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第58話 初めての合奏

「ここか。」


 街の郊外まで奴隷を連れて歩いてきた。


 奴隷の女を9人も連れて歩いていると少し目立つが、人通りの少ない時間帯だったのでよかった。


 目の前にある、商会に頼んで手配してもらった家はかなり大きい。


 日が暮れて辺りは暗くなっているが、目の前の家の木の戸で閉じられた窓からは光が漏れている。



 ガラスは魔法があるので透明度の高いものを作ることは出来るそうだが、高級品扱いらしい。



 少し余談だが、窓ガラスはエルフ城にはあるらしいが、うちの国では、まだ建物には取り付けられてはいない。


 オークたちは金属の加工技術には長けているが、ガラス分野に対してはドワーフが勝っていたようで、オーク国は独自にガラスを作れるようになってから自国に普及させるつもりで輸入はしなかったらしい。


 まあ、俺が港町で作ったやり方などの知識を資料にまとめてオークの職人に提供させたから、そのうち、ノワール城とかにも窓ガラスが導入されることだろう。 



 商会で受け取った鍵で家に入る。


 するとすぐに家の奥からバタバタと誰かがこちらにやってくる。


「ハルトさん、遅かったですね。」


 俺のことをハルトと呼ぶのは今のところ1人しかいない。メロだ。


「思ったより時間がかかった。」


 俺は奴隷の女たちにも家に入るよう促す。



 別行動をしていたメロとリーゼはアキンドゥ商会に行くよう言い、言伝したので、俺よりも早くここについていたのだ。


 奴隷たちはどうしていいか分からない様子だが、特に騒いだりはしない。


 奴隷商館にて振る舞いは教えられるものなのだろうか。



「結構大きいよな。この家。」


「いや……結構というか。もの凄く大きいと思うんですが。」


 ここ1年は城に住んでいたわけで、自然と漏れた感想にメロがツッコむ。



 郊外だから土地が安いと言ってもかなり立派だろう。アキンドゥも太っ腹だ。


 ……まあ、アキンドゥは標準体型だが。

 


 メロに着いていき、広い作りの部屋に入る。



「お兄様。お帰りなさいませ。」


 部屋にはリーゼがいた。


 簡素なエプロンをつけてテーブルに料理を並べていた。


 普段見ない雰囲気を纏ったリーゼだが、絵になるなぁ。



「ただいま。……って初めて来た場所なのに少し変だな。」


「そうですね。」



 俺は奴隷のエルフ達に向き直って言う。


「さて、突然連れて来て、まだ大して説明もしていないわけだが、食事でも取ってからゆっくり話そうと思う。適当に席についていいぞ。」


 皆、戸惑い、動こうとはしない。


 これから労働にしても何かしら苦痛が待っているかもしれないと身構えていたのに、かなり大きな家に連れてこられて、食事を取れと言われたらどうしたらいいのかわからないのも無理はない。


 俺も1から説明する気はない。場合によるが、以前やった海兵隊式の訓練のようにとりあえず動いてみて、その後に自分で理解したほうが、メリットが生じることも多いのだ。



 この場合そっちの方が効率がいい。説明しても意味を咀嚼するのに無駄に時間を食うぐらいなら、食べ物を咀嚼させて、胃袋と心を掴んで、「よくわからんけど、ちょっとやってみるか。」という意欲を出させたほうがが手っ取り早い。


 ある程度自分たちで理解させて置けばいい。1人が複数人をケアしながら動かすことは難しいわけで、やらなくてもいいときはやらない。めんどくさい。



 誰が先に席をつくかでなんとなく脳内で賭けをしていたが、予想は当たった。


 火傷跡のある女だった。



 彼女は、前の主人にされた仕打ちのせいもあるのだろうか。言われたことに従ってミスをしたら仕方がないという達観した思考の持ち主だった。


 手っ取り早くていいかもしれないが、如何せん俺は気に入らないな。



 彼女が席に着いたのをきっかけに恐る恐ると言った感じで皆席に着く。


 テーブルに並べられているのはリーゼが作った料理だ。


 リーゼは「料理」スキルなど家事系のスキルはそれなりに高いレベルで持っているので、普段城では使っていない、その腕を披露してもらった。



 さて、ここでメロのステータスを見てほしい。


ステータス

 名前:メロ


 種族:エルフ


 職業:冒険者


 Lv:2(経験値8/20)


 年齢:29


 HP:110/110


 MP:210/210


 筋力:45


 耐久:50


 素早さ:55


 称号:「必殺料理人」


 魔法:「初級風属性魔法」「初級無属性魔法」


 スキル:スキル「剣術Lv2(熟練度3/20)」「演奏Lv3(熟練度24/30)」「料理Lv1(8/10)」「風属性魔法適正」「無属性魔法適正」


 耐性:「毒耐性Lv3」


 状態:なし



 注目してほしいのは称号の部分である。



詳細


称号「必殺料理人」・・・本人の自覚なく、料理で他人の体調に著しく害を与えたものに与えられる称号。




 少なくともこの場で厨房に立たせるわけにはいかなかった。




「普段ってメロは食事どうしてるの?」


 俺とリーゼとメロの3人も席に着き、料理を食べ始める。


「自炊してますよ。」


「え? そうなの?」


 意外な答えが返ってきて普通に驚いた。


「なんで、そんなに驚いてるんですか。こう見えても料理得意なんですよ。」



 ええ……。と思ったところでようやく気づく。もしかして、メロのステータスに対して異常に高い「毒耐性」って……。



「今日も私に料理させてくれてもよかったのに……。」


 どうやったかは知らないが、上手く理由をつけて厨房に立たせるのを阻止したリーゼ、グッジョブ。



「美味しいぞ。リース。」


「ありがとうございます。」



 リーゼとメロが市場を回って買った食材で料理を作っている。


 エルフ国に来てからの食生活で一番変わったのは卵だろう。


 エルフ国の領土に生息している魔物から卵が魔物から比較的簡単に手に入るようで割と安く流通している。

 毎日卵を産む鳥など、前の世界では人の手による賜物であったが、魔物の生態や進化については謎が多い。


 味は前の世界の鶏卵と変わらず、食べ慣れた味というのは、錯覚かもしれないが、やはり多少美味しく補正されるものだ。


 勿論リーゼの料理は普通に美味しい。家事スキルを高いレベルで習得しているだけのことはある。卵のスープを飲みながらそんなことを考えていた。



 リーゼとメロは奴隷のエルフたちの様子を気にしていたが、普通に談笑しながら食事を終えた。



「さて、腹も膨れたところでこれからのことについて話そう。」


――パチ、パチ、パチ、パ、チ


 奴隷達も数人手伝って皿洗いなどの後片付けを終えた後、俺は切り出す。


 先ほど食事をしたテーブルに皆同じように腰かけ、俺は立って話をしている。



 メロが拍手をして、それに続いて何人かの奴隷もまばらに拍手をする。


「皆にはここで共同生活をしてもらいながら、飲食店で働いてもらう。ただし、同時に普通と異なる目的がある。」


 俺は手に持っていた袋からメロが持っていた笛を取り出す。


「その店で楽器を演奏し、音楽を広めたいと思う。メロ、ちょっと演奏してみてくれ。」


「はぇ? いきなりですか??」


 奴隷たちは疑問符を浮かべている状態だが、口を突っ込んで来たりはしないのでとっとと話を進める。


「まあまあ、適当でいいから。」


 しぶしぶ俺の方に歩いてきて、楽器を受け取るメロ。


「ちょっと、まだ演奏するの待ってて。」



 俺はいったん部屋から出て、「インベントリ」から()()を取り出す。


 俺は港町にいたころ空いた時間に前の世界の楽器製作を行っていた。

 楽器製作に必要不可欠な「木材を乾燥させる作業」などの面倒な作業が高いステータス数値と魔法であっさり済んだので空き時間に行うことが出来たのだ。


 動物の腸から弦を作るなど、初めてのことも沢山あり新鮮だった。




 俺は取り出した楽器を台車で引きながら再び部屋に入る。


「なんですかそれ!?」


「ハープと言う楽器。」



 これを選んだ理由はオカリナっぽい楽器と合わせるならハープかな。と思ったからだ。


 前いた世界の俺がいた国ではハープの演奏人口は約0.007%とかでソーシャルゲームのガチャの確率のような感じであったが、俺は音楽を趣味にしていたので弾ける。


 というか楽器はたぶん一通り弾ける。



 まあ、俺の中では音楽はあくまで趣味だったので、別に音楽を学ぶところで学んだことはないし、誘われたとしても断わっていた。



 ハープは実際見ると意外と大きい。今まで黙って話を聞いていた奴隷達だが、これを見て驚きの声を出すものも少なくはなかった。



「じゃあ、適当に合わせるから。」


「合わせる?」


 複数人で楽器を弾いたことがないと分からないのだろうか。


「いつも通り吹いていいよ。」


「わかりました。」


 返事をしたメロは演奏を始める。初めて会ったときに聞いたのと同じ曲だ。



 演奏技術は粗削りだがいい音色だ。さて、俺も――






――パチパチパチパチ。



 俺が話し始めた時とは打って変わって、盛大な拍手が起こる。


 感動したのか涙ぐんでいるエルフもいる。


「ハルトさん、…………。凄いですね!!!」


 メロは今の高揚感を表現仕切れずに凄いと言った。


「だろう?」



 楽しかった。楽しいと思った。


 人と一緒に楽器を弾くことはあまりなかったからだろうか。



 リーゼも事前に言ってはあったのだが、とても驚いている様子だった。



「皆にはこんな感じで楽器の演奏をしてもらうつもりだ。正直楽器はある程度弾けるようになるまで苦痛に感じる者も多いけど練習してもらうぞ。」


 奴隷たちの今後の予定を一方的に告げて話を終えた。



 

 俺とリーゼは宿への帰路につく。


 宿が前払いしてしまっているし、奴隷達にはあの邸宅から出ないよう「命令」しておいたから大丈夫だろう。


 少ししたらはメロもあそこで生活してもらう予定だが、最初から萎縮した状態から始めるのもアレなので、まずは奴隷同士である程度コミュニケーションを取ってもらうつもりである。


 メロとも友達感覚で接せるようになればいいのだがな。



 ある程度気を使うつもりでいるが、大変そうだ。吹奏楽部などの文化部特有の重たさ、生々しさを出されても困る。



「私も楽器弾いてみたくなりました。」


「どうせ暇だから一緒にやるか? 気楽にやってくれればいいぞ。」


「ええ。是非。」


 リーゼにもいいリフレッシュになりそうだ。



――カランカラン。


「おかえりなさい。」


 宿に入るとエリクが出迎えてくれた。 

 

「「ただいま(帰りました)。」」


「少し心配したよ。」


「それはすまなかったな。」



 軽く言葉を交わした後、部屋に戻ろうと2階に上がる。


「あのさ。」


 階段を上る途中で声を掛けられた。


「なんだ?」


「……やっぱりいい。」


「“やらないで後悔するより、やって後悔しろ”って言葉があってな。この言葉は何事も積極的にやれという教訓なんだが。俺はこの言葉の本質はどっちにしろ後悔するかもしれないという点にあると思うんだ。

俺はやらない後悔――勿論選択の時点では後悔するかなんてわからないわけだが。それを選ぶのも1つの選択だと思ってる。」


 俺は独り言のように切り出した。


「選ぶ時点では想像もしなかった要素が絡んでくることなんてザラだ。気負わなくていい。選択に失敗してもそれは“糧”になる。“失敗は成功の元”ってな。」


 エリクは何も言わない。


「ついでに経験から言うと、安易に選択を先延ばしにする“選択”をするのはチャンスを逃すことも多いし、損をすることになるぞ。」



「……ありがとう。“経験”だなんて俺より凄い年上に感じるよ。…………本当は歳いくつなんだい?」


 唐突に話をした俺だったが、それに対してエリクは感謝の言葉を口にした。


「結構苦労してるんだよ。田舎暮らしだったからな。」


 そこで俺はステータスに表記されている通り「1歳になるかな。」と返そうと思ったがやめておいた。

絶対そのうち更新速度上げます。頑張ります。

52話にて、「演奏」スキル獲得の文を追加しました。

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