第46話 宿を決める
前話で冒険者ギルドの受付の人に「鑑定」を使う描写を追加しました。
行き当たりばったりで書いててすみません。
俺たちは次に冒険者ギルドの受付の人に紹介された宿を訪れていた。
“森の宿”という看板がみられるが、外観にあまり特徴はなく、2階建てのつくりであることがうかがえる。
森の中の都市だからか、ここからでも見える城を除いて、木造建築が多くみられる。この宿も例外ではない。
――カランカラン
ドアについていたベルを鳴らしながらその宿に入る。
宿に入ると広いスペースがそこにはあった。テーブルや椅子が大量に並んでいる。1階は食事処で2階が宿という作りなのだろうか。
冒険者が主な利用者層だからか他に客の姿は見られない。
「すみませーん!」
人の姿が見えないので声を出すと、男が出てきた。
見た目は20代前半ぐらいだが、エルフなのでなんとも言えない感じだ。
「鑑定」を使うと30歳であった。俺の偽装している年齢と同じだ。ステータス数値は平均的。
名前はエリクというらしい。
「いらっしゃい。泊まりの人ですか?」
「はい。冒険者ギルドの人にここを勧められました。」
ここで俺は気が付く。「鑑定」で受付嬢の名前は知っていたが、直接聞くのを忘れていた。今後は気をつけるとしよう。
「ギルドで? ああ、セレスか……。1泊銅貨20枚。食事は銅貨5枚で出すよ。」
エリクが名前を言ってくれたので特に今回は問題にはならなさそうだな。よかった。
「わかりました。とりあえず3日分ぐらいで、今日の夕食は此処で食べます。」
なんとなくここに泊まることに決めた。勧められたこともあるし、エリクがスキル「料理Lv2」を持っていたから悪くはなさそうだと思ったからである。
ちなみに余談だが、ルナが最近「料理Lv5」に達して上限に達した。パーフェクトなメイドである。これと比べてしまうとアレだが、スキルのレベルが2もあれば十分美味い食事が期待できる。
するとエリクは少し驚いたような顔をした。
「……お客さんこの街は初めてかい?」
「そうです。」
「やっぱりね……。セレスも余計なことを……。」
目の前の青年――エリクはため息を吐きながらそう言った。
「この宿は少し前までは人気の宿だったんだが、親父が逝っちまってから食事の質が下がったとか色んな噂が流れてね。最近大手の商会が経営し始めた“緑の止まり木”という宿に客が移ってしまってね。ここを畳むことも考えているところさ。」
落ち込んだ様子のまま続ける。
「セレスは幼馴染で僕に世話を焼いてここを勧めてくれたんだろうけど、別にセレスには言っておくから無理にここに泊まらなくていいよ。“緑の止まり木”は低料金で飲み放題をうたっているからね。冒険者さんだと尚更そちらのがいいだろう。」
なんか諦めムードの青年に少しイライラしてきた。この程度のことでサキュバス国に来た当初の国民と同じ雰囲気を漂わせているあたりが。
「俺は此処に泊まると言ったんだが、ここには泊まれないのか?」
口調の丁寧語をやめて、苛立ったのを隠さず、そう言う。
「はいぃっ!泊まっていただけます!」
特に「威圧」もしていないのだが、目の前の青年は反射的にそう答えた。
「俺は別にここが悪くないと思ったから泊まると言ったんだ。別に今日会ったばかりのギルドの受付嬢なんかに義理を立てようとは思っていない。」
俺としては泊まるところとしてただ好都合だったからに過ぎない。ギルドで聞かされたので人気の宿の可能性が高いかなとは思ったが、雰囲気が悪かったら泊まる気は全くなかった。
リーゼがいるから冒険者ばかりの宿だと絡まれないか少し不安もある。宿にいるときぐらい落ち着いていたいものだ。
まあ、デメリットとしては宿で他の冒険者からの情報収集が出来ないことだが、その程度どうにでもなる。
「あ、あ、ありがとうございます!!」
エリクは頭を下げる。別に俺の中で都合がよかっただけで。合わなければ別にその人気の宿に泊まりに行ってる可能性もあるので感謝されることは全くないのだが。
「別に同情で泊まるわけじゃない。頭を上げてくれ。」
「とりあえず3日分と今日の夕食代。俺はラインハルトだ。こっちは。」
「妹のリースです。」
そうして、俺は丁寧口調を完全にやめる。
俺の名前を聞いて少し驚いた様子が窺えた。やはり珍しいのか。
しかし、まもなく初めてリーゼに意識を向けたエリクが少し緊張した様子になる。リーゼは身内びいき目抜きで凄い美人だからなぁ。
俺は銀貨と銅貨を使ってエリクに支払いをすませた。
「あ、はい確かに。僕の名前はエリクです。計算お早いんですね。」
「そうか?」
この世界では特に乗除算が発達していないということはなかったはずだ。リーゼも普通に使っていたし、オークのラインハルトでさえ使えた。
「あ、冒険者さんの多くは計算出来ないことはないですが、そんなに瞬時に計算できる人は少ないですよ。」
義務教育とかで習わなければそんなにしっかり学ぶことも少ないのかもな。
「俺たちはこの街に来たばかりで、少し休みたいんだが、今から部屋に入れてもらうことって可能かな?」
「構いませんよ。部屋に案内します。」
エリクに部屋に案内してもらう。やはり2階が客室になっているようだった。
「こちらになります。」
「ん?1部屋なのか?」
「冒険者さんは1部屋に泊まられることが多いので部屋も広い作りですし、リースさんとはご兄妹なんですよね?」
あー、そんな設定だったな。
「私は全然気にしませんよ。お兄様。」
え、リーゼその呼び方で行くつもり!?
……まあいいか。本人が良いっていうならいいし。俺は紳士だから別に合意がなければ手を出すつもりもない。
ルナがいなければ、やはり男だし、少しは何かあったかもしれないが。
「じゃあ問題ない。」
部屋に案内され、エリクは1階に戻っていった。
俺とリーゼは部屋に入る。
「はぁー。これはなかなか。」
部屋は広めでベッドは2つあった。1つだったらどうしようかと思ったが、兄妹って言ってあるのでその辺りは問題ない。
他にはテーブルとイスがあり、シンプルながらよい部屋であると感じる。
手荷物を置いた後、椅子に腰をかけ、「インベントリ」からカップと茶葉を取り出して魔法で紅茶を淹れる。
ルナに作ってもらったクッキーも取り出す。
「リーゼ、しばらく休憩してからだけど、どこ行きたい?」
エリクが1階に行き、2階に誰もいないことを確認したので力を抜いて話す。
「特に希望はないです。ロイ様の行きたいところでかまいませんよ。」
想定した通りの答えが返ってきた。「何でもいい」は一番困るんだが。
「それじゃあ、エリクに観光スポットでも聞いてみるか。数日を予定してるから最初の数日は観光で問題ないだろ。」
「はい。そうしましょう。」
あっさり予定が決まった。
「じゃあ、少し寝るかー。」
俺はベッドにダイビングして、狸寝入りを始める。
目をつぶっていても、メニューなどは見ることが出来るのでそれで「異世界知識」を使って小説を読み始めた。
こうでもしないとリーゼがくつろげないからという配慮でもある。
絶対俺が起きてたらリーゼは力を抜けないだろう。もう1年は一緒に生活しているのだから別に俺は全く気にしないのだが、リーゼはそうではないらしい。
リーゼも横になるのを「魔力ソナー」を気づかれないように放って確認した後、俺は小説の世界に入り込んだ。
著作権切れの小説を1冊読み終えた頃、リーゼが目を覚ましたのを確認したので、俺も自然な感じで起き上がる。
「ん~~おはよ。」
「あっ、おはようございます。」
リーゼは慌てて崩れた髪型を整える。
もうちょっと待つべきだったな。しまった。
「うん。じゃあ行こうか。」
「はい。」
1階に下りて、エリクにおすすめの観光スポットを聞いてみる。
「そうだなぁ……。やっぱり精霊神殿かな。」
「精霊神殿?」
初めて聞く単語である。エルフ国については下調べをしたが、やはり知らないことの方が多いだろう。
「あれ?有名なのに知らないんですか? 僕たちのご先祖様が人間が大きな勢力を持っている中で繁栄できたのは、精霊の力を借りられたおかげだと言われていることは知っているよね?」
勿論全く知らない。
「なんとなくは。」
俺の曖昧な返答にはさして気を留めず、エリクは話を続ける。
「精霊がいる空間に繋がる神殿と呼ばれているところがこの土地にあるんです。」
「精霊がいるんですか?」
リーゼも驚いて尋ねる。
「精霊の存在は間違いないと思います。王族はそこで世代替わりのときに儀式を行って「精霊魔法」を継承しているらしいですし。というか、お二人ともあまり自分の種族の歴史とか自分のいる国について知識が薄いんですね。」
「田舎暮らしだったからなぁ。」
俺は適当に返事しておく。
それにしても精霊か。やはり興味はあるな。行ってみるとしよう。
「じゃあ、精霊神殿に行ってみるよ。」
「そうですか。お気をつけて。」
エリクにそう告げて、俺たちはいったん宿を後にするのだった。




