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第59話 魔道具作り

 翌日。


 奴隷たちは今日から楽器の練習を始める。


 スキルも教えることを意識すれば、高レベルの補正が掛かるらしいので、俺が教えることによって短期間で技術の向上が可能なのだ。


 部室でお茶しているだけで楽器が超絶上手くなったりはしないので、練習あるのみである。



 商会から提供された、というか経費はうちの国が出しているので買った屋敷で練習は行う。


 それに当たって、一応郊外だから問題はないとは思うが、防音をするために魔道具を作ることにした。



 魔道具、と纏めて呼んではいるが、今のところ俺が作れるのは、“魔石を使って魔法を使うもの”と“耐性を付与したもの”の2種類である。


 防音のための魔道具は前者に当たるわけだが、このタイプの魔道具はスキル「魔法加工」を使って魔石に特定の魔法を加工して付与する、というものだ。


 魔石は魔力を貯めることが出来、その魔力で魔法を発動することができるわけだが、この付与をすると魔力の溜められる量が減る。


 減り幅は魔法の複雑さなどに依存するようで、複雑な魔法を使おうとするならば、発動のためにその場で魔力を魔石に入れる必要がある。



 イメージとしては、サイズは決められた電化製品で中の電気回路を入れられる総量が決まっているといった感じである。初期状態は中身が全てバッテリーという。



 バッテリー部分のみは、魔力を通したり出来る素材を用いれば、外付けすることが可能である。


 発掘されたと言われている魔道具はそのタイプが多いので、魔物から取り出した魔石を使い捨てにして使う。と言った使用法が世間では一般的であるようだ。


 使うときに魔力を込めれば使い捨てにする必要はないように思うのだが、街道での魔物の被害を減らすことと、魔物が増えすぎると人の住む領域などに侵攻してくる可能性があるらしいことを考えると、ある程度魔物を間引くことを考えると魔石に一定の価値をつけ、使い捨てるというのは合理的だ。


 それに、多少実験したが、魔石はバッテリーと同じように魔力を込めて使っていると劣化があるようで、弱い魔物の方がこの傾向は強いのだが、何回も繰り返し利用すると魔力が溜められる量は減っていき、ホワイトラビット程度の魔石になると、2、3回で最初の容量の4分の1といったぐらいに激しく劣化していく。


 一般に浸透している魔道具を動かすのは、簡単に入手できる弱い魔物の魔石であり、使い捨てじゃない使い方が一般に浸透するということはあまりなさそうである。



 ちなみに、魔力がある生物は持っていると言われている魔石だが、本人がMPを使い切った状態でも、魔石にはある程度魔力が溜まった状態にある。


 なので、魔物が魔法を使用したとしても倒した後はちゃんと価値があるとされる魔石が取れるようだ。



 この“魔石を使って魔法を使う”タイプの魔道具のメリットとしては魔力を注ぎ込むだけで適性がない魔法でも使用可能だということだ。


 デメリットとしては、魔道具を持ち運ぶ必要があることと、1つの魔道具で1つの魔法しか使えないことが挙げられるが、魔道具は便利なものである。

 


 ちなみに1度魔法を使える魔道具にしたら魔石は元には戻らないので注意が必要だ。



 後者の“耐性を付与したもの”はあくまで素材のポテンシャルに見合った耐性が出るようになる。といった感じである。


 なので、窯を作る土には大いに役立ったが、紙に火耐性を付与したところで、炎を当てたら燃えるわけで大した効果は望めない。



 もう一つ、「鑑定水晶」や「隷属の首輪」というスキルを付与していると思われる魔道具があるが、あれは今のところどうやって作るのかは謎だ。


 俺のスキルで取り込んだところでそのスキルが手に入るだけなので、スキルを物に付与するスキルがあったとしても今は手に入れる方法がないし、わからない。



 まあ、それは考えていても答えが出ることじゃない。


 とりあえず防音のための魔道具を作ってみるか。


 俺はエリクの宿の借りている部屋で、魔石を取り出す。「インベントリ」にはかなりの数の魔石が入っているが、それなりに大きいものを取り出す。



 ……一定の範囲を外向きに超える空気の振動を抑えるといった仕組みでいいか。



 科学ではかなり複雑なことをしないといけないようなことでも魔法なら行える、ということで、俺は魔道具をあっさり完成させた。



「それで、完成なんですか?」


「ああ。」


 リーゼが尋ねてきた。そういえば、魔道具を作っているところを見せたことはなかったな。


 魔道具を作る、といっても傍から見れば主な作業は手に持った魔石が発光しているように見えて終わりなのである。



 魔石だけでも、魔道具として使えるのだが、何かに取り付けたりするのが普通だろう。天井にある照明も光っているのは魔石だが、カバーと外付けバッテリーを入れる所がついている。


 防音の魔道具は魔石を木の箱に取り付けてアンティーク感のあるスピーカーのような見た目になった。


 発動のトリガーは魔石に対して一定の圧力を掛けることでオン、オフが可能になるよう設定した。誤作動しても嫌なのでそれなりに強く押すように設定した。


 

 そうして、同じ作業を繰り返し、魔道具をいくつか作った。



 俺とリーゼは部屋を出て、1階に降り、ここ数日同様に朝食を取る。


「ちょっと話があるんだけどいいかな?」


「…………ああ。」


 俺は咀嚼していたカブに似た根菜を飲み込んでから、返事をする。


「まあ、座れよ。」


「あ、うん。」


 エリクは隣のテーブルの椅子に腰を掛ける。



「この宿を売るのを決めたんだ。売るといっても商会からのオーナーがつく感じで、店長として僕はここで働くんだけど。」


「そうか。よかったんじゃないか?」


 悩んでいたようだが決断したのか。

 このままではここの経営状況も何も変わらなかっただろうし。それで好転して店が残るならエリクにとっても良いだろう。


「でも、それに当たって宿の値段設定やらが変わるかもしれないんだ。一時的に店を閉めることにもなるだろうし。」


「その間俺たちはここに泊まれないと。」


「多分そういうことになると思うから申し訳ないけど返金という形をとらせてもらえないかな。」


「わかった。」



 俺はそう答えた後、そのままリーゼと朝食を済ませ、数日分、という形で追加でまとめて支払っていた代金を返金してもらった後、宿を出た。




 そして、屋敷に行き、楽器の練習が始まった。


 奴隷たちに好きな楽器を選ぶように言う。


 間の時間に作ったとは言ったが、「異世界知識」と魔法、鍛冶師のオークの知恵を借りても失敗の連続だった。


 前の世界の普通の人が1からこれらを造ろうと思ったら生涯をかけても成功するかわからないだろうなと思った。


 そんな楽器たちを見ると感慨深いものがある。



 楽器を選んだら俺が1人1人教えながらの練習を行う。


 練習は楽器を演奏させるのをメインで行う。


 筋トレをさせる吹奏楽部なども多いらしいが、楽器を演奏してたら必要な筋肉はつくし大丈夫だろうというのが俺の持論だ。


 筋肉痛になっても魔法で治せるし、どうしても無理そうなら、レベルを上げれば解決する。育成プランは完璧だ



「あの……。上手く音を出すにはどうすれば……。」


 トランペット選び、マウスピースを口に当てて音を出す練習をしている人が恐る恐る質問してきた。


「それ難しいから心配することはないぞ。ちゃんと出来るようになるまで時間がかかる人が多いし、唇の形とかでも個人差があるから。俺も出来るようになるまで多少時間かかったし。じゃあまずは」


 自分は結構すぐにできたのだが、多少という言葉を使って、共感を交えて、心理的距離を詰めながらコツを教える。



 例の軍隊式トレーニングみたいなことをやるのも臨機応変にである。


 そもそもサキュバス国でも軍隊式を取り入れただけでそのままやっていたわけではない。


 あのトレーニングは、簡単に説明すると、訓練兵を精神が狂うほど過酷な環境に晒した後に「お前は一人前の兵士だぞ」とまるで天の声のように囁くと、兵士は「兵士が俺の生き方なんだ。国のために死ぬのは本望。」という気持ちになるというものである。


 そのような狂信者は扱いづらく、それをして、ある程度は上手く扱ってみせるとしても、もし俺がいなくなって綻びが出たら崩壊する可能性が残る。


 有名な軍曹が出てくる映画で訓練兵が、上官を殺して自殺してしまうように。



 まあ、そんな国を崇拝する狂信者なんて俺はいらない。俺が王となるからには幾分か自身のエゴで国を動かすことになるのは仕方ない。人間だし。


 ああ、魔王が種族になっているんだったか。



 楽器の練習は順調に進む。


 メロも俺が出した楽器を手に取って練習した。


 普通に考えると他の楽器の経験があるからと言って他の楽器が扱えるかは別の話なのだが、スキル「演奏」のおかげか奏法の飲み込みが早いと感じた。




 昼前に練習は一度中断する。奴隷たちが食事の準備をするためだ。


 今朝の朝食はリーゼが昨晩作り置きしていたが、これから生活してもらう上で身の回りのことは自分たちでやってもらう。



「では、私も手伝ってきます。」


「待て。」


 俺は奴隷達が部屋を出るのについていこうとした2人の腕を掴んで止める。


「何故です? 暇ですし手伝った方が。」


「料理をさせるのは仲を深めるのも目的にあってだな……。」


 リーゼを説得して止める。


「じゃあ、私は一緒に行ってもいいじゃない。」


 しかし、メロが抗議してきた。


 これから、メロと奴隷たちは共同生活を送り、一緒に活動してもらう予定なのでその反論は最もである。



 俺の考えとしては、料理に関してステータスの称号などにおいて不安を持つメロが手伝って皆が体調を崩すことになっても困るし、リーゼはテキパキ働き過ぎるだろうし、先述の通りだ。


 さて、どうメロを説得したものか。



「メロには他にやってもらうことがある。」


 行き当たりばったりで会話している。どうしようか。


「あーー。そうだ。他の者が食事の準備をしている間にレポートを書いてもらいたいんだ。」


「レポート?」


 メロが首を傾げる。


「メロはまとめ役になってもらう予定だから、皆の様子に気を配って貰う必要がある。」


「それはわかってるけど、レポートっていうのは?」


「何でもいいから気づいたことを紙に書いてくれ。紙に書くと言うことを考えれば普段からの注意力も上がるだろう。字は書けるんだよな?」


「ええ。」


「じゃあ頼む。」


 何とか乗り切った。

 後々誰かに料理を教えさせてもいいが、今はそこに時間を使うときではない。



 その後、出来上がった昼食が運ばれてきて、皆で食べたのだが、奴隷たちが恐る恐るといった表情で俺の様子を窺っていたので、「普通に美味い。」と言っておいた。


 可もなく不可もなく。一般的な家庭料理のレベルだろう。



 昼休みを挟んでの午後の練習は早めに切り上げた。




 時間は過ぎて、夕方。



 俺は扉をノックして、建物に入る。


 扉についているベルが鳴り、少しすると奥から男が出てくる。


「はいはい。どちら様ですかー。……って、ラインハルトか。」


 やってきた男――エリクが声を掛けてくる。


「ああ、もしかして他の宿が取れなかった? 今日だけならまだ泊まってもいいよ。」



 俺は先ほど商会で受け取ってきた紙をエリクの前に突き出す。



「俺が今日からこの店のオーナーになった。ラインハルトだ。」

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