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鳥になった人間の短い一生

作者: 一人よがり

 今の俺に名はない。前はあったがもう忘れたし、それはもう意味をなさない。その名前を持っていた俺は死んだのだ。不幸な事故によって。

 気が付くと俺は真っ暗な場所にいた。手足が思うように動かないがどうやらかなり狭い空間にいるようだ。ここから早く出たいと思い頭をがんがんとぶつけた。しばらくそうしているとぶつけていた壁にひびが入ったのか光が差し込んできた。俺はさらに頑張ってそこから這い出た。

 そして……今、俺の目の前には自分の体の何倍もある鳥がいた。さらに嘴を開いてこちらに向けていた。

(く、食われる……。また死ぬのか……。……また?)

 そんなことを考えていた。結論から言おう。俺は鳥に生まれ変わったのだ。このでかい鳥は俺の母にあたる。

 母に育ててもらいながら巣立ちをするまでに俺は一生懸命情報を集めた。昔、友達に薦められて一度だけ読んだことのある、所謂異世界転生というものをした可能性もあると考えたからだ。

 おそらく俺が鳥に生まれかわったこの世界は地球と断定していいと思う。それかよく似た世界だ。とにかく一度は夢に見たことのある魔法などはまったく見つけることはできなかった。俺が住んでいる巣は学校にある木箱だ。きっと授業等で子供が作ったのだろう。そこに母が目をつけ住んだものと思われる。ひとつショックだったのは最初かなりでかく感じていた母だったがよく見て、ほかの物と比べてみると雀であることに気が付いた。

 そう、俺が転生した鳥というのは雀だったのだ。

 まぁ、そんなことは今は問題ではない。今日は巣立ちの日なのだ。兄弟の中で何匹が寿命で生を終えるかわからないがこれからは別々に生きていく。俺はいろいろやりたいことがある。楽しみでしかたがないのだ。俺は我先にと巣から飛び出した。

 あまり高くは飛べないがこれまでたくさん練習してきたかいもあって飛べた。鳥になるまで知ることはできなかったが、やはり空を自由に飛ぶという行為はとても気持ちがいい。人間の時には味わえなかった快感だ。

(さてせっかく鳥になったんだ。やりたいことを全部やろう)

 こうして俺の鳥生活が始まった。

 とは言っても鳥になった俺にできることは少ない。デート中のカップルの頭に糞を落としたり。ホテルやお風呂を除いたりした。……もしかしたら俺の行動というのは前世の未練が元になっているのかもしれない。途中から俺の日課は人間観察へと切り替わっていった。会社のオフィスに残った2人の話が面白かったのでちょっと報告してみようと思う。

 俺がそこで観察を始めた理由は簡単だ。米屋が近くにあるから食事に困らない。車などがほとんど通らず雑音がかなり少ない。そしてエコ意識なのか窓を開けて話しているので会話が聞こえる。以上だ。

 俺には働いた経験もないので多いのか少ないのか分からないがそのオフィスは50人くらいの人が勤めていた。俺が注目したのはとある男女2人、女性の方は左手薬指に指輪をしていて毎日定時で急いで帰っている。どうやら3児の母らしい。男性の方は俺から見てイケメンサラリーマンで会社の近くに住み毎日遅くまで残業してる。男性は独身のようだ。2人ともかなり仲良く仕事中も楽しそうに話したりしている。2人とも20代後半ということもあり気があるのだろう。

 観察をしていたある日、会社のみんなが張り切って仕事をしていることに気が付いた。どうやら今日はみんな楽しみにしていた会社の飲み会らしい。でもなぜかいつも観察をしていた2人は仕事はしているものの今日に限ってあまり話さない。

 俺は観察していた3児の母が朝に行っていた言葉を思い出した。

「今日は旦那は子供の迎えに行ってくれるからたくさん残業できます」

(残業?飲み会だろう)

 そんな疑問が頭をよぎるが答えは出ないまま夜になった。みんな飲み会に行きオフィスに残っているのは仲良しの2人。

(本当に残業するのか……。そして男の方は今日も安定の残業か……)

 そんなことを考えていた時だった。突然2人がキスを始めた。そしてそのまま仮眠用のベッドに横になったのだ。俺は死んでしまったことを後悔した。後、数年生きて働き始めればこんなどろどろになりそうな世界に入れたかもしれないのにと。そして理解した。今日に限って残業できるようにした理由も、あまり話をしていなかった理由も……。俺はまだ一月位しか観察していないからわからないが、おそらくこの2人にとってこれは恒例行事なのだろう。

 そして事が終わった後、男がこういったのだ。

「旦那に俺の子だって伝えたのか?」


 俺は電柱から落ちそうになった。

 

 さて今度は誰を観察しに行こうかな。



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