8話 囚われの勇者
「ご飯まだーエンドー」
冷たく、仄暗い鉄格子の奥から聞こえてくるのは、気怠そうな魔女の声である。
しかし先ほどのような凛とした立ち居振るまいをしていた彼女の姿はどこにもなく、今そこにいるのはただのわがまま少女だった。
「うるせーよ、ミウム。俺はお前のお母さんじゃないんだよ。食事が出てくるだけありがたいと思え」
俺がこの世界に来て半日ほどが過ぎようとしていた。
どうやら俺が元いた世界とこの世界の時間間隔は似通っており、昼夜の概念もごく平然と存在しているらしい。
また他にも“アイネ”、“クライネ”、“ナハト”という三大陸の事や、魔王の領地である“空白”のことなどまだまだ調べる事はたくさんある。
「ねーねーエンドー」
そして気になっていた魔術の存在。これに関してはレナの説明を聞いたが、ほぼ俺の俺の知っているフィクションの魔術と大差がなく、驚いた。
使用者は自分自身の中にある、魔力を消費し、触媒を通してその魔力を何らかの形で使用することが――。
「ねーってばー」
「うるさいって言ってるでしょう! 今勉強してるの! あんたもぐうたらしてないでなにかやったらどうなの!?」
「だって暇なんだもん!」
ヒステリックをヒステリックで返された。こいつはなんで捕虜のくせにこんなに偉そうなんだ。
俺はあの戦いの後、この魔女ミウムの監視役を押し付けられていた。
ライラが言うには、勇者だからと言って、片っ端から殺すようなかわいそうなことはできない。
せいぜい地下牢に放り込んで一生を魔力の供給源として生きるか、洗脳して奴隷として、使い物にならなくなるまで働いてもらうそうだ。
その時のミウムは今にも泣きだしそうな顔をしていた。かわいそうに。
ミウムと一緒にいた他の二人はレナが倒したらしい。
「囮くらいにはなるかなーと思って連れて来たんだけど、すぐやられちゃった」
「お前ほんとに勇者かよ……」
年は俺の一つ下。生まれたときから魔術の才能を見出され、勇者となるべく育てられてきた。など捕らえられてからミウムは、様々なことを勝手にしゃべっていた。
「なんでそんなに色々教えてくれるんだ?」
「わかんない。もう負けちゃったからどうでもいいことだしね。それにエンドからは嫌な感じがしないの」
言ってから恥ずかしくなったのか、ミウムは顔を真っ赤にしていた。