第42話 みんな強くなる
「お、いたいた。」
城の中庭でヴァイスとマリー、そしてミーナを見つけた。
ヴァイスに対してマリーとミーナの2人がかりで戦っている。
ミーナは火属性魔法で戦うようだ。火球を自分の周りの一定距離に滞空させるイメージで出しておき、それを攻撃にも防御にも用いるようだ。
「かなり強くなってるよな。」
1年間俺と訓練してきたヴァイスが相手をすることで「高いステータスの者と戦闘訓練をするとステータスの数値が上がりやすい」効果が発揮されている。
初めからこの方法を取ればよかったじゃないかと思われるかもしれないが、基礎体力をつけるのと精神の成長を促すために“打倒オーク国”を目標にした1年間は無駄ではない。
そもそもステータスに関しては知識がなかったし、ヴァイスのステータスの上昇が早かったのも初めのうちは「変異種だからだろうか。」と思っていたので気づくまでに時間がかかった。
まあ、精神的に多少未熟なヴァイスもまだ若い。影響を受けやすいだろうからマリーや、城にいる人たちからいい影響を受けてくれるから大丈夫だろう。
というのも通常の狼の寿命は野生で5~6年と言われているが、森で見かけたブラックウルフは年齢が30とかのやつも見かけた。このことからヴァイスの寿命も長いと推測できるからである。
今のうちの国のメンバーのステータスの強さで言うとハクア、俺、ヴァイス、ルナ、ミーナ、リーゼ、マリー、アンと続くだろう。
ルナは俺と港町を作るときに訓練をしたのでヴァイスとの訓練より上りが大きい。ミーナとリーゼはヴァイスとの訓練を行っているようであるし勿論ステータスは高い。
そしてマリーは1年間の基礎訓練をしていないので他の者に比べると劣る。と言ったところだろうか。
ちなみに、主にサキュバス、残りは有志のオークという軍をノワール国は持っているが、そこのトップはアンという少女が勤めている。
若いが、皆から信頼され、旧オーク国王都に来てからもミーナと訓練しているようなのでアンのステータスは割と高いだろう。
「あっ、ロイ様~!」
ミーナがこちらに気づいたようで戦いを中断する。
ヴァイスは嗅覚で既に気づいていたようだがな。
「ロイ様見ましたか? 私強くなりましたよね?」
「ああ、見てたぞ。ステータスも高くなったようだし、火属性魔法を展開して戦うのは上手い手だと思うぞ。」
ルナほどの空間把握能力でも魔法の同時操作には苦労していた。
自分と一定距離に滞空させて必要な時にだけ操作するというのは、滞空状態から1度に全部操作出来ないとしても、相手から見れば警戒しなければならないものが増えるのだから、手軽に行える非常によい方法と言えるだろう。
「えへへ~。そうでしょうそうでしょう。でも、ヴァイスくん強すぎて私とマリーちゃんで協力しても全然勝てないんですけどね。」
「十分検討している方だと思うぞ? マリーとの連携もそこそこだし。」
「そこそこって……。正直な評価ですねぇ……。」
「でもよくやっているよ。」
俺はミーナの頭をポンポンと叩いてやる。
「ヴァイスはマリーとうまくやれてるか?」
俺はヴァイスに直接声をかける。
『大丈夫です。うまくやれています。』
1年前からリスニングを練習してきた結果、今では、双方向でなく話すときにのみ「翻訳魔法」を使っているのだ。
「マリーはどうだ?ここの生活には慣れたか?」
「……はい。師匠とともに頑張ってます。」
「師匠って?」
「……ヴァイスは師匠なのです。」
「そうか。」
マリーは初めて会ったときを除いて、少し感情を表に出さない雰囲気がある。
親を殺されたらしいし、そのせいか元々なのかは知らないが。
それはともかく、ヴァイスがドヤ顔をしている。お前が呼ばせているのか。
「マリーは頑張ってるな。」
マリーの頭を撫でてやる。心なしか少しうれしそうだ。
「……ん。ロイ。」
「なんだ?」
「……私早く強くなりたい。」
「焦る必要はない。大丈夫だ。」
マリーは強くなる。最初は少し不安だったが、ヴァイスとも上手くやれているようだしよかった。
「ロイ様も参加します?」
ミーナが提案してきた。
「ちょっとならいいぞ。」
「じゃあこっちに加わりましょう。」
ミーナが腕に抱き着いて、を引っぱって来る。
腕に柔らかい感触が当たっている。貧乳だとしても女の子は柔らかいものなのだろうか。
『ちょっと待って。ご主人が加わって3対1って勝ち目無くないですか??』
ヴァイスが抗議してくる。
「じゃあ、マリーちゃんはヴァイスくんの方についていいですよ。」
「……師匠は強いけどおそらくロイの方が強い。私がそっちにつく。」
「だめですー。私がロイ様と組むんですー。」
「……大人げない。」
「ぐぬぬ……。そんなこといってもダメですぅー。」
「……じゃあ、まず私たちで戦ってチーム分けを決めよう。」
「望むところですよ。」
どうやら2人で戦うらしい。
俺とヴァイスは離れたところで見ているとしよう。
「今更謝っても遅いですからね!年下でも容赦しませんよ!」
「……私からしかけてるんだから勿論勝つ。」
2人の戦いが始まった。
マリーは小さいナイフとその小さな身体を生かして素早く動き回り攻撃。補助的にヴァイスから教わったのであろう水属性に位置する氷魔法をつかっている。
ミーナはさっきと同じ戦闘スタイルで戦うようだ。
「いきますよー。火球ー。」
ミーナが周りに展開した火球を放つが、それをマリーは躱す。
そしてマリーが接近するが、火球がミーナの周りにあるため、迂闊に近づくことは出来ない。
「……負けない。氷岩」
マリーが大きな氷のつぶてを前に展開し、ともに突撃する。
――シュゥゥゥ…………。
氷岩が火球にぶつかると水の霧が発生し、マリーの姿が見えなくなる。
「……そこ。」
マリーの姿は見えなくなったが、ミーナは火球を周りに展開しているため位置が把握されやすい。
マリーがナイフでミーナに斬りかかる。
「くっ……!」
ミーナはぎりぎりだったが火球での対応が間に合った。
反撃される前に、素早くマリーが距離をとる。
「……前から考えてた作戦だったのに。」
少し悔しそうにマリーが言う。
「ふっふっふ。これでも私の方が地のステータスが高い上、一応レベルはロイ様並みですからね。」
そうなのだ。ステータスの数値は訓練や戦闘でレベルが上がらずとも上がっていくが、レベルが上がるのは生き物を殺した時のみのようだ。
その経験値も生き物によって異なる。
魚釣りをしたとき、経験値が変動していなかった。1にもなっていないが溜まっているのか、経験値が入っていないかは謎である。
……今度漁師のステータスでも確認するか。
そして、レベルが上がるとステータス数値の底上げが行われるといった感じである。
ミーナはオーク国との戦争で空爆でオークの殲滅を行っているため、ミーナのステータスを見たら、レベルは俺と同じぐらい上がっていた。
ちなみに何故レベルの数値をミーナが知っているかというと、今いるこの城から「鑑定水晶」なる魔道具を見つけたからだ。
リーゼ曰く、「鑑定の魔道具はそれぞれ性能が異なるらしい。」とのことだ。
この「鑑定水晶」は正しくは「鑑定水晶Lv3」という。名前、レベルそして種族が表示される程度のものだった。
それで自分のレベルを知ったミーナに聞かれたので俺のレベルを正直に告げておいた。
何故正直に言ったかというと、俺にとって、おそらくヴァイスや俺と訓練しているミーナもだが、レベルによるステータスの底上げの恩恵はあまり関係ないレベルであるので、言っても大した問題ではないと判断したからだ。
ミーナとマリーは戦いを続けている。
しかし、初めのマリー作戦が破られたとはいえ、拮抗しているように見える。
お互いの手や癖をある程度知っているのが大きいのだろう。さっきのマリーの攻撃もミーナはある程度攻撃されるであろう箇所を限定して構えていたように見える。
勝負は拮抗しているように見える。
ふと思ったが今、リーゼは眠っているから俺がいなかったら重傷を負ったときに魔法で治療できるやついなくないか?
後で説教してやろう。
日が沈みそうになるまで2人は戦っていたが、勝敗は結局つかなかった。
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「じゃあ、地名を決めようと思う。」
夕食を食べ終え、港町での出来事を話し終えた後、俺は言う。
「そうですね。今まで決めていなかったのが不思議です。」
睡眠から早くも復帰したリーゼが同意する。
「忙しかったからな。いろいろと。」
最近の出来事を脳内で振り返る。
「王都はここになるの?」
ミーナが質問してくる。
「今更だな。王都はここにする。外交とか考えるとここに立地するのがベターだろうしな。王都は「○○国王都」って名前が一般的らしいから特に異論がなければ、ここは「ノワール国王都」でいいだろう。」
「それでいいでしょう。決めたいのは元サキュバス国王都と新しくできた港町ですね。」
リーゼがある程度話を進行してくれるようだ。任せよう。
「何がいいですかね……。」
そうルナが言い。皆も考え始めた。
「「サキュバスの町」でどうでしょう?」
「ミーナ。多種属の国なのですからそのネーミングはどうかと。」
「そっか。」
ミーナが案を出すがルナが却下する。
そうしてみんなで考えてみるが、あまりいいのが出ない。途中でマリーとヴァイスは考えるのを放棄し、途中で寝た。
悩んだ末、元サキュバス国王都は「オーベル」、港町は「ドラゴンポート」ということに決定した。
「オーベル」は序曲を表す「オーベルテューレ」を縮めたものだ。この国の原点という意味も込めて。
もう一つはそのままだ。
種族の名前から取るのはあまりよくないと思われたが、会議が停滞し、いい案も出る様子がなくなったので、俺の「ドラゴンは強さの象徴っぽいところあるし、ハクアは水竜だし種族名ではない。これでいいんじゃないか?」という雑な理屈に皆が賛成しそれに決まった。
こうして地名が決まった。
主人公のせいでレベルが飾りとなっております。




