親友との別れ
少女の意識が遠のいていく…。
彼女が見たのは涙を浮かべ、悲壮的な顔をした親友の少女の姿。
「…死んじゃやぁ!!舞ー……」
ああ…。私、あなたにそんな顔してほしくなかったーーー
ーーー雪の降る日、平凡な一人の少女の人生は幕を降ろしたーー
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『こら!舞~!早くしないと電車遅れちゃうでしょ~!!』
「う~ん…あと3分だけ…」
私の名前は蜩 舞華。ごく一般の家庭に産まれ、全日制普通科の高校に通っている女の子である。
「いい加減にしなさい!いつもそうやって起きないじゃないの」
母、蜩 藍那は一般企業に勤めている。父は既にこの世を去ったが、今は母の稼ぎと私のコンビニのバイトで家族は生活している。
「あと3秒以内に出て来ないと…「はい!はい!起きたから!」よろしい」
ちなみにこの3秒に1秒でも遅れた場合、おやつ1週間抜きにされる。母の趣味はお菓子作りで、たまにお隣さんや私の友達に渡している。母が作るマーマレードは反則的な美味しさである。
「早く顔洗ってきなさいね」
「は~い」
★
「おはよう!」ワッ
「きゃ!?や、弥生!驚かさないでよ~」ホッ
ごめんね~、と謝る彼女。私の幼なじみで親友である出雲 弥生である。何故か私、蜩 舞華を見ると驚かせたがる。
「もう…今日は提出で生物のレポートがあったよね?ちゃんともってきた?」
「」ガンメンソウハク
「うん、知ってた。昨日メールでも連絡したんだけど」アキレ
顔が蒼白している彼女、出雲 弥生は高校では成績はそこそこいいものの、極度の忘れ物屋なのである。ちなみに、一緒の高校に通っている。
「どど、どうしよう!家に戻って取りに行ってこないと!」アセ
「今から取りに行ってたら電車間に合わないよ!生物今日の昼休み後の5時間目だから私の写しなよ!!」アセ
「舞!ありがとう!私の救世主!」パアア
「…調子いいんだから、もう…」テレ
弥生の笑顔は凶器だ。不意にこの笑顔をされると同性の私でもドキッとしてしまう。
私たち二人は今日も平常運転である。
★
朝、学校に登校し弥生と一緒に教室に入る。弥生ではないが忘れる前に私の書いたレポートを渡す。弥生の笑顔が眩しい。
昼、弥生と一緒に昼食を食べる。私たちの学校は給食はやっていない。今時の高校で給食をやっている学校はあるのだろうか?
弥生とお弁当のおかずの交換をしたが、弥生のお弁当は自分で作っているらしい。私もやってみようかな。弥生に女子力で負けたような気がする…。私の母、蜩 藍那が作ったおかずを食べた弥生の笑顔は眩しかった。母はお菓子作りも料理も上手い。
放課後、弥生は部活があるが、私、舞華は駅前のコンビニでバイトをするため、ここでお別れだ。
「じゃあね!また明日!」
「またね、部活がんばるのよ~。」
「舞こそバイト頑張ってね!」
私たちは校門前で別れた。弥生は部活で三年生が引退し、剣道部の部長の立場で部活はほぼ毎日、サボらずにしている。
私は父が死んだ年、高校生になってからバイトをしているが中学生の頃は弥生と剣道をしていた。冬の稽古ってすごく大変だったな…。
★
「お疲れ様でした~」
バイトが終わり、帰宅する。バイトをしている時に気付いたが少し小雨が降っていた。私は寄り道をすることにした。
「…あれから二年か…。お父さん…」
父のお墓である。少し離れているが、私はよくここに来ている。今日は学校の話、友達、弥生の忘れ物の話もした。そんなに長くはなかっただろう。いつの間にか、小雨は雪に変わっていた。私はいい加減、寒いので帰る事にした。
★
帰り道、私は駅の近くまで戻りいつもの道まで行った。道の傍らには、人は居なかったが、工事中なのであろう、小さいビルが立っていたのが見えた。
その時、私は前方にかがんでいる弥生の姿を見つけた。何故この時間にかがんだ体勢で弥生がいるのか、私は不思議に思ったが、声をかけようとして…止めた。
ーーー弥生にいつもの驚かせの仕返しでもしてみようーーー
幸い、弥生はこちらに気付いていなかった。私はすり足の要領で足音を消し、近くの電柱の影に、弥生の死角をついて潜りこんだ…。
その後、影から様子を見ると、弥生は捨てられているのだろう黒猫を眩しい笑顔で撫でていた。夜中なのに弥生の笑顔だけ輝いて見えたのは私だけだろうか。
…それにしても、私と弥生の今の図は他人から見たらすごく怪しい構図である。覗いているのが少女ではなく、男の人だったら即通報ものだろう。少女がそうしてるのもいろいろと怪しいけど…。
誰かに見られては面倒になりそうなので早めに行動に移すことにした。弥生の死角を突き、電柱に潜んだように、すり足の要領で近づいていく。
そして、弥生に後一歩…。
「あっ!ねこさん!」
「!」ビクッ
弥生が立ち上がったが、弥生の手から黒猫が逃げただけだった。弥生に気づかれたかと思ったよ…。
「逃げちゃった…」シュン
今、弥生は黒猫の逃げた方向に意識が向いている…。チャンスである!この機会を逃す訳にはいかない。心を落ち着かせて…1・2・3・5・7・11…。違う。なんで私は素数を数えているんだ…。1って素数じゃなかったし。とにかく一歩を踏み出さないと…。弥生っていつもこんなことを私にしてたんだ…。素数は数えてないだろうけど。すごく緊張するよ…。
私は、決心して一歩を踏み出して…。
「キャア!!?やめて下さい!!警察呼びますよ!!!」ビックウウ
「いや!私だから!見て!警察呼ぶのはやめて!」ナンデェ!?
「やめて…!!舞…?」キョトン
「あなたの幼なじみの蜩 舞華だよ!」
「ビックリしたよ…。舞にやられるとは思わなかった…。」
「ごめんね、やって少し後悔してる…」
幼なじみの親友に半分涙目で警察を呼ばれそうになった…。本当にごめんなさい…。でも…普段弥生の涙目とか見たことないから新鮮だ。
「でも、普段弥生の涙目とか見たことないから新鮮だね」
「…本当に後悔してる?反省してる?」
…いけない。心の声が表に出てしまった…。
「…でも、弥生も普段から私の事驚かせてるから、おあいこだよね…」ボソ
「う…」ウグゥ
普段から弥生も驚かせてくるから、仕返しとしてはこれで充分だろう。
「…分かった。今回ので、今までの驚かせた分は帳消しだね…。」
「ふふ…。仕返し成功だね!」
「だけど、明日から覚悟しておいてね!」ビシッ
「なんで!?」ェェェ?!
これまで弥生がイタズラ半分でやってたのに、これ以上驚かせられたら私の心臓は多分もたない。
…でも。今、この時、雪が降っているこの時。私と弥生は、とても楽しく二人の時間を過ごしていた。それだけで私たちはとても幸せだった。
「「あはははははっ!!」」
私は思う……弥生が友達で本当によかーーーガラガラララガラ!!ーーーーーーーえ?
刹那。上を見る。暗くてよく見えないが、私は夜目が利く方である。
弥生がかがんでいる時に気づかれなかったのは、その体勢のせいでもあるだろう。それでも暗い中、かがんで身を小さくしている人物を特定するにはそれなりの目が必要だった。
鉄骨が真上から落ちて来るのが分かった。いや、正確には工事中のビルの近くであること、落ちてくるときの金属音、それと落ちてくる物体が僅かに光を反射したから鉄骨だと分かった…。いや、分かってしまった。
ーーーーーーーーーーードンッーーーーーーーーーーーー
私は咄嗟に弥生を突き飛ばした。恐らく弥生は同じように上を見ているだろう。しかし、私ほど夜目が利きはしないだろう。いや、仮に私と同じ位、あるいはそれ以上夜目が利いていたとしても…そう私が思って違ったら。この行動を起こさなければ直ぐそこまで迫って来ている鉄骨に押し潰されてしまい、どちらも死んでしまうのだから。
『せめてーーーーせめて弥生だけでもーーーーーーーーー』
☆
私、出雲 弥生は今日もいつもどうりの一日を送っていた。
朝起きてお弁当と朝ご飯を作り、少しつまみ食いして、お母さん、出雲 真紅と朝ご飯を食べてから家を出て電車に乗って登校する。お父さんは私が起きる前には会社に出勤している。冬は朝の稽古が無いので少し長く寝ていられる。
「きゃ!?や、弥生!驚かさないでよ~」
登校の途中で私の幼なじみの親友である舞華、蜩 舞華を驚かすのを忘れておかない。身体が反応してしまうからしょうがない。舞華今日もビックリしてる。ふふ。
「もう…今日は提出で生物のレポートがあったよね?ちゃんともってきた?」
やだなぁ、舞ったら。今日はちゃんと確認…。確認…してない?生物のレポート昨日どこに置いたっけ…。
……やってしまった。またやってしまった。しかも今日に限って鬼の生物教師だ。殺られる。顔から血が引いていくのが分かった…。
「うん、知ってた。昨日メールでも連絡したんだけど」
…そ、そうだ!取りにいけばいいじゃないか!今からならまだ間に合うかも!試合や稽古意外で剣道で鍛え上げられた足の瞬発力をここで生かすことになるとは!
「今から取りに行ってたら電車間に合わないよ!生物今日の昼休み後の5時間目だから私の写しなよ!!」
救世主は目の前にいたようである。私の救世主、舞華さま!!
「…調子いいんだから、もう…」
★
その後私たちは電車に乗り、登校した。登校して直ぐ、舞、もとい、救世主は私にレポートを渡してくれた。
昼、何とかレポートが終わり、舞と一緒に昼食を食べることができた。舞は私と違って舞のお母さんである蜩 藍那さんにお弁当をつくってもらっている。私がお弁当を自分で作っているのは剣道意外の趣味は料理だからである。それにしても、藍那さんが作ったお弁当は本当に美味しいものだ。弁当箱ひとつの中身にに幾つもの工夫がされていて飽きることがない上に味も絶品だった。
藍那さんに料理を教わりたいな。
「またね、部活がんばるのよ~。」
放課後、私たちは校門前で別れる。私は部活があり、舞は舞のお父さんが亡くなってから、高校一年生からバイトをしているからだ。舞とは中学生の頃一緒に剣道をしていたが、いつかまた一緒に剣道したいな。
★
私の部活が終わり、電車に乗って帰宅する。今日は隣の町で大雪があったらしく、電車が遅延していた。駅のホームから出た時、私の住んでいる町でも雪が降っていることがわかった。傘をささなくていい程度の雪だったが、私は置き傘をさすことにした。
帰り道、舞と一緒に登校しているいつもの道を通る。
「ニャー」
「ん?」ニャー?
ねこの鳴き声なのであろう。ねこが捨てられているのはたまに見かけるがこんな寒い日に捨てられるなんて可哀想だと私は思った。お母さんは捨てられている動物は拾ってきちゃだめだって言われているけど…。声がする方向は道の傍らにある工事中のビルの方向だった。
私は建物に近づいて…見つけた。暗くてよくみえないが、夜の闇に溶け込むような黒色をした猫がダンボールの中にいた。
「ニャーー」
「よしよし~♪」ナデナデ
猫は本当に可愛い。自然と私の頬が緩んでいくのを感じる。
「あっ!ねこさん!」
しばらく撫でていると、私の手から猫が逃げてしまった。
「逃げちゃった…」
私は猫が逃げた方向を見る。暗いが目をこらしーー
ーーーーーーーー誰かに肩を捕まれたーーーーーーーーー
「キャア!」
暗くい人気のない場所で、私のような少女の肩を掴む人物…。
「やめて下さい!!警察呼びますよ!!!」
私は半分涙目になりながら警察を呼ぶために不審者に抵抗しつつも携帯を取り出そうとした…。
「やめて!!」
「いや!私だから!見て!警察呼ぶのはやめて!」
「舞…?」
「あなたの幼なじみの蜩 舞華だよ!」
私の肩を掴んだのは舞だった。でもなんでこんなこと…あ、普段私から驚かせてるから?仕返しだろうか。
「ビックリしたよ…。舞にやられるとは思わなかった…。」
「ごめんね、やって少し後悔してる…」
「でも、普段弥生の涙目とか見たことないから新鮮だね」
「…本当に後悔してる?反省してる?」
ハッと、自分の口を押さえる舞、心の声が漏れたことに気づかなかったようだ。
「…でも、弥生も普段から私の事驚かせてるから、おあいこだよね…」
「う…」
舞が正論を言ってきた。まあ、今回でいつもの私が驚かせている分は帳消しということでいいだろう。
「ふふ…。仕返し成功だね!」
「だけど、明日から覚悟しておいてね!」
「なんで!?」
こんなやり取りも幼なじみの親友である舞だからこそできるんだと実感する。私は今とても幸せだ。
「「あはははははっ!!」」
雪の降る日、少し寒いけど舞華といたら心が温まるのを感じた。いつまでもいつまでも舞とは一緒にーーーガラガラララガラ!!ーーーーーーえ?
なんの音だろう?舞が上を見ている。私もつられて上を見る。暗くてよく見えない。もう一度舞の顔をーーーーー
ーーーーーーその瞬間私は舞に突き飛ばされていたーーーーーー
なんで?という疑問は次の瞬間消えた。
舞の、舞華の頭上直ぐそばに1、2本ではない数の鉄骨が落ちてくるのが見えたからだ。
ーーーーーーーー轟音が周りに響くーーーーーーーーーー
私にはもはや音など聞こえていなかった。舞華が鉄骨の下敷きになったところを見て、これは夢なのだと。そう思った。
私は倒壊したばかりの鉄骨の下敷きにされている舞の元に向かう。
ーーーーーーーーーーパシャパシャーーーーーーーーーー
足元が血で濡れるが私は歩みを止めなかった。
舞の手を取る。既に冷たくなっていた。
舞の顔を見る。微かに開き、血を流している目は私を見た気がした。
ーーーーーーーーーまだ意識があるーーーーーーーーーー
「舞華!死んじゃやぁ!!舞!舞ぃぃー!!」
私が状況の理解が追い付いた瞬間、舞はもう助からないと分かった。私は必死に舞の名を呼ぶ。私の側に舞華がいて欲しかったから。たとえそれが無意味だと分かっていても。
ーーー雪の降る日、平凡な一人の少女の人生は幕を降ろしたーー
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
こんにちは。月光です。
小説自体書くのが始めてなのでお粗末極まりないものですが、読んでいただきありがとうございます。
そんな筆者なので皆様からのアドバイスや批評の感想はたくさんいだだきたいです。
それではまた。