第45話 冒険者ギルド
「俺は必ずリーゼのところに戻ってくるよ。」
彼は私の小さい目線までしゃがみこんで、私の頭を撫でる。
これは私の記憶。幼少時代のぼんやりとした中ではっきり覚えている少ない記憶。
「ぜったい? すぐに帰ってくる?」
「う~ん……。すぐは難しいかもしれないけど絶対だ。」
彼は立ち上がり、少し困ったような表情で頬をかきながらそう答える。
「うん!わたし、ゆーしゃさまが帰ってくるまでちゃんといい子でいるから!」
彼は愛おしむような視線を私に向ける。
「じゃあ、行ってくる。俺は“勇者ラインハルト”だからな。」
彼はそう言って、私に背を向けて去っていく。
幼いながらも自覚していた。「今の私は勇者の隣にいることは出来ない。」
私は彼が見えなくなるまでそこに立ったまま、自分の小さな手を力いっぱい握りしめながらその後ろ姿を目に焼き付けていた。
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馬の面倒を見てくれるところに馬車を預けた後、俺たちは身分証を作ってもらうため冒険者ギルドへ向かっていた。
色々ギルドはあり、商人ギルドと迷ったのだが、冒険者ギルドにすることにした。
単純に商売を始める予定がなかったという理由だ。
露店が並んでいる通りを歩く。そこは客引きの声で騒がしくなっていた。
身分証はこれから街を訪れるときなどに今回のように時間がかかるのを短縮したり、その他もろもろで時間を掛けないために必要なものだ。
冒険者ギルドという場所は楽しみだが特に急いでいるわけではない。
「串焼き2本ください。」
「はいよ。2本で銅貨4枚ね。」
いい感じのおっさんがやっている店で串焼きを買う。
俺は腰に下げている袋から銅貨2枚を取り出して渡す。
通貨単位についてはここに来るまでに学んでおいた。
この世界では共通の通貨が使われており、簡単に説明すると銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚となっているらしい。
世界で共通の通貨というのに違和感があるが、この世界の歴史はオーク国にあった資料を見てもあまり知ることは出来なかった。
機会があれば歴史について知りたい。ラインハルトの件で「勇者の伝説」なるものを知ったが、それが歴史なのか創作なのかはまた、曖昧であった。
金額の単位の呼び方は存在せず、書面などでは$100のように銅貨の枚数に換算して表記するようだ。これは前の世界でもあったマークにしか見えないが、言語が完全に学ぶ必要なく通じているあたり、もう気にしないことにした。
「はい。リースも食べるだろ?」
おっさんから串焼きを2本受け取り、1本をリーゼに渡す。
ここでは偽名を使うよう、事前に門で順番待ちをしているときに馬車で打ち合わせをしておいた。
ステータスを偽装しているので、名前も問題なく偽装してある。
一応、念のためだ。
「…………。」
「どうかしたか?」
「あ、はい。大丈夫です。食べます。」
リーゼはやはり疲れているようだ。
連れてこないほうがよかっただろうか。だが、普通に休ませると絶対働くとか言い出すしなぁ。
とりあえず、冒険者登録したら宿を決めてゆっくり休もう。
「あっ、美味しい。」
しかし、その直後、リーゼがそう言ったのを聞いて少し連れてきてよかったかなと思った。
俺たちは串焼きを食べながら冒険者ギルドへ向かう。
さっき串焼きを食べながら歩いている人を何人か見かけたので食べながら歩いても問題ないだろう。
俺はこの世界の文化の違いに慎重にならざるを得ない。今のところ大丈夫だがいつ、重大な失敗をしてもおかしくないからだ。
気になる店の場所などを頭に入れながら、馬車を預けるときに聞いた冒険者ギルドの場所へとたどり着いた。
「ここか……。」
周辺の建物に比べてあまりにも立派な建物である。
世界中にあるってやっぱり儲かってんのかなぁ。
ファンタジー小説で何度も目にした冒険者ギルドという存在に少しばかりわくわくしながら俺はリーゼをつれて、建物に足を踏み入れた。
建物の中は人がまばらにいる程度であった。今は真昼間だ。冒険者と呼ばれる人たちの大半は仕事に出ているのだろう。
俺は看板を見て真っ直ぐにカウンターへ向かう。受付にはエルフの女の人がいた。
「鑑定」を使ってみるが、ステータスに特に特徴は見られなかった。名前はセレスというらしい。
「はい。こちら冒険者登録窓口になります。登録ですか?」
「そうです。妹と一緒に。」
「では、こちらの登録用紙にご記入ください。料金は1人銀貨1枚になります。代筆は必要ですか?」
「大丈夫です。」
俺は用紙を受け取り、リーゼとともに必要事項を埋めていく。
内容は名前、種族、年齢程度だったのですぐに書き終える。
「はい。書き終わりましたら、用紙を私に提出した後、こちらの「鑑定水晶」に触れてください。」
俺は目の前の「鑑定水晶」に鑑定を掛ける。すると「鑑定水晶Lv4」と表示される。
「鑑定水晶」のレベルは鑑定のスキルレベルと一致するようなので、こちらの「ステータス偽装」は問題なく通じるだろう。
俺はそれを確認して、目の前の鑑定水晶に触れる。
すると「鑑定水晶」の中にはステータスの一部が表示された。
ステータス
名前:ラインハルト
種族:エルフ
職業:農家
Lv:2(経験値10/200)
年齢:30
ふむ。ノワール国にあったものと比べ、Lv3とLv4の違いとしては年齢の項目が追加されているようだな。
エルフは長寿なようなので人間にくらべて年齢を少し大きめに設定しておいた。
そんなことを考えていると受付の女の人が少し驚いた顔をしていることに気づいた。
「どうかしましたか……?」
なんかやらかしてしまったことがあるのだろうか。特に問題はないはずだが。
「あ、いえ。ラインハルトって本名だったんですね。」
そんなことを言われる。
「珍しいんですか? 伝説の勇者の名前からとったと親から聞かされたのですが。」
「そうですね。有名な方とまったく同じ名前をつけるという方はあまり見かけませんね。」
そうだったのか。特に名前にこだわりもなかったから、カッコいいと思ったラインハルトの名前を偽名に使おうとしたんだが、珍しいのか。
キラキラネームとか呼ばれるやつに分類されてしまうのだろうか。
「昔は好きな名前で登録していいことになっていたんですが、そうすると有名な名前で登録したい人で溢れかえって、同じ名前では登録できないと言うと「†ラインハルト†」とかで登録する人も現れてしまったので本名にすることにしたんです。本名にしても同じ名前の人はたまにいらっしゃいますが。」
「では、今はラインハルトという冒険者は?」
「確かいなかったと思います。名簿は数年ごとに世界中で共有されるのですが去年の更新分でその名前は見かけませんでした。」
そんな珍しいのか。
まあ、自由に登録名を決めれた時代のエピソードからして、ラインハルトという名前は前の世界でのネットのハンドルネームみたいな扱いらしい。
……キラキラネームと言われても仕方ないのか。
この名前にすると言ったとき、リーゼは少し驚いた表情をしたように感じられたが、何も言わなかったぞ。
言ってくれればよかったのに。
リーゼも同じように「鑑定水晶」に触れて、銀貨2枚を支払い、何事もなく登録を終えた。
「では、冒険者ギルドについて説明をさせていただきます。もう知っておられても一応規則ですので。」
「わかりました。」
「冒険者ギルドは魔物の討伐や商人の馬車の護衛などの依頼を請け負っています。依頼は登録した冒険者に行ってもらい、達成に応じてランクが上がるシステムになっております。他にも実力があると判断された場合もランクが上がる可能性があります。ランクとしては下からE、D、C、B、A、Sとなっており、Dランクまでの方には1か月に1度、依頼を受ける義務を課しています。」
受付の人は説明を続ける。
「登録時のレベルで初期のランクは決定されます。実力がある人に簡単な依頼を受け続けさせては非効率ですし。」
「レベルが低くても実力のある方はいるのでは?」
「そうですね。1~2レベルならば低くても身体能力は同等、ということはあります。しかし、こういう言い方はアレですが、レベルを上がることによる身体能力の上昇に比べたらレベルを上げない鍛錬による違いは些細なものですから。レベルを上げずに鍛えられるのはスキルの錬度が主で、国の軍などでも最低限の身体能力を付けた後は、「剣術」などを学ぶのが訓練の主な内容で後は魔物を狩って鍛えていますので。」
「なるほど。」
一般的に言って圧倒的ステータスを持っていた俺は、他の人の訓練の相手をしてやることでステータス数値を格段に上げることが出来ていたが、普通はそんな方法は取らないのか。
それに訓練をする意識も必要なようなので、スキルの熟練度を上げてやる意識をしながら訓練をつければステータス数値の上昇はないのかもしれない。
後、考えられる要因としてはそこまでの能力に至ったものが、能力の低い人の訓練の相手をすることが少ない、とかであろうか。
「ラインハルトさんとリースさんは共にレベル2ということでEランクからのスタートになりますね。こちらが身分証としても使えるギルド証になります。身分証として悪用を避けるため、再発行にはかなりのお金がかかりますので注意してください。」
俺とリーゼはギルド証を受け取った。
「ギルドにはお金を預けることが出来ます、そしてどの支部でもお金の受け取りは可能です。」
「そんなことが可能なんですか?」
前の世界の現代社会ならともかくこの時代、通帳の偽造とかいくらでもできそうだが。
「ギルド証は各支部にある魔道具でしか読み書き出来ない内容を記録することが出来るんですよ。このような特殊な魔道具が何個も発見されたので、各ギルドともにそれを使っています。ランクも他の支部とですぐに反映させないと困るでしょう?」
これは魔道具で読み書きできるメモリーカードみたいなものらしい。
詳細
冒険者ギルドカード・・・冒険者ギルドの一員である身分証。一部魔道具で情報の読み書きが出来る。
「鑑定」しても追加情報はなしか。
というかこんな都合のいい魔道具がいくつも発見されるものなのか? 魔道具は今の時代古代のものが発掘されたりするのみという常識が存在するようだが、おそらく隠されているだけでこの世界の今の時代にも魔道具を作れるものは存在しているのだろうと推測がつく。
「今日は依頼を受けられますか?」
「あー今日はやめておきます。この街に来たばかりなので宿を探さないと。」
そのうち依頼は受けなくてはならないだろうな。Cランクになるまで定期的に依頼を受けなくてはならないというのはめんどくさい。
まあ、この街には数日滞在する予定なので1つぐらい適当にこなすか。
「それなら、知り合いがやっている宿を紹介しましょうか?」
「ではお願いできますか? 泊まるかは行ってみてから決めますが。」
「それで全然大丈夫です。」
そして、受付の女の人におすすめの宿を聞いて、俺たちは冒険者ギルドを後にした。
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「はい、リースも食べるだろ?」
ロイ様の言葉を聞いて幼いころの記憶が蘇る。
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「はい。リーゼも食べるだろ?」
「なぁにこれ?」
「アイスっていうんだ。冷たくて美味しいぞ。」
私はそのアイスというやつを受け取って食べてみる。
それは冷たくて、今まで食べたことのないものだった。
「おいしい!」
「そっか。良かった。」
ゆーしゃさまがこちらに微笑んでくれるのを見ると私も心がぽかぽかしてくる。いつまでもゆーしゃさまと一緒にいたいな。
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「どうかしたか?」
ロイ様が少し心配そうな声音で訪ねてくる。
「あ、はい。大丈夫です。食べます。」
私は串焼きを受け取った。
最近幼いころの記憶がよく蘇ってくる。
オークの「ラインハルト」という名前を聞いたとき複雑な気持ちになった。
それから、今まで必死にサキュバスの国のために働いていて、自分のことなどあまり考える余裕はなかったからか、なんとなく昔のことを思い出すことが多くなった。
――勇者様。
幼いころの記憶はぼんやりしている。勇者様の顔ですら今の私ははっきりと覚えていない。
私がラム様――サキュバス国の先代の王、女王に仕えていたのは彼女への恩の部分が大きいが、最後に後押しをしてくれたのは勇者様の存在だった。
勇者様と別れた後、勇者様はどうなったのか私は知らない。
ラム様に教えてもらった。「勇者の伝説」の物語でしか。
絶対私のもとに帰ってくると勇者様は言ったが、また会える確率は0に等しいだろう。私はそう思うと同時に勇者様のことを考えるのをやめた。
ロイ様は私の中で何故か勇者様と被る部分がある。
私を救ってくれたという点では似ているのかもしれないが、何か……。
私は不思議な感覚を覚えるのだった。
違う視点で同じ話をするのは今後やらないとは断言しませんが、煩わしいのでこんな感じにしてみました。
エタる気はないので正直いつになるかはわかりませんがちゃんと回収しますよ?
近いうちに差し向かいでご不審を解いて差し上げよう。
11/10 主人公が受付嬢に鑑定を使う文を追加。




