第55話 ルナの憂鬱
「お姉ちゃん!」
ロイ様が国を出てかれてから2日が経った。
まだ2日である。時間がとても永く感じるような気がする。
これならロイ様が困られるのを覚悟で無理やりついて行けば良かったかしら。
ロイ様の様子を見る限り、ハクアちゃんと戦いに行く時のような感じではなかったから心配はいらないのだろうけれど……。
はぁ……憂鬱だわ……。
「お姉ちゃん! お姉ちゃんったら!!」
「え?」
「え? じゃないよ! さっきから何度も声かけてたんだからね!」
声を掛けられていることに気が付き、顔をそちらに向けると、妹のミーナが腰に手を当てて立っていた。
「手は回ってるしお姉ちゃんも3人分ぐらいの働きをしてくれるのはありがたいんだけど……。」
そうでしょうそうでしょう。帰ってきたらロイ様に褒めていただくつもりなのです。
「さっきみたいに上の空のこと多いし、暇さえあればロイ様の部屋掃除してるのは何!?」
「必要なことでしょう!」
今いるここは埃一つ落ちていないような綺麗な寝室である。この城でロイ様が使っている部屋だ。
ロイ様が絵画などを部屋から運び出すよう指示されたため、王の部屋というには些かシンプルに見える。
「もう……。ロイ様と恋人になって惚気てるのはわかったからしっかりしてよね。」
「の、惚気てなんかないわよ! っていうかまだロイ様とのことは話してないわよね!?」
「私は港町から帰ってきたときには気づいてたけど、ここ数日でメイドの間にはもう知れ渡ってるし、国中で噂になる日も近いよ。」
「えっ、そうなの!?」
ロイ様は「さして隠す気はないから、聞かれたら答えてもいいよ。」とおっしゃっていたけれど、そんなに広まってるとは知らなかった。
顔に出やすいのかしら。
「顔に出るっていうかねぇ……。」
「心を読まれた!?」
「お姉ちゃんは初対面だとクールな美人に見えるかもしれないけど、表情に加えて仕草がわかりやすいんだよ。今も顔に手を当ててたじゃん。」
そうなのかしら。少し意識してみましょうか。
「はいはい、そんなに顔を引きつらせても続かないでしょ。」
ミーナに呆れられた。
「それで、何の用事だったの?」
「今の話も用事の1つだけど。リーゼさんの穴埋めに事務作業に応援が欲しいってさ。」
「そう。わかったわ。」
リーゼさんは働き者なので、いないと仕事量はかなり増える。
しかし、メイドはある程度の教養を持たなければ、というロイ様の前の女王のラム様の方針は今とても役立っているので、ちゃんと回っているという状況である。
「まあ、実際のリーゼさんの穴は今頃ロイ様に……。」
「……多分それはないわよ。」
「ロイ様が他の女に惹かれないとは限らないじゃない。お姉ちゃんって意外と自信家?」
ロイ様は簡単に女の人と関係を持たないタイプなのはよくわかってますし。リーゼさんとの雰囲気からして、今のところ、ロイ様とリーゼさんがそのような関係になることはないでしょう。そこは心配していません。
私はロイ様の女性関係に意見するつもりはありませんが、私自身、注意はするつもりです。
ロイ様の1番を譲る気はありませんから。
「とりあえず、私、手伝いに行ってくるわね。あなたもサボらずにちゃんとやるのよ。」
「はいはい。わかったわかった。」
部屋を出て、ミーナと別れた後、私はリーゼさんの部屋に向かいます。
さて、頑張りましょうか。ロイ様が帰ってきたらうんと甘えてやりましょう。お酒の力を借りるのもありですね。
ロイ様に会えないことについて悩んでいましたが、この城に戻ってきてからのことを考えると少し元気が出てきました。
仕事も一段落して、昼前になりました。
メイドの仕事としてはここで山場を迎えます。昼食作りです。
軍の人たちや、ここで働いている人全ての昼食を作るので調理場は戦場と化します。
「はい。じゃあこれ火にかけて。」
「わかりました。」
料理長的な立場の私はメイド達に指示を出します。
私がいないときはミーナが全体を仕切っていたらしいのですが、今は作業を適当にこなしています。
適当と言っても人並みには働いてくれていますが、私がいなかったときの話を聞くと私が妹をダメにしているのかもしれないと考えてしまいます。
人数が増えたため作業量が増えたわけですが、調理場もロイ様が作った魔道具で幾分便利になり、調理の幅も広がりました。
それまでは魔法がなかったので、均一に火を通すなど、今まで難しかった調理が可能になり、更に片手間で他の作業もすることが出来ます。
単純に数人分の食材を一度に運べる筋力がついたのもなんとかなっている一因ですね。
この日は兵の人たちはいつもより少し遅く昼食を取りました。
開けた空の下、城の前の庭に順番に並んでもらい、食事を配っていきます。
この後の後片付けを思うと気が滅入りそうですが、食事を美味しいと言って食べてもらえるのは嬉しいものです。
ロイ様にも料理を作ってあげたい……。
「今日はいつもより厳しくシゴいてやりました。」
ミーナと話していたアンさんが得意げにそう言います。今日昼食をとるのが遅れた原因はそれのようですね。
初めて会ったときは気弱な雰囲気だったアンさんもすっかり頼もしく見えます。
「アン、食事中に下ネタはちょっと……。」
「下ネタじゃないよ!!」
お姉ちゃんとして、2人が話しているのを見ていると微笑ましい気持ちになります。
「あ、そうだ。ルナさん。」
少しだけ離れたところにいた私にアンが声を掛けてきた。
そして、アンの口から予想外の言葉が飛び出した。
「さっきロイ様が帰ってきていたみたいですけど会われました?」
理解するのに少し時間がかかった。
「え。」
「前にエルフ国に偵察されたので、ミーナと気配察知の練習してたのが役に立ったんですよ。魔法で姿は隠しているようでしたけど。」
「今どこにいるの!?」
「え、えっと……。それはわかりませんが、ラインハルトさんの家の方に向かっていたかと。」
「……ミーナ。後、任せていい?」
私は言うや否や、ラインハルトさんのところに向かいます。
「来てないぞ。」
机に向かって仕事をしているラインハルトさんのところで聞くや否や、そう返されました。
「…………嘘はわかりますよ。」
そして、ラインハルトさんに問い詰めます。
「アキンドゥ商会の方に行った。多分もういないんじゃないか?」
「最初から教えてくれればいいものを……。」
「威圧」を放ったところで、それに耐えかねてようやく教えてくれました。
「口止めされてたんだ。会うと別れるのがつらいとか言ってたな。」
別れるのがつらいといっても少し顔を出すぐらいしてくれてもいいじゃないですか。
ラインハルトさんのところで時間を食ってしまったのに加えて苛立ちが募ります。
「やはり来ましたか。」
アキンドゥ商会と大きく抱えた趣味の悪い建物につくと、そこの商会長、アキンドゥはそう言った。
これだけ色々振り回されると、なんだかサキュバス城付近の森で訓練していた時のことを思い出しますね。
少人数で部隊を組んでチェックポイントを回ったものです。
「先ほどロイ様は出て行かれましたよ。」
それを聞いて私はガックリと肩を落とします。
勿論、別れるのがつらくなるというのは私も同じだ。
私はリーゼさんほど賢くはないので、あまり国のことなどはわからないことも多いのですが、ロイ様にはやらなくてはならないことがあり、それを邪魔するのも良くないということはわかっています。
ロイ様に対して不満ということはないのですが……。やはり少しの時間でもいいから会いたかったものです。
「ですが、私が推薦状を書いている間、手持ち無沙汰だからと手紙をしたためておられました。」
私はアキンドゥさんが取り出したそれを奪うかのような勢いで受け取り、開封し、中に書かれていることを読みます。
嗚呼、ロイ様。
内容は近況報告などのありきたりな文が殆どでしたが、私はふわふわと舞い上がるかのような気分になってしまいました。
ルナのことも大事だけど国のことも大事にしなくてはいけないから――
私をこの国と同じくらい思ってくださっているかのような、その文章の部分を私はこれからロイ様がお帰りになるまで、何度も読み返して過ごすことになります。
ロイ様から初めて貰ったその手紙は、私の抱えていた寂しさなどをすべて吹き飛ばしてしまいました。
さて、私、午後からも、お仕事頑張ります。
あけましておめでとうございます!
年末年始放置しててすみません。
年も明けたし、更新速度を上げれるかと思いきやしばらく難しそうなのが現状です。落ち着いたら毎日更新とまでは言いませんが更新速度を上げるつもりなので長い目で見ていてください。




