第7話 転換点
砦には数は減ったとはいえ、30~40人のオーク兵が近づいてくる。
オークの力があれば砦の扉は割と簡単に突破されるだろう。だが此処まで引き付けることもこそ戦の内だ。
私はタイミングを指示するのだ。
「リーゼさん!オークがあんなに……!」
「作戦通りでしょう?落ち着きなさいミーナ。」
ミーナが慌てているところを諭したが自分も緊張していた。心臓バクバクだ。
しかし、ミーナのおかげで多少落ち着くことができた。自分より興奮している人を見ると意外と冷静になれるものだ。
これを失敗してしまえばかなり拙い。
ミスリル装備の精鋭兵などこちら陣営で相手になるのはロイ様ぐらいだろう。
だが魔王様はここにはいない。弓兵を仕留められない確立を減らす為である。
魔王様曰く砦の方は「リーゼさんなら大丈夫でしょ。」とのことだ。抗議をしてみたが、弓兵を仕留めた後砦に急いで向かうということで丸め込まれた。
オークが砦に到着した。
予定通りタイミングを計り指示を出す。
大勢のサキュバスで一斉に砦の上から液体をばら撒く。
痺れ薬である。
作戦を細かく詰める段階で、ロイ様から「砦から熱湯とかぶっかける戦法の前例あります?」と聞かれて驚いた。
そんな発想は未だ世界になかったからである。そして「じゃあ、痺れ薬を砦の上からぶっかけたらどうですかね?」と提案された。
熱湯や痺れ薬を撒くという作戦はとても画期的だ。回避が難しく強力だ。
降ってくる範囲の広い液体の回避は難しい。降り注ぐ雨を回避するなんて魔族の身体能力をもってしてもほぼ不可能である。
さらにミスリルの防具による防御を無効化できる。
完全に全身防水な防具などきいたこともない。ミスリルの防具でもそれには及ばない。
作戦は成功した。死ぬ気で生産した大量の痺れ薬はオーク兵全員に降り注いだ。
意外とあっさりとしたものだ。
私たちの勝利だ。
だれがこの勝利を予想できていただろうか。私でも正直最後まで勝つなんてことを完全に信じ切れていなかった。
サキュバスの歓声が上がる。
だがいつまでもこうしてはいられない。戻ってくる我らが魔王様を出迎えるのは勿論。今やれる作業はすぐに行っておかなければならない。
魔王様を信じてよかった。
こうしてこの国はひとまず危機から救われたのである。
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サキュバス達を先に砦に帰らせた後、俺は後から砦に向かいつつオーク兵たちのステータスの麻痺を確認しつつそれらを「インベントリ」に突っ込んでいく。
スキルを使うとは言ったが詳細は説明していない。スキルは出来るだけ隠したいしな。
リーゼさんに頼んで砦の上は人払いをしてもらっている。倒れているオークから目を離すわけにもいかないので、多少見られてもいいと判断したリーゼさんとミーナには痺れているオークの見張りをさせているが。
落とし穴の底にはお馴染みの痺れ薬が入ってました。頑張って堀ったから痺れ薬がなくとも自力で脱出は難しいが。
中は時間が止まるのでスキルがオーク兵に気づかれることはおそらくない。
意識を失わされて運ばれた程度の認識になるだろう。時間が止まるなんて発想はたぶん出ない。
さらに時間が止まっているおかげで痺れ薬の効果も切れないからお得だ。
この「インベントリ」にはなんでも収納可能だ。
よくファンタジーものなんかで生きている物は入れれないとかの設定を見るが、「いや、微生物とか細菌とか色々考えると何も入れれなくね?」とツッコミを入れたい。
オークをすべて回収し終え、砦に入る。
「魔王様!」
リーゼさんが駆け寄ってくる。
「上手くいってよかった。まあ、色々と話したいことはあるだろうが、まず国民全員を広場に集めてくれないだろうか。」
「ええ。わかりました。」
「すまないな。」
ひとまずは上手くいった。まあ、「本番」は此処からなわけだが。
砦に上り砦の内側の広場の方をに向かう。
とりあえずこれでひと段落出来る。もう少し頑張ろう。
広場に集まった国民を見渡す。
サキュバス国民は歓喜に満ちている。英雄を見るような目でこちらを見るものが多数だ。
俺は安物らしい城に載っていた数少ない魔道具の一つ、完全にメガホンの形をしている拡声の魔道具を起動させ、口を開く。
「まずは我が国民よ。よくやってくれた。私たちの勝利だ。少ない期間での準備を手伝ってくれた国民たちに謝辞を述べさせてもらう。」
サキュバス国民から歓声が上がる。
「まあ、女性のスカートの丈と王の話は短いほうがいい。が信条なので簡潔に済ませよう。」
一か月でサキュバスの下ネタに完全に慣れた。
もともと下ネタ避けるタイプでもなかったからな。
「これでこの国は平和になった。とはいかない。」
サキュバス国民は喜んでいるが全然状況がよくなったとはいえない。
舐めきった兵士を捕らえただけで、オーク国が全力で兵を派遣してきたらゲームオーバーである。
「今後のことだが、オークの王子をこちらに捕えているし、兵士も多数殺さず捕えている。なのでこいつらを使って交渉をする。交渉の内容の主なのは2つ[1年間の停戦]、[物資の輸入]だ。」
広場がざわつき始める。
「捕虜の返還と物資との交換を数回に分ける。王子を最後に返還すれば戦力的にも優位な向こうは無理に手を出して来ないだろう。停戦の1年だが、これは向こうが無理に手を出してこない限界だろう。
物資の補給が長期間に及べばさすがに向こうも痺れを切らす。痺れ薬も効かなくなるだろう。」
お、今俺ちょっとうまいこと言ったぞ。
「最低限の物資の輸入に留めて、自給に力を入れる。難しいだろうがやれる。今日の戦いで勝てると思っていた人はどれぐらいいる?俺が言うんだ。やれる。」
いくつか策はあるが成功するか正直分からんけどな。
「1年後行われるであろう戦争だが、当然勝つ気でいる。そこで兵を募り俺の指示のもと、1年間訓練をしてもらう。」
広場が本格的にざわつく。
「今回の戦いでは死者が多数出ている。ここに立って最初に見渡した限り勝利に酔っているものも多く見られた。」
死者の数は100人近かった。向こうの弓兵の錬度が予想以上だった。
「全員死ぬと思ったところから勝ったからだろうと思うが、お前たち何か勘違いをしていないか?」
場の雰囲気が変わる。
「この戦いは向こうの兵が舐めきっていた。だから、お前たちがある程度訓練していたら死者は0にできたと俺は断言する。今、この中におそらく1年後も勝てるんじゃないかと楽観的に思ったやつもいただろう。」
国民は沈黙した。
「無理だ。どんな方法を用いたとしても現状のままでは1年後の戦争に勝てない。冷静になって考えろ。今日死んだ家族、友人。今までオーク国に奴隷として連れて行かれた人を含めてもいい。お前たちの大切な人たちではなかったのか?それらはお前たちには救うことも可能だった。この死者は仕方ない犠牲ではなく、お前たちが救わなかった命だ。いつまで甘えているつもりなんだ?」
此処が正念場だ。
「仕方なかったなんて言わせない。お前たちは守るための努力をしなかった。努力の方法がわからなかったっていうのも甘えだ。俺がこの国でお前たちに初めて対面したとき、その努力をしていたやつはいたか?努力の方法を模索していたやつはいたか?お前たちは過程は違えど結果的に諦めたんだ。お前たちは守らない選択をしたんだ。意識していたかどうかは関係がない。」
誰も何も言わない。うつむいている人もいる。
「だが、お前たちが望むなら努力の手助けをしてやろう。少しだけ導いてもやろう。大切な人を守りたいと思うやつは明日城の前の広場に来い。途中で投げ出すような奴は来るな。以上だ。」
俺は話を終える。この話の内容などはリーゼさんにも伝えていない。俺の独断だ。
これがこの国が変わるかの転換点である。
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