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第41話 貿易計画

「う~ん……。やっと着いたなぁ~……。」


 元オーク国王都に到着し、馬車から降りて伸びをする。

 続いてルナも降りてくる。


「やはり飛んで来ればよかったのでは? ロイ様が本気を出したら速度に私は追いつけないでしょうが。」


「まあ、そういうなって、この“冷蔵馬車”の試験運行も出来たしな。」


 俺が乗ってきたこの馬車、これには冷蔵、冷凍庫となる魔道具になっている。魔力の燃費もそれほど悪くはない。

 これは「インベントリ」に数台入れてきている。今リーゼが滞在させている予定の商人へPRしてやる予定だ。


 一応こちらだけで独自に貿易を進めていくことは出来るが、コネが利用できるなら利用したいからな。多少優位性を取った上で働いてもらうとしよう。


 向こうにも利益あるからな。決して悪い話ではない。


「あ、お帰りなさいませ。魔王様。」


 ルナと門に歩いていくとメイドの一人に挨拶される。確かミーナと仲のいい、さっちゃんとかいう子だ。


「ただいま。」


 そして、城に入る。

 城の様子に特に変わったことはない。とりあえず、リーゼのところに行くか。


 長い廊下を歩いていくと、リーゼの後ろ姿が見えた。


「リーゼ。帰ったぞ。」


 こちらを振り返ったリーゼは心なしかかなりやつれているように見えた。


「ロイ様。お帰りなさいませ。」


 こちらを振り返ってこちらに向かって歩いて来るかと思いきや、ふらふらしながら廊下にある台に激突した。


「はう!」


「大丈夫か!?」

「リーゼ様!!?」


 俺とルナはリーゼに駆け寄る。台に壺が置かれていなくて幸いだったな。


 既にさっちゃんに割られていただけであるのだが。


「はい。大丈夫です。」


「大丈夫じゃないだろ。」


「大丈夫ですって、ちゃんと訓練も怠っていませんし、書類仕事ももうすぐ目途が付きそうです。」


 そう言うリーゼは疲れ切った表情で微笑みを浮かべている。


 書類仕事はおそらく俺がやろうと思って残して置いたのも含まれているだろう。


 いやいや、働きすぎでしょ。ブラック企業か。


「ありがたいけど、そんなになるまでやられたら逆に有難迷惑だぞ。ゆっくり休め。」


 俺は光属性魔法で疲労を回復させる。


「いえ、私はまだ大丈夫です。」


「大丈夫じゃないって。今日はもう休め。命令だ。」


「でも。」


「でもじゃない。」


 もう俺は強引に闇属性魔法を使ってリーゼを眠らせる。


「はぁ……。ルナ、とりあえずリーゼを部屋まで運ぶぞ。」


「はい。そういたしましょう。」


 リーゼを部屋に送り届けた後、俺はリーゼの執務室から資料などを漁って仕事の進捗具合を確認する。


 ふむ。商人の件だが、リーゼがいた方がいいと思っていたが、早めにやりたいし、この際俺だけで進めるか。

 資料は完璧に作られてるし引き継ぎにも問題ないだろ。



 俺は優先順位を脳内で組み立てる。


「とりあえずラインハルトと会おう。」


 あいつ仕事の割り振り見てもかなり暇してそうだからな。さっさと働け。



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


「オレは働こうとしたんだけど仕事の割り振りがなかったから仕方ない。」


 呼び出したラインハルトはそんなことを言い出した。


「そうはいっても臨機応変にだな。」


「そもそも敗戦国の国民なのに仕事寄越せとか強く出られるわけないだろ。」


「ぐう……。」


 まあ、言っていることは正しい。ぐうの音しか出ない。



「愚痴半分の小言は置いといてこれから仕事大量に割り振るからな。しっかり働けよ。」


「そもそもオレに働く気は充分ある。」


 そんな感じで正論を吐かれて一瞬で終わった。



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 次は商人と顔を合わせる。


 予想通り、いち早く名乗り出た商会があった。


 正直あの状態で真っ先に行動を起こした商会なら、仕事は信頼できないことはないであろうし、野心があるならば扱いやすいだろうという本音もある。


 つまり、こちらに都合のいい――もとい、良好な関係が築けそうだということである。



「国王自らお会いになっていただけるとは。」


「そうかしこまらずともよい。少し楽にしてくれ。俺も気が滅入る。」


「は、はい。」


 目の前にいる商人――アキンドゥは緊張したままだ。


 俺の目を引いたのはその猫耳である。

 少女ならば可愛いと思うこともあるだろうが、いい歳した青年に猫耳がついていて、真面目に話しかけてくる状況はどうなのだろうか。


「それで、この国の貿易をそちらの商会が全て請け負いたいと言ったそうだな。」


「はい。私どもにはそれが為せる力があります。是非やらせていただければ。」



 目の前の商人は自信満々な様子で答える。こいつ多少優秀でも、頂点には成れなさそうなタイプだな。などと俺の経験から思う。


 経験といってもこの世界では自分より格が違うレベルの年上が大勢いるわけだが。




「その自信の根拠は?」


 俺が尋ねると彼は饒舌に答え始めた。


「私は1代でここまでの商会を作りあげました。それにこの規模の商会なのでコネのような繋がりも多いです。さらに大手の商会と違い、内部の権力が分散しておらず効率的に組織を動かせます。」


「なるほど。そちらの考えは理解した。しかし、実績がない商会に初めから全てを任せるというのはいささか不安だ。まずは俺の方針を取り入れつつ進めてもらいたい。」


 それを聞くと、商人の顔が曇った。


 これは想定済みだ。このタイプのやつは自信家でプライドが高い。

 全く実力が伴わないわけではないので特に嫌悪感はないが、その辺りを上手く導いてやれば円滑に事を進められそうだ。


「そもそもこの話をあっさり聞き入れる国ようなには破滅しか待っていない。若くして()()なお前ならわかることだろう。良い商売をしようではないか。」


「ええ、勿論ですとも。」


 商人は微妙な表情なままだが一応同意した。



「それでこれらが今後の貿易の方針で目玉として考えているものだ。」


「資料を提示する。」


「失礼します。」



 商人が資料に目を通す。

 その間俺はお茶を飲んで一息つく。





「…………まさかこれほど見据えていらっしゃるとは思いませんでした。」


 熱心に資料を読み込んだ後、顔を上げてそう言った。


 勿論この資料は綿密に作られていて、商会の補助なしでも十分すぎる貿易が出来る体制を整えていると提示してやる。

 そして、その上で協力させる。初めに提案したような多大な利益を商会にもたらしはしないが、魅力的な提案だろう。


「この話は本当なのでしょうか?」


 商人が尋ねてくる。


「勿論だとも。ルナ持ってきてくれ。」



 俺は部屋の端で待機していたルナに言って焼いた魚を持ってこさせる。


 港町の完成を祝ったとき、食べたやつと同じものを「インベントリ」に入れて持ってきた。俺も食べたが、非常に味はよく、臭みもなかった。よいものであると言えよう。

 「鑑定」したところ、前の世界と同じ魚もいた。


 ルナが持ってきたのは「魔鯵」である。魔力の影響で鯵が進化したらしい。なんでも魔力を多少栄養に出来るらしい。

 種族スキル「栄養魔力(小)」を貰ったが、人の身体を動かすほどのエネルギーを空気中の魔力で摂取するのは無理そうである。竜が持つであろう上位スキルなら出来るかもしれないが。


 ちなみに空腹になりすぎると状態「飢餓」になり、魔力の割合回復が出来なくなるらしい。魔物で確認した。


「海の魚など食べるのは初めてです。」


 海には魔物が縄張りを持っていることが多く、人魚などしか海に領域を持っていないらしい。


 その人魚も貿易をするタイプでなく、自給自足が完全に成り立っているため海の魚が市場に出回ることはほとんどないと言っていい。



 商人が魚を口に入れる。



「う、美味いですにゃ!!」



 耳を動かしながらそう言った。


 にゃって言ったぞ、にゃって……。


 何度も言うが少女ならともかく、青年にいわれても微妙な気持ちになるだけだ。


 ちなみに猫は魚が好きというイメージを持たれているが、実際は脂肪分を好んで食べるようだ。

 昔、猫によく与えるもので最も脂肪分の多かった魚が好きなイメージがついたのだとか。なので猫は乳脂肪分の塊である生クリームと魚を置いたら生クリームを選ぶらしい。


 まあ、獣人がモチーフっぽい動物に影響を受けているかは謎だ。単純にこの商人が魚に目がないだけかもしれない。



「それで、この資料は王であるあなた自ら?」


「無論だ。そして、お前の商会に手伝ってほしいと考えている。」


「……私とても感動いたしました!どうかこの話受けさせてください!」



 商人が頭を下げる。概ね臨んだ結果が得られたので良かった。



「ああ、迅速にうちの国に行動を起こしたフットワークの軽さとその行動力。俺はその才能も買っている。存分に働いてもらおう。」


「ありがとうございます!」


「期待している。」



 話術では相手の感情をどう持っていくかはとても重要だ。


 生き物とはわずらわしいもので“理屈に合っている”ことだけを行うわけではない。どのような場面でも感情は判断を大いに作用することになる。


 口論をしたとき、理屈に感情論で返されて、もやもやした気持ちで終わることもよく見られることだが、相手の感情を組み込んで話さないからそうなる。

 対話ではその個人によって異なる“理論に対しての感情の比重”を読み取れなければ一生苦労することだろう。



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 さて、リーゼをどうするかだな。


 あのまま目覚めたところでまた仕事に戻ることだろう。


 国が出来ていろいろ忙しいし、使命感や、働ける嬉しさもそこにあるだろうし、下手に仕事から外すのも良くないだろう。



「どうするかなっと……。ん?」


 そういえばこのオーク国の資料を漁っていた時にエルフ国のことが載っていたな。


 今のところこの国は手を出してくる気配はないが、貿易の改革が本格的に始まれば間違いなく接触を図ってくるだろう。


 この国の気になるところは、……主にオーク国が結んでいた条約についてか。



 ある程度気は軽い。


 エルフ国にミスリル市場の独占をさせているこの条約を無しにすることは問題なく行えるだろう。

 オーク国に無傷で勝利できるほどの軍事力、そして、これから行う貿易での成果を考えれば、下手に不興を買うより、良い関係を築いた方がいいことはまともな国ならわからないことではないだろう。



 問題はそのカードを向こうがいつ切るかによっては……と考えてはいる。



 エルフ国の様子は見ておきたい。こちらも弱かろうとカードを手札に入れておくことに越したことはないからな。


 それにリーゼを動向させることにしよう。


 息抜きがてらってやつだ。

 俺はそれについての計画を立て始めた。



 まだ、ミーナたちの姿を見てないな。


 どうせ夕食時には顔を合わせることになるだろうが、これがひと段落したら様子を見に行こう。

3章始まります。


3章からは1話の文字数を増やしてみようかなと。

更新がしばらく空いてしまいました。なるべく頑張ります。

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