第48話 神殿にて
「拝観料はお一人様銅貨5枚になります。」
予定外の出来事もあったが、俺とリーゼは精霊神殿を訪れていた。
神殿といってもしっかりとした建物がそこにはあり、神殿といわれて真っ先に想像する、柱の上に何か乗っかっているだけ、というものとは違った。
王城に近く、立地的に高そうな土地にしては大きな神殿である。まあ、王族が利用しているのだから管理などは問題ないのだろう。拝観料も取られるわけだし。
それにしても年間パスって、買う人どれぐらいいるのだろうか。などと思いつつ、拝観料を支払い、神殿内部に入る。
中に入ると参拝に来ている人が疎らにだがいるようだ。
「凄いですね。」
「ああ。」
壁画や精霊所縁の品などが置かれていて、しっかりと作られていることがわかる。エルフと精霊の歴史などは中々の文章量の説明が書かれており、読みがいがありそうである。
しかし、例えば「精霊樹の枝」と説明がされているものを「鑑定」してみたら何の変哲もない「チフの木の枝」と表示されたりと、置かれているものは微妙なものばかりである。
しばらくして、少し興味が薄くなってきたが、興味深げに色々見て回っているリーゼを見ていると言わないでおこうと思う俺だった。
「あっ!」
順路のようなものに従って奥へと進んでいくとリーゼが曲がり角で人とぶつかりそうになった。
リーゼも素で驚いたようだ。
「すみません。」
「いえいえこちらこそ。」
りーぜが頭を下げて、別段トラブルになることもなく、お互いに謝罪する形で終わる。
その人を見てみるとリーゼに劣らないほどの美人だった。
俺は角を曲がる前に振り返る。
耳が長いからエルフなのだろうと思ったが、少し気になったので後ろから「鑑定」させてもらう。
というのも、感知系を魔法で強化していないとはいえ、俺が全く気配を感じられなかったのを疑問に思ったからだ。
その疑問は驚きとともに解決されることになる。
ステータス
名前:リリス
種族:悪魔【エルフ】
職業:奴隷【冒険者】
Lv:500(経験値427/50000)【50】
年齢:41245800【35】
HP:50000/50000【1000】
MP:50000/50000【1500】
筋力:40000【300】
耐久:40000【300】
素早さ:40000【300】
称号:「殺戮者」【なし】
魔法:「上級光属性魔法」「特級闇属性魔法」「上級無属性魔法」「時空魔法」
【中級光属性魔法】【初級無属性魔法】
スキル:スキル「剣術Lv8(熟練度39/80)」「風属性魔法適正」「光属性魔法適正」「闇属性魔法適性」「時空魔法適正」「無属性魔法適正」
【光属性魔法適正】【無属性魔法適正】
耐性:「全属性魔法耐性(中)」【なし】
状態:「ステータス隠蔽Lv8」【なし】
詳細
「殺戮者」・・・凄まじい数の生き物を殺したものに与えられる称号。闇属性魔法に補正。
「…………え。」
思わず声を出してしまったが、気が付いたらもうその姿は見えなくなっていた。
「どうかされましたか?」
「いや……。なんでもない。」
向こうは今はこちらに敵意も見せなかったし、こちらに無関心な様子だった。
何より、俺に匹敵するステータス数値、優秀な耐性に加え、俺もあまり詳しくわかっていない闇属性の使い手とあっては下手にことを起こしたくない。
他にも気になることはいくつかあったが、後で考えることにする。
左胸に手を当てて、少し高鳴っている心臓の音を感じながら、俺はこの世界について知らないことが多いし、慎重すぎるということはないのだと自分の中で反芻しておく。
一歩間違えればどうなっていたかわからない。
しかし、今は思考を切り替える。あの人にここで会ったということはあの人の目的がこの先に有ったに違いない。
精霊が本当にいるのだろうか。
奥に進むと不思議な空気の漂う空間が広がっていた。
うまくは言えないが今までいたところとは異なった感じがする。
奥には巨大な鏡が置いてあった。こんなに綺麗に反射して移るものはこの世界で一般的に見られるものではない。
そこにいた先客にならって指を畳み、手を合わせて組んで目をつぶる。
――特に精霊にお願いすることもないなぁ。
しばらくして、目を開けると正面に女の人が立っていた。
『はじめまして、かな?』
頭の中に言葉が響く。「翻訳魔法」のようなものか。
俺が口を開こうとするとその人が制してくる。
『あなたにしか私は見えていないからここで騒いだら変人扱いよ。』
俺は瞬時に状況把握に努める。
『ふむ……。ではあなたは。』
『そう。私は精霊と呼ばれているわ。』
本当にいたのか。王族と繋がりがあるとか聞かされていたから、いてもおかしくはないと思っていたけどな。
加えて、さっきのリリスとかいう悪魔が精霊関連で何か目的があってここに来ていたと考えると、その存在が真であると想像するのは容易だ。
『それで、俺に何か? ここを訪れる全員に姿を見せてくれるわけでもなかろう。』
『珍しいお客さんだから挨拶しておこうと思ってね。』
『……。』
《「鑑定」することが出来ませんでした。》
…………何!?
俺の「鑑定」は熟練度が表示されていないからカンストしていて、「鑑定」出来ないものはないと思っていたのだが。
『あ、もしかして「鑑定」使った? 精霊は種族特有のスキルで無効化が出来るの。ごめんなさいね。』
そして、向こうにはこちらの「ステータス偽装」が通じていないのだろうか…………。
「ロイ様? どうかされましたか?」
少し思考に入ろうとすると、隣から声が掛けられた。
「あー。その。ちょっとだけ待ってくれ。」
『俺の連れにも姿を見せることは出来るか?』
『んーー。まあ、特別にいいかな。』
目の前の精霊は指をくるんと宙で回転させた。
『リーゼ。そこにいるのが見えるか?』
『これは……「翻訳魔法」ですか。』
リーゼが視線を移動させる。
『はじめまして。私は精霊のシルフィ。』
『……私はリーゼと言います。』
リーゼは少し驚いた様子だったが素早く場に順応した。
『挨拶も終わったところで要件を聞こうか。』
『要件? 別にないわよ。』
精霊――シルフィはそう言った。
『まさか、本当に挨拶するためだけに?』
『ええ。そろそろ私の順番が回ってきたから起きたけど暇だったからね。』
『その順番というのは?』
『エルフの王族に各代ごとに精霊が1人つくことになってるのよ。エルフって寿命が長くてMPが少し多いだけで身体能力も人間より劣るし、すぐに人間に滅ぼされそうだったから前に気まぐれで力を貸したんだけどね。その流れで王族の1人に精霊が1人つくことになってるの。成り行きの惰性よ。惰性。』
展示されてる品は適当でも書いてあった歴史は概ね正しいのだろうか。
というか、惰性とか言っていいのか? 日本の神社程度には信仰している人いるっぽいが。ここの年間パスポートを買ったエルフに聞かせてみたい。
『精霊はたくさんいるのか?』
『そうね。でも基本的にこの鏡の中の別空間で寝てるわよ。』
『寝てる?』
『精霊は不死ではないけど不老だからね。面白いことあったら起こしてってスタンスのやつがほとんどだし、気まぐれで死ぬやつもたまにいるし。』
なんか俺とは普通に感覚が違うっぽいな。
『ついでに聞いておくがさっき来た悪魔とは何かあったのか?』
『悪魔がいたんですか!?』
『リーゼには言ってなかったな。あの角でぶつかったのがそうだ。』
『そうですか……悪魔が既に……。』
リーゼは小声で何か言った後、自分の世界に入って何か考え事を始める。
ぶつかった時に何か気づいたことでもあったのだろうか。
『ああ、この鏡をうろうろしながら色々見てた子かしら。拝んでいかなかったから覚えているけれど、特に何もしていかなかったわよ。……悪魔なんて珍しいわよね。』
『悪魔って数が少ないのか?』
『んーそうね……って、あなた色々聞きすぎじゃない? あまり私から情報を引き出そうとしないの。』
子どもをたしなめるような口調でそう言われる。
色々知ってそうで情報を集められると思ったが、これ以上聞き出すのは難しいか。
『それは悪かった。』
『わかればよろしい。数日後にここで儀式やるっぽいからよかったら見に来てよ。まあ、退屈なものだけど。』
『わかったよ。シルフィ。来れたら来るよ。』
『それって来れない時の台詞じゃない?』
『都合がつけば本当に来るって。』
んじゃ、目的も済んだし。ダラダラ宿に戻るかな。
リアルの都合もありますが思ったように筆が進みませんね……。




