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大盾の学徒兵 ー大和魔法術学園 特別練成科ー  作者: 柴犬道
第二章・学園編(1年)
11/26

10.特別練成科

10話です

 

 司は幸雄を連れて、小さな講堂――と言っても、一クラスの教室として使うにはかなり大きい――の見物を再び始めた。先程、幸雄が入ってきたときも見物の途中だったからだ。講堂の下手(しもて)側の隅、薄暗い円柱状の空間があり、そこに置かれた巨大な本棚を司が見上げているちょうどその時に幸雄が入室したのである。

 幸雄が最初、司に気付かず、突如背後を取られた様に感じたのも、司が死角となる場にいたためだ。


 しばらく司がきょろきょろと見て回るのを幸雄は追う。すると、講堂内を半周したところで司が一本の柱の前に立ち止まった。


「ここの装飾が珍しい。見たこと無い」


「装飾彫刻……好きなのか?こういうの」


 幸雄が訊くと、司は柱の装飾彫刻から幸雄に視線を移し、こくりと頷いた。どうやら本当に建築や彫刻が好きらしく、表情こそ変わらないがその目は輝いている様に見える。無趣味人間と思っていた分、意外だった。


「これ……陣彫りだな」


「陣彫り……?」


「そう、陣彫り。魔道具を作るときに魔法陣を彫るんだけど、この柱のはその古い形に似てる。多分……火除けとか魔除けとかまじない的な意味が強いな」


 柱に施された彫刻は、かつて正幸が見せてくれた陣彫りによく似ていた。完全に受け売りの知識だが、幸雄が指し示して、事細かに厄除け用の陣彫りについて語ると、司は興味深そうに何度も頷いて聴いていた。それが何だか楽しく、幸雄の説明にも熱が入った。


 それから後は、あれは何だこれは何だと尋ねる司に幸雄が分かる限り答えるという形で、再びぶらぶらと歩き回る。その様子は傍から見れば、文化財を見て回る学生のカップルそのものだ。またいつの間にか距離が近く、説明をする際は肩がぴったりくっつくほどになっているのだが、夢中な二人は気付かなかった。


「ねぇ、これは?」


「ああ、それは……」


 そして、また別の彫刻を説明しようとした時だ――。


「お待たせー!一々戻ってくるの面倒くさかったからまとめて連れてきちゃった~!……あら、お邪魔だった?」 


 ――残りの生徒を引き連れた美樹が、勢い良く鏡から飛び出して来た。直後、彼女は二人がぴたりと寄り添っているのに気付きニヤニヤと笑った。

 美樹のからかいで、初めて自分達の距離に気付いた幸雄と司は飛び退くようにして離れ、ばつが悪そうにそっぽを向いた。



 ※     ※     ※



「――はい、注目!ホームルーム始めるよー」


 講堂に美樹の声が響く。

 それに反応するのは八人の学生。二人だけだった教室に、今や美樹がまとめて連れてきた六人が加わった。その中には、もちろん真一もいる。


「さぁて、一応もう一度自己紹介させてもらうわね。私は、永田美樹。『美樹ちゃん先生』って呼ぶこと。ちなみに独身、彼氏募集中、年齢は訊かないこと!今日からここ特別練成科の担任です。よろしくね!……で、この中には特別練成科のことなんか何にも知らないし、希望したわけでもない所に振り分けられて混乱してる人もいるでしょ?それを全部、今から一回説明するから、しっかり聴いてね!」


 軽いノリの自己紹介に力が抜けるが、これから聞かされるのは大事な内容だ。幸雄は居住まいを正した。同じ長机に座る真一も、幸雄に倣って説明を聴き損ねないよう集中する。

 美樹は八人の視線が自分に集まるのを感じ取ると再び話しはじめた。


「……では、まず初めに『特別練成科とは』からいこうか」


 美樹はチョークを手に、「特別練成科とは」と板書する。


「それは読んで字の如く、『特別に練成する科』。所属生徒に通常カリキュラムとは異なる特別な授業・野外活動を行い、突出したレベルまで鍛え上げ、各方面の最前線で活躍する人材の育成を目的としています。つまり、君達は学園が選んだ()()()()()()()()なのよ」


 黒板に、「高度な教育」と「特別な人材」が書き加えられる。さらに何本か線が引かれ、その先に「軍部」、「医療」、「政治」、「魔道具開発」、「魔法研究」……と様々な分野が足された。

 すると、利発そうな眼鏡の少女が手を挙げたが、「後でまとめて聴くわね」と美樹は言い、先を続けた。


「次に『特練の長所(メリット)』についてね。特別練成科……通称、特練で学ぶ長所を大きく分けるとして四つ、言わせて貰うわ。まず、一つ、『他の三(コース)よりも設備の使用制限が緩い』こと。特練はその性質上、他の科より施設利用や資材提供、情報閲覧といった面で優遇されるわ。実験段階の訓練機能を使ったり、特別資料を閲覧したり、工房を借りたり……自分を高める為なら大体のことが容認されます。他の科だと結構申請が手間なのよねぇ」


(……それいいな)


 幸雄の心で特練と技術科の天秤が僅かに傾いた。魔道具職人の孫として、工房や様々な資材が使えるのは願ったり叶ったりだ。

 他の何名かも、興味深そうに頷いていた。


「二つ、『卒業後は本人の望む職務、進路を提供する』。嘘みたいだけど本当よ。特練を出た者は校長の推薦状付きで望む場所に行けます。士官、研究者、官僚……なんでも。即戦力としてね。そして、三つ、『海外研修』があるわ。友好国の魔法研究や魔道具開発の研修が可能で、見聞が広がるの。良い経験になるわよ~これ」


 一つ目の長所ほどではないが、海外の魔道具開発を学べるというのは幸雄にとって気になるところだ。心の中の天秤がカタンと音を立て、また特練側に傾く。

 一方、隣の真一は「望む職務……なんでも」と真剣な表情で呟いていた。どうやら真一にとって願ってもない良い話らしい。その目は爛々と輝き、意欲に燃えていた。


「えー最後に四つ、まぁこれは当たり前だけど『元々希望していた科よりも広く深く学べる』ことね。特練の授業は学園でもかなり特徴的よ。座学は枠に捕らわれず様々なことをやるし、適性がある部分は徹底的に伸ばす。さらに、普通はしないような野外活動も行って、全ての分野の底上げと得意分野の強化を計るの。つまりは、普通魔法も医療魔法も魔道技術も全部ある程度学んだ上で得意を伸ばせるってことね」


 美樹はチョークを走らせる。四つの長所の要約が黒板に端正な文字で記されていき、最後に句点が力強く付けられた。


「――はい、ここまでで質問は?」


 一瞬の静寂。

 幸雄は手を挙げた。


「はい、どうぞ?」


「もし、魔道技術科に入りたいって言ったらどうなりますか?移れます?」


「へ?」


 美樹は目を丸くした。それも当然だろう。これだけメリットがあるのに、それを蹴って他の科に入れるかと質問する生徒など、普通はいない。美樹は慌てて手元の資料を確認するが、そんな前例や該当項目は無かった。


「あ、えと、ごめんね……前例が無いからどうなるか分からないなぁ……特別練成科、いや?」


「別に……。ただ、憧れが魔道技術科だったんで気になるというか……」


「あー、でもあれよ!特練なら魔道技術科よりも詳しく学ぶことだって出来るし、何か作りたいとき簡単に工房や工具を借りられるわよ!?」


「んー……」


「ほ、ほら!その方がより腕の良い魔道具職人になれるわよ!あなたのお祖父さんを越えるような!」


 幸雄を何としても引き留めようと、美樹は生徒情報から知ったものを並べ立てた。

 どうして美樹がこんなにも必死で特練に引き留めようとするのか、理由は単純。大熊校長に八人全員を特練で育て上げるよう厳命されているからだ。

 あの笑顔の下に何を考えているかは知らないが、この厳命が果たせなかったとしたら、教育者としての美樹の信用は地に落ちるだろう。それに、広く顔が利く大熊のことだ、悪評を振りまかれでもしてみろ。再就職など出来ないし、婚期も遠のくのは間違いない。それだけは避けねばならなかった。


「……爺ちゃんを越えられる?」


 そして奇跡的に、美樹の「祖父を越える」という言葉が幸雄を惹きつけた。


「そ、そうそう!絶対越えられる!」


 幸雄の脳裏に昔の自分がよぎる。『魔力なし』と馬鹿にされ虐げられた自分だ。それを救ったのは正幸と彼が作った指輪。今の自分は祖父がいたから成り立っていると言っても過言ではなかった。

 幸雄にとって正幸はヒーローであり、師であり、目標だ。


(それを越えられる……)


 幸雄の中で欲求が燃え上がった。正幸を、目標から()()()()()()と考えたのは初めてだ。だが、凄まじく胸が震えた。

 メリットを聴いたときの真一の様に、幸雄の目にも爛々としたものが宿る。心の中で天秤が大きく傾き倒れる音が聞こえた。


「――美樹ちゃん先生」


「ん!?なに?」


「……このまま特別練成科でお願いします」


 幸雄は、特別練成科に行くことを決めた。その目には祖父を越えるという強い意志が爛々と輝いていた。

 

 第十話を読んで下さりありがとうございます。

 特別練成科について若干の説明回でした。


 次回はちょっとアクション系になるつもりです。


 なんだが、書き方が自分の中でしっくりきてないです、時間がかかってしまうかも知れませんが、じっくり自分のやり方と向き合ってみたいと思います!

では、また次回に。

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