当』に憧れてたんです! 夢が叶いました……!」


 天を仰ぎ恍惚とする和水。

 そんな彼女に対して幸雄は「よかったな」と笑い、ちゃっかり唐揚げ五つ目の司が「大げさ……」と呆れ、口一杯に頬張った真一が言葉にならない声を出した。おそらく「これが食えるなら毎日ピクニックでも良い」とでも言ったのだろう。

 その様子に和水がまた嬉しそうに笑い、四人は穏やかで楽しい時を過ごすのだった。




「お〜、楽しそうだね〜」

「うまそうなもん食ってんなー!アタシにも食わせろー!」


 昼休みも半ばを過ぎ、幸雄達がのんびり駄弁っていると、小柄な剣と獣人で大柄な翔子という凸凹(でこぼこ)コンビがふらりと現れた。

 この二人はどちらも地方出身らしく馬が合うのか、よく行動を共にしている。


「よう二人とも。涼とのお勉強会は終わったのか?」

「さっきようやくね〜」

「涼は鬼厳しいからな。今まで飯も食えなかった」


 幸雄がそう聞くと、二人はげんなりとした顔で答ながら、四人の輪に加わった。二人とも午前中の授業でぼんやりするのを涼に見咎められ、ここ数日、昼休みに復習させられていたのだ。

 すると、昼食を摂っていないという翔子の言葉に驚いた和水が重箱をすすめて言った。


「涼ちゃんは、真面目な人ですからね。でも、二人の為を思ってのことですよ。……一輝くんも一緒だったんですか?」

「いいや〜。一輝は『俺は教えを乞う程馬鹿ではないし、教えてやる暇も無い』とか言ってどっか行っちゃうんだよ〜。一緒に昼食を摂るって考えも無いみたいで〜」


 剣が「協調性が無いな〜あの御曹司」と嘆くと、不本意ながら許嫁の司が「彼は昔からそうだから気にしない方がいい……」と呟き、中学から同級生の和水も彼は冷たい人だと苦笑した。

 それを聞いて翔子が豪快に笑った。


「昔っから気障(きざ)なのかよアイツ! おい幸雄、知ってっか?あいつ、自慢の技でお前に火傷一つ付けられなかったの相当根に持ってるぞ」

「うわ、まじか……」


 それを聞いて、ため息とともに幸雄は項垂れる。模擬戦以来、無視はされるし、目が合えば睨まれるので何となく察していたが、一輝はやはり幸雄を目の敵にしているようだ。


「あの時、何もした覚えが無いのに……最悪だ」

「その『何をしたか分からない』ってのが、余計腹立つんだろうな!マグレか実力かどうかも分からねぇから!」

「本当に何もしてないのか幸雄?」


 真一が最近何度となく繰り返された質問をする。しかし、幸雄は困ったように頷くだけだ。


 ――無理もない。いまだ、幸雄は自分に『自動発動型魔法』という稀有な能力が備わっているなどとは、つゆほども思っていないのだから。


(俺があの時――『火牛の計』をくらった時、一体何が起こったんだ……)


 自分が無傷であった理由を知るには、自分のことをもっと理解しなければ。その為には、あの場を見ていた人物……特に、知識も経験も豊かな人物に話をしなければならない。

 幸雄はそう思案していた。



「――まあ、精々気をつけなー。近いうちに戦闘訓練始まるらしいし。 一輝はやり返しに来るぜー」


 難しい顔をして悩む幸雄に、翔子はにやりと笑いかけると、肉の最後の一切れを口に放った。



読んで下さってありがとうございました。


コーヒー豆を自分でひいて飲むのが好きなんですが、酸味抑えめだけど奥深い味のある豆ってありますかねぇ。

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