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第56話 エルフ国の宰相

「報告は以上であります。クレマン様。」


「わかった。下がってよい。」


「はっ。」



 パタン。


 私――エルフ国宰相は跪いていた騎士が出て行ったのを見送る。


 私は幾人も自分の手足として使える人物を持っている。

 国に仕えるのではなく私に仕えている者たちだ。


 今出て行った、現在、騎士団の団長である彼もその1人である。


 大使の護衛という役割を与えるとともに、新たに隣国となった国、ノワール国の軍についての調査を命じた。



 その報告を先ほど受けた。


 オーク国は兵の平均的に強く、数も多いというのが強さの理由であった。


 しかし、報告によると、兵の錬度も大したことがなく、軍の規模も小さくなったというのだ。



 オーク国に対してサキュバス国が勝利した戦いの内容を知る者はいない。


 サキュバス国などノーマークに等しく、オーク国が勝った後の経済の動きに目を向けていたものばかりだからだ。



 なので、サキュバス国の勝因もわからない状況であったが、報告から私は確信に近い予想を立てる。



――魔王だ。



 普通、1人の強者がいても大規模な戦闘において、相手を圧倒することは出来ない。


 強い魔物が少ないオーク国では個人での強さの限界は早く来る。だが、オーク国が強国でありつづけたのは、1人1人の強さ。魔法が使えないことを踏まえても平均的なステータスが十分に強かったことに由来する。


 

 その話に当てはまらない例外。それが魔王である。


 魔王の称号は突然手に入れるものであり、魔王は自然発生的に表れ、その称号とともに得られるユニークスキルはとても強力だ。


 それは魔王1人の力で1国を滅ぼすほどのものであると聞く。



 各国の大使が訪ねても姿を見せない王に何かあると考えてはいたが、私の考えから魔王がサキュバス国に表れた結果だと見て、間違いないだろう。



 とてもやっかいな相手に見えるが、私は1人ほくそ笑む


 強大な力を持つ魔王。


 ならば、魔王さえ押さえれば、勝利は確定する。



 私は自分のもつ「鑑定」の力を持って、ここまで成り上がってきた。


 相手のステータスを見れる、強力なスキルだ。


 このスキルを使い、ノワール国の王を一目見ることが出来れば、魔王であるかの確認をすることが出来る。


 確認が取れれば、魔王を抑える手段を講じるのみだ。オーク国はやっかいな相手であったが、ノワール国と名乗るあの国になったことで、寧ろ、あの国を手に入れる算段まで付けることが出来るようになった。



 私にとって都合のいい展開になりつつあることでとても気分がいい。



 コン。コン。


 書類仕事に勤しんでいると、扉がノックされた。


「どうぞ。」


「クレマン様。食事の準備が整いましたが、こちらの執務室でお取りになられますか?」



「いや、いつも通り自室でよい。もう切り上げるからな。」


 部屋に入って一礼した侍女にそう言って、私も部屋を出る。



 廊下を歩く。


 この前、絵が飾られているところで少し足を止める。


 ふむ。これは、確か最近冒険者向けに宿を始めた商会が寄越したものだったか。


 1度しか行ったことはないが、あのオーク国の城にも絵画が色々飾られていたな。


 価値も分からぬのに色々と装飾を凝らしていたのは見ていて滑稽であった。オークに真珠とはよく言ったものだ。



 ……あの国を手中に収めればあれらも手に入るか。いくつか目ぼしいものもあったな。




「あら、クレマンさん。」


 声を掛けられてそちらを向くと、快活な雰囲気を纏う少女がいた。


「レティシア様。廊下でお会いするのは珍しいですね。」


 私がレティシアと呼んだ少女はいつものようにオーバーな身振りを交えながら話す。


「歴史のお勉強をしていましたわ。もうすぐ精霊継承の儀式ですもの。精霊さんのことを知れるのは面白いですわ。」


 無邪気な少女の一面を見せつつも、言葉遣いは歳の割に丁寧なエルフ国の姫君である。


 姫様の様子は城にいれば嫌でも耳に入ってくる。勉強はお嫌いなようだが、歴史には興味を持っているらしい。

 歴史の逸話からは学ぶことが多いと聞くが、不明瞭なところが多いため私はあまり好かない。



「私も精霊を一目見てみたいものです。」


 精霊は契約したエルフ国の王族と行動を共にするが、その姿は契約したもの以外にはみることが出来ないという。

 私も王が精霊に語りかけているところは何度か見たことがあるが、姿を見たことは一度もない。



「精霊さんとお友達になれたら、一度クレマンさんに姿を見せる方法がないか、聞いてみるわ。」


「それは楽しみです。」


 姫様は立場上、友達と呼べる人がいなかったためとても浮かれている様子だ。

 私も宰相になってからは友と呼べる人はいなくなってしまったから、姫様を見ていると、少し思うところはある。


 その後、姫様との雑談を適当に切り上げて、自室に戻った。

 


「今日のメインになります。兎のローストでございます。」


「ほう。珍しいな。」


 祝い事以外でホワイトラビットが食事に出るのは城でも少し稀なことだ。


 ちなみに私の好物でもある。


「ええ、冒険者ギルドから買い取りました。」


 流れの弓を使う冒険者でも来ていたのだろうか。


 そんな意味のない思考はすぐにやめた。今、私の気持ちは目の前の料理に向いているのである。


 香りは勿論、ミディアムレアに仕上がった肉、料理人の趣向を凝らした盛り付けで視覚的にも食欲をそそられる。



 私は兎肉をナイフとフォークで切り分け、ゆっくり味わうように口に含んだ。。

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