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大盾の学徒兵 ー大和魔法術学園 特別練成科ー  作者: 柴犬道
第二章・学園編(1年)
15/26

14.模擬戦③

お待たせしました。

14話です

 

「狩屋くんは勿体ないなぁ。あれだけたくさんの魔法が使えるんだから、落ち着いて戦えばもっといい線いったのに……まぁ、今はゆっくり寝かしておいてあげようか。それにしても、流石、入試一位の天道くんと言ったところだね。見てて面白かったよ。特に金属系魔法の構築速度には、目を見張るね。私より早いんじゃないかい?」


 司と涼の模擬戦は、司の勝利で幕を閉じ、大熊による批評が始まっている。

 司はいつもの無表情で校長と相対しており、一方、涼は魔力切れによる気絶で観覧席の一つに寝かされていた。


 そんな光景を尻目に、幸雄は目の前の少年を見やった。

 幸雄の前、強化ガラスに寄りかかって立ち、切れ長の目で幸雄を見下すように眺める少年は、一輝(いつき)である。

 両者の間にはあまり友好的とは言えない空気が流れており、幸雄の隣に座る真一が、気まずそうに二人の様子を窺っていた。



「……海道、お前何が言いたいんだ?」


「そんな怖い顔するな。質問しているだけだろう?」


 目の前の一輝が、片方の口端をつり上げて冷笑した。


「もう一度言うが、小さな疑問だ。昔から他人にほとんど興味を示してこなかった(あいつ)が、何故か貴様には興味津々。それは何でだ?」


「さぁな。……俺が『魔力なし』だからじゃないか?」


「ほぅ……それだけか?」


「……親しくしてるとは言え、司と会うのは二回目なんだ。俺が分かるわけないだろ」


 幸雄はぶっきらぼうに答えると、一輝から顔を背けた。

 面と向かうと、見下されている様な、値踏みされている様な気がして居心地が悪いのだ。


 ところが、背けた視線の先には、次の模擬戦の準備をする嶋翔子(しましょうこ)がいた。

 彼女は特別練成科唯一の“獣人”であり、男子に負けないすらりとした長身に、“人”の同年代の少女よりもメリハリのある身体をしている。さらに目を引くのは、ショートカットの頭部、こめかみより少し上辺りに生えた丸味を帯びた三角形の耳――つまり“猫耳”と、張りのある腰から伸びる茶毛に黒斑模様の“尻尾”だ。

 獣人の最大の特徴である動物の肉体が、幸雄の視線の先でゆらゆらと機嫌良く揺れており、それに合わせ、早くも短く改造された制服のスカートが捲れ、健康的な褐色の太股を晒すものだから、結局、幸雄はいたたまれない気持ちになっていた。


 しかし、それもすぐに終わった。



「――知りたいんだよ……()()()()()()


「……は?」



 一輝の言葉は突然で、呆けていた頭では、すぐに理解が出来なかった。

 翔子から一輝へと視線を戻せば、彼はまた口元を冷たく歪めた。


「聞こえなかったか? 天道司は()()()()だ。試合中に『深い仲だ』って言ったろう。 ……許婚が男と仲良くしてるんだ、知りたいじゃないか、なぁ?」


 幸雄も真一も、開いた口が塞がらなかった。目の前の一輝とあの司が許婚同士という話がすぐに飲み込め無かったのだ。

 反対に、一輝はその様子を見て、ますます冷笑を強くする。その顔は一泡吹かせたことを、喜んでいる顔だった。


(……何なんだよ、こいつ)


 先程から煽ってくる一輝に、幸雄の中でふつふつと苛立ちが湧いてくる。

 幸雄が唇を引き結んで、きっと一輝を睨み返したその時――


「――一輝、二人に変なことを吹き込むのは止めて……!」


 一触即発とも言える雰囲気に凜とした声が響いた。


 司だ。


 いつの間にか大熊校長の批評は終わっていたらしく、何やらきな臭い雰囲気の一輝と幸雄を見て、急いでやって来たようだった。

 司は幸雄の前に割り込むようにして、一輝に詰め寄った。


「……まだ、家が勝手に決めた結婚なんて古い話をしてるの? ……この時代に家柄で結婚なんて、非生産的よ」


「はっ! 何が『非生産的』だ。相変わらずだな司。お前は海道家と天道家が結びつく意味を全く理解していない!」


 呆れたように見つめる司の鼻面に、一輝は指を突き付けた。それに気を悪くしたのか、司の無表情が僅かに険しくなる。


「止めて……また、『両家の発展と強き力のため』なんてことを言うつもり?」


「それが重要だと何故分からない? 海道と天道、この二つの血筋が合わされば両家の地位はより確固たるものになる。軍の力もさらに増すだろう。この国を護るより強い力が生まれるんだ! お前に護国の精神は無いのか!?」


「私は私のやり方がある。家の道具みたいになるつもりは無いの……! そうやって私を馬鹿にしないで……!」


 どうやらこの二人、許婚というのは本当らしいが、幸雄が想像していた程仲が良いわけではないらしい。目の前で言い争う様子は、許婚というよりも、犬猿の仲という表現が適切に思えた。

 それからしばらく睨み合った後、先に痺れを切らしたのは一輝の方だった。


「ふん。お前と言い争っても拉致があかない。

 ……いいか司。何が最善かもう一度考えておけ……!」


 一輝は突き付けた指で司の額を弾くと、観覧席の出入口へと向かって行く。そして、扉に手を掛けると思い出したかのように幸雄を振り返った。



「ああ、そうだ。本城幸雄、お前もそろそろ試合の準備をしとくといい。……次の試合は()()()()()()


 精々楽しませてくれと口角をつり上げて一輝は笑う。それを幸雄は黙って睨み返した。


 ――喧嘩事は苦手だが、何故か一輝との模擬戦は負けたくないと強く思った。


 一輝は小さく鼻で笑うと、そのまま扉を乱暴に開け放つ。

 彼が立ち去るのと大熊校長の「試合開始」が響くのは、ほとんど同時だった。



 ※     ※     ※



「――もう一度自己紹介だったよな? アタシは嶋翔子! えーっと、あんたは確か……」


大熊和水(おおくまなごみ)です。よろしくお願いしますね」


「そーだそーだ!和水だ! ……あのさ、和水はさぁ、()()()()なんだろ? 強ぇ魔術師の娘なんだから、やっぱ強ぇんだろうなっ! 負けねーぞー!」


 翔子は魔力を纏い、全身にみなぎらせ、拳を構える。


 ――女子第二試合 大熊和水 対 嶋翔子


 翔子はこの模擬戦にワクワクしていた。

 国内最高と呼ばれる学園のトップに立つ魔術師の娘という強敵と戦えることが、嬉しくてたまらない。

 翔子の血気盛んな性格に、獣人本来の戦闘本能の強さも相まって、今の翔子は血を見て昂ぶった獣のようであり、その魔力は通常よりも高くなっていた。

 しかし、その集中は「翔子ちゃん」という和水の呼びかけに少し乱された。


 翔子が出鼻をくじかれた気分で和水を見れば、何やら申し訳なさそうに彼女は言った。



「あの、ごめんなさい……わたくし、乱暴なことは得意では無いので……多分、すぐに終わらせてしまいます。中学の知り合いにも、早く済ませとせっつかれていますので……」


「えぇ!? わざと負けるつもり!? 止めてよ、そんなんつまんねーじゃん!」


 折角楽しくなりそうなのに、と翔子は吠えた。

 全力でやらねば意味が無いと嘆いていると、意外な言葉が返ってきた。


「あっ、勘違いさせてしまってごめんなさい! ()()()()()()()()です。あまり時間を掛けると、知り合いがうるさいので……できれば、始めから全力でお願いします!」



「……ハハッ! ハハハハッ!」


 思わず翔子は笑った。あまりにも馬鹿にしていると。


「舐めたこと言ってくれんじゃん。じゃあ、お望み通り……全力な!!」



 試合開始の合図と同時に、翔子は地を蹴った。


 基礎魔法『筋力強化(フェルシュテルクング)』で強化された脚力により、翔子は一歩で和水を間合いに捉える。その速さは真一に負けずとも劣らない。続けざま、彼女は握りしめていた拳を渾身の力で振り下ろした。

 もとより強力な獣人の腕力に、一部の筋力と耐久性を跳ね上がる『筋力強化』が合わされば、その破壊力は岩を砕き鉄を穿つ程の怪力となる。

 これが、翔子の強み。幸雄たちとは別会場で入試早々に()()()()()()()()()()()()怪力だ。



 拳はうねりを上げて、和水を殴り飛ばす――



「具現魔法『催眠(ヒュプノーゼ)』」



 ――はずだった。



 振り下ろされた翔子の拳は、和水に届くこと無く空を掻き、模擬戦場の床に食い込んだ。

 目測を誤ったわけではない。和水を狙ったが、何故か直前で大きくバランスを崩したのだ。

 翔子はもう一度殴りかかろうとするが、耐え難い強烈な眠気に視界が揺れ、歩くことすらままならない。


「く、そっ……んだよ、これ……」


「翔子ちゃん」


 翔子は膝を着いた。視界は大きく揺れ、手足から力が抜けていく。

 和水が視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。


「……おやすみなさい」


 そして女子第二試合は、開始から僅か数秒で終わった。



 ※     ※     ※



 幸雄は模擬戦闘場へと足を踏み入れた。

 場内の中央では、一輝がしたり顔を浮かべ、たたずんでいる。その顔には「俺の言ったとおり、すぐ終わったろ?」とでも書いてあるようである。

 その顔を見据えながら中央まで行くと、一輝が口を開いた。


「やっと来たか『魔力なし』の本城幸雄。……せめて一分はもってくれよ。軽く加減してやる」


「大した自信だな……お前が負けても文句無しだぞ?」


 幸雄も負けじと言い返せば、一輝の表情が苛立ちに歪んだ。


「はっ……減らず口をたたくな」


 一輝の魔力が昂ぶり、魔法が構築され、すぐ放てるよう留められた。準備完了というわけだ。

 対して、幸雄は深く息を吐き、左足を半歩引いて腰を落とし、拳を構え、さらに魔力タンクである指輪から魔力を引き出して腕に纏わせた。朝の訓練で人形に拳を打ち込む時の構えである。

 腕に纏わせた魔力はいくらか体表を硬質化させる程度のもの――敢えて言うならば、基礎魔法『硬化(シュヴェール)』にあたるが、硬さは大分劣る――である。これが、幸雄の精一杯の戦闘態勢であった。


 すると、張り詰めた空気を察した校長が言った。


『……二人とも準備万端みたいだね』


 カウントが始まる。

 二人の間だけでなく、観覧席から見守る司達の緊張も高まっていく。



『……試合開始!』


 駆け出す幸雄。

 最終試合、幸雄と一輝の模擬戦の火蓋が今、切られた。


第14話を読んでくださり、ありがとうございました!

 少し早いですが、メリークリスマス笑


 二千字越えてくると自分で「長ぇ」って混乱してくるんですよね。不思議だ。


 それにしても、クリスマス周辺はケーキ屋さん大忙しなんでしょうね。後で売り上げに貢献してこようと思います笑


 次回は、幸雄VS一輝の本番。じっくり書きたいと思います。

 では、また次回に。

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