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第50話 初依頼

 意識が浮上する。俺はゆっくりと目を開けた。


 知らない天井だ。ああ、そうか。宿に泊まったんだったな。


「おはようございます。ロイ様。」


「おはよう。」


 起き上がって、些か固いベッドから降りる。


 リーゼは先に起きていたようだ。既に着替えも済ませている。



「お着替えお手伝いしましょうか?」


「自分でやるよ。」



 昨晩と同じやり取りをした後、俺は軽く伸びをしてから、服を着替えた。



 部屋から出て階段を下りていく。


「おはよう。よく眠れた?」


「ふぁ~あ。それなりには。」


「昨日割と遅くまで飲んでたからねぇ。」


 リーゼは完全にすっきりと起きているようだが、俺はまだ眠い。


「エリク。それは?」


「今日の新聞だけど。」


「ああ、後で読ませてくれ。」


「もういいよ、読んでもらっても。」


 この世界は魔法があるから勿論文化の発達の仕方も異なる。


 ギルドで使われている魔道具などを見ると裏で誰かが物流を操作していそうな違和感を覚えなくもないが、紙は一般に流通していて特に貴重なものではない。


「んじゃ、朝食とってくるから適当に座っててよ。」


 エリクは俺に新聞を渡した後、厨房に入っていった。



 俺とリーゼはなんとなく昨日と同じ席に腰をかける。


 エリクから渡された新聞に目を通すが、いくつかの記事と広告がいくつか掲載されている物だったが、大したことは書かれていなかった。


 騎士団が引ったくりを捕まえたことが書かれていたのと、王族の精霊を継承する儀式が2週間後にあるといった程度だ。



 平和なのはいいことだがもうちょっとなんかないものかねぇ。



 朝食を取った。ルナの料理と比べるとスキルレベルに加え食べ慣れていないというのがあり、劣るような気がするが、普通に美味しいので特に問題はない。


 毎日美味しいものを食べていても、舌が肥えるということはないのだ。これはリーゼも同様である。


 それに料理なんて個人で味付けも好みも違う。スキルのレベルはあくまで目安といった感じだ。



 その後、俺とリーゼは冒険者ギルドへ移動した。



「うわぁ……。」


 昨日訪れたときとは打って変わっての混み具合である。

 特にギルドの依頼の書かれている掲示板の前では大勢の人がいて、入っていくのが少しためらわれる。


「リースは此処で待ってて。」


  依頼は掲示板の紙を取って受付で提出するシステムらしく、依頼を受けるのを諦めるわけにもいかないので俺は人の群れに入っていく。


 ここで前の世界で養った人ごみを抜けるスキルを発動することによって、さっさと「薬草を採取(報酬は歩合制)」という依頼を取ってきた。



 再度人ごみを抜けると、リーゼに何人かの男が話しかけているのが見えた。



 リーゼは美人だからなぁ。


 男たちを「鑑定」したがそのステータスは大したことはない。


 まあ、いざとなればこの距離なら俺もすぐに対応出来るし問題はないだろう。



「リース。依頼を取って来たよ。」


「あ、早かったですね。」


 リーゼが普通に返事してくる。特に問題はなさそうだ。


「お前がリースさんのお兄さんか。」


「はい。そうですけど。」


 リーゼと話していたらしい男の一人が話しかけてきたので、少しだけ警戒心を持つ。


 相手の出方によっては面倒なことになりかねない。俺は思考を巡らせていくつかのシミュレーションを行う。



 しかし、そのシミュレーションは無駄になった。



「田舎から出てきたんだってな。何か分からないことがあったら先輩が相談にのるぞ。頑張ってな。」



 男はそう言うと、一緒にいた人を連れて去って行った。



 まあ、こんなものか。



 冒険者個人の争いにギルドは関わらないとしても、自分の悪評が広まるのは普通避ける。


 酒が入っていたりするとわからないが、リーゼがいくら美人でも、目立ったところでちょっかいを掛けてくる輩なんてほとんどいないだろう。


「何を話したんだ?」


 俺はリーゼに向き直り、尋ねる。


「新人なのか。と聞かれてしばらく話をしました。田舎から出てきたこととエリクさんの宿に泊まっていることを話したら、“緑の止まり木”に泊まるのを勧められました。」


 話す限りでは親切な人だったようだ。というか普通に親切心で宿を変えるのを勧められるって、その宿はそんなに評判がいいのか。


「そうか。なら問題はないな。」


 薬草の依頼の紙を片手に受付に向かう。



「あれ? セレスってあっちの窓口じゃないの?」


 依頼を受けるため向かった受付にセレスがいたので、前に来た窓口の方を指さしながら聞いてみる。


「登録に関しての窓口なんて、1日で使う人がいるかどうかってレベルだから交代で休憩の人が入るのよ。」


 そうなのか。冒険者ギルドも職員はそれほど多くないのかな?


「なんか調子狂うわね。仕事モード。仕事モード……っと。薬草採取の依頼でよろしいですか?」


「口調は普通でいいぞ。別に上司に報告とかしないから。」


「気分の問題です。Eランク依頼なので問題はありません。気をつけて行ってきてください。」


 まあ口調を強制する気はないからいいか。どうでも。


「じゃあ、行ってきます。」



 依頼を受けた俺たちは依頼の紙に書いてあった西の森に向かう。チフの実が採れると昨日聞いたな。



 まだ、準備中の市場を抜けて、西の森に出る門にさしかかる。


「新人の冒険者さんですか? カードの提示をお願いします。」


 門番をしている人にカードを見せる。新人だと一目で見抜かれたあたり、同じところに勤務していて、ここを通る冒険者とは顔なじみになっているのだろう。


「はい。頑張ってきてくださいね。」


 簡単に持ち物を検査されたが、昨晩聞いた通り、すぐに街から出ることが出来た。




「さて、じゃあ薬草を探すか。」


 これから冒険者としての初めての仕事をする。


 森には適度に光が差し込み、旧サキュバス城――オーベル城周辺の森同様、豊かな自然が広がっていた。


「手分けしますか?」


「いや、俺のスキルを使えばおそらく簡単に探せるから散歩感覚で適当に森林浴しよう。」


 依頼の紙には薬草の絵と似たようなものとの見分け方が簡単に書かれていたが、「鑑定」を使えば見ただけでわかるので簡単だ。


 いちいちしゃがんで茎の色などの特徴を見分けていたら腰を痛めそうだな。


 まあ、光属性魔法で筋肉痛などは知らずに過ごせるし、ステータスの耐久の数値も多少影響するようなので、全然大丈夫なわけだが。



 リーゼと森の中を歩く。特に人とは出会わない。森は広いし、他の方面に行っている冒険者もいるので適度にばらけているからだ。


 それに加え、普通人里にあまり近づかない魔物の討伐の依頼を受けている人たちは森の奥の方に入っているからだろう。



「ミーナたち大丈夫でしょうか。」


「ルナがいるんだから問題ないだろ。というかせっかくなんだから休暇感覚でリフレッシュしないと。」


「そう……ですね……。」


 軽く「身体強化」で感覚を強化して周りに人がいないことを確認し、兄妹ごっこをやめる。


「やっぱり森はいいなぁ……。」


「あまり、うちの国にあるのと見た目は変わらないですが。」


「それはそうだが、人間気分っていうのは大事だぞ。」


「私はサキュバスですから。」


「そうだったな、今はエルフだしな。」



 歩きながら「鑑定」で見ていくと1つ目の薬草を見つけた。


 やはり、全く苦労せずに依頼を達成できそうだな。


 薬草を摘んで袋に入れる。



「そういえば、ロイ様ってルナとは……。」


 ふむ。そういえば特に何も話していなかったな。


 なんと言ったものだろうか。


「俺はルナが好きでルナも俺のことが好きであることを確かめた。そんな感じだ。」


「そうですか。」



 それ以上リーゼは何も言わなかった。


 ルナが生まれたときからってレベルの付き合いみたいだし、娘に彼氏が出来たみたいな感じなのだろうか。



 その後も順調に薬草を集めていった。

 ついでに見かけたホワイトラビットも「投擲」を使ってナイフを投げて数匹狩った。


 旧オーク国の財源がバックについているのでお金には困っていないが、この街に来るために作った設定上、あまりに稼ぎが少ないのにも関わらず、のほほんとしているのもアレだ。



 初依頼の薬草採取を終えた俺たちは森が少し開けているところ、所謂ギャップと呼ばれているようなところで昼食を取ることにした。


 少し木陰になっているところに座り、「インベントリ」からエリクに作ってもらった昼食のサンドバスケットを取り出す。


 昼食については、エリクが朝出かけるときに渡してくれた。



 当初、俺は「インベントリ」に入っている料理を適当に食べるつもりだった。


 というのも以前、料理で余ったものを収納する際に「インベントリ」を「入れた食べ物は腐りにくい収納スキル」とルナに教えたため、「エルフ国で食べたくなったら食べてください」とお弁当を大量に渡されたからだ。


 おそらく遭難したりしてもかなりの時間生きていられるだろう。遭難する予定はないが。



「美味しいですね。」


「そうだな。」


 やはりうちの国で食べていたものとは味付けも微妙に違うし、新鮮な野菜を最大限生かそうとする味付けもエルフ国特有のものだろうか。


 この世界に来てから不味いものなんてほぼ食べてない気がする。



 穏やかな日差しと自然に囲まれているいい場所だが、周りに人の姿は見られない。この辺りで昼食をとるのはルーキーの冒険者だけだろうし、その初心者もこのスポットを見つける頃には初心者を卒業していることが多いだろう。



 何故俺たちがこの場所をあっさり見つけられたのかというと。



「やあ、先に来て待っているとは感心じゃないか。この僕の休日を使わせるんだから少しは楽しませておくれよ。」



 昨日俺に絡んできた騎士――ジルが登場する。


 この場所は昨日決闘の場所として決めておいたのだ。人目につかないところと言ったらここを教えてくれた。



「まだ予定の時間には早いでしょう。」


 俺は口に入っているサンドイッチを飲み込んでから言う。

 昨日と同じ丁寧な口調だ。新人冒険者ということで下手に出ておく。話し方はコミュニケーションをとる上で重要な要素だからな。


「騎士が約束の時間より前に行動するのは基本だよ。構わないから昼食を続けてくれたまえ。」


「昼食ご一緒しませんか?」


 彼の人柄はそんなに悪いものではないだろう。ただ自分の中の正義感が無駄に行動に表れるだけで。


「いや、せっかくのお誘いは感謝するが生憎昼は済ませて来ているのでな。」


 律儀な奴だ。


 とはいってもこの状況でその遠慮はすべきでないだろう。なぜなら。



――気まずい。



 こんな空気感の中、昼食を取るのは嫌だ。不味くなるじゃないか。



 俺は手に持っている分のサンドイッチを食べた後、おもむろに立ち上がる。



「待たせるのも悪いですし、時間より早いですが始めましょう。リースは食べてていいよ。」


 「鑑定」を使ったがジルのステータスは昨日と全く変化は見られなかったし、装備も特出すべきものはない。



 それじゃあ、結果の見えている決闘を始めますかね。

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