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銀河ラジオ

作者: 茶無

 兄がこの惑星(ほし)を出たのは、もう7年も前のことだ。



 田舎星であるこの星は稀少物質採掘で栄え、その枯渇とともにゆっくりと衰退していったと歴史の先生は言う。

 流体重力素は現代の恒星間航行に不可欠な物質で、今はとなりの恒星系で純度の高いのが豊富に採れる。この星の採掘衛星も200年も前にとっくに掘り尽くされて望遠鏡で見るとスポンジみたいだ。おかげで宇宙開拓史の初頭に名前が挙がるこの星は『限界惑星』として人口減少に喘いでいる。

 人口は10億人に満たないけど、自然豊かで良い星だとみんなは言う。

 これからの時代を築き故郷を背負って生きろと言うのは、畑で大根を育てる我が父の弁。

 兄は、この惑星を出て行った。


 ミュージシャンを目指していた兄は頑固者の父に殴られた勢いをそのままに、都会(ちきゅう)へのパスと古いマルチタービンギターだけを持って宇宙船に乗ってしまった。

 銀河中の人々に自分の音楽を聴かせてやるんだっていつも言ってたっけ。

 その兄から、先週メールが来た。



『 驚けよ! にーちゃんの歌が銀河ラジオで流れるんだぜ! 』



 あの日この星を飛び出した、私のお兄ちゃんは、

 とうとう、全宇宙にデビューを果たしたのだ。





 『The Galaxy Radio』

 その名の通り、銀河に響き渡る音楽番組。

 銀河の田舎のこの惑星にも届く、全宇宙向けの音声放送だ。


 ワープ通信の中継基地を経由して銀河中の星々に音楽を届ける。

 兄の歌を、銀河中の人々が聴く。

 地球から15光年以上も離れた私たちの町にもその歌が届く。

 ………ただし39時間遅れで。


 兄のデビューに、母は喜び父も大興奮。

 せっかく放送を聴くための機材を新調したというのに、放送日を待つ間にイジりすぎて壊してしまった。パパの機械オンチ。

 私だってお兄ちゃんの歌を楽しみにしていたのに。私のラップトップでも放送は聴けるけど、パパには使わせてあげない。

 きっとあの日兄を殴ったバチが当たったのだ。録音だけはしておいてあげる。


 1日半遅れの放送の日、私は誰よりも早起きだった。

 私は海沿いのアンテナ基地に行くことにした。

 

 朝から自転車で3時間ちょっとの基地に来たのは小学校の遠足のとき以来だ。

 昨日の雨で空気は澄んでるけど、空にはまだ厚い雲が居座っている。

 この惑星(ほし)で一番のアンテナ基地。規模はすごいけど設備は年代物。

 天気が悪いと受信が滞る。……なんてことはないとは思うけど。


 ここがこの惑星(ほし)で一番、電波の感度が良い。



 本日の天気は、曇りのち晴れ。

 予報では昼頃にこの空は晴れる。



 この厚く暗い雲はお昼には居なくなる。

 空気は澄んでいるのだ。コンディションは良好だ。

 ラジオの放送はお昼過ぎ。それまでに晴れてくれればいい。


 先にお弁当を食べておこう。海鳥たちと一緒にサンドウィッチを頬張りながら、ラップトップを広げてヘッドホンを被りチャンネルを合わせておく。

 大きなパラボラアンテナの側で、そのときを待つ………






挿絵(By みてみん)








 やがてヘッドホンから聴こえてくる。

 『銀河ラジオ』の放送がはじまり、

 陽気なDJの声が、最新のヒットナンバーを紹介して、


 お兄ちゃんの歌が、

 銀河に向けて、ワープする。












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― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして。 説明的でない文章の雰囲気が好きです。 私には書けない、美しい作品だと思いました。 ありがとうございました!
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