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第39話 決着

 俺は世界に失望していた。


 変わらない日常。何も起こらない平穏。


 そして、人との関わり。


 その全てが面白くない。そこにあるのは惰性のみが支配する変わり映えのしない世界だけだ。


 俺は思っていた。



――ここ、気持ち悪くないか?


 何故皆はこんな気持ち悪い中で生きていけるのだろうか。自分がおかしいのだろうか。



 そして俺は人が嫌いになった。というよりも人にこの気持ち悪さの全てを“押し付けた”のだ。



 「もし、この気持ち悪い世界が何かひとつのもののせいでないとしたら俺は狂ってしまうだろう。」



 そうして俺は自己を保った。趣味はそれなりにあったが日常に感じる気持ち悪い感覚は常に付きまとった。


 それでも俺は引き籠ったりはせず、社会で生き続けた。気持ち悪い感覚に耐えながら。乾ききった表情を張り付けて人と接しながら。



 これはまるで悪い夢だ。この悪夢はいつ終わってくれるのかと。そう願いながら。



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐





――――俺は迷いなく「風刃(ウインドカッター)」を放った。


 死を悟った瞬間、人はどうしようもなく体が動かなくなる。



 だが、俺はあっさりと死を受け入れた。死を受け入れなければ先へ進めないというのなら俺は受け入れよう。



 俺はこの世界に来て救われた。あのどうしようもなく付きまとっていた気持ち悪い感覚がこの世界に来てからはなくなった。


 心の底からに楽しむことが出来たし、愛しい人だって出来た。



 こんなところで終わるのならそれまでだ。


 俺は悪夢から覚めた。為すべきことを成して死ぬのならそれに何故恐怖を感じることがあろうか。



 残念だったなアクアドラゴン。


 お前は確実に俺を殺しに来た。

 その作戦に甘かったところなど何もない。普通ならば反撃の余地などなかった。完璧と言える作戦だ。


 ただ、俺が“異常”なだけだろう。



 俺は死の瞬間を待った。







 しかし、その時はいくら待てども訪れなかった。



 何かが、腕の軌道を逸らした。



 俺の横を鋭い爪のついた手が通り過ぎると同時に、アクアドラゴンは俺の放った「風刃(ウインドカッター)」に貫かれた。



 思考に多少の時間を要した。



 アクアドラゴンの腕を弾いたのは1()()()()


 竜の強固な鱗に弾かれた矢であったが、風属性魔法で威力のみを大幅に強化されたその矢はドラゴンの腕を横に少し弾くのには十分だった。



 脳は時間を掛けながらようやく状況を把握する。


 「魔力ソナー」が海岸に立っていたルナを捕えたのであった。



 俺は状況を把握したところで「インベントリ」から魔石を取り出して、魔力を回復し、体力が底を尽きかけていたアクアドラゴンに光属性魔法を使って回復を行った。




『…………何故助けたのじゃ。』


『お前、俺の目的分かってて戦ってただろ。』


 少しの逡巡の後、アクアドラゴンは口を開いた。

 といっても「翻訳魔法」なので物理的には口を開いてはいないが。


『よくわかったな。お前の目的はある程度わかっておったが、母様との約束があったのじゃ。自分を超えるものでないとこの地を譲ってはならぬという。』


『あれだけ考えて戦ってる全く聞く耳持たないのはどう考えてもおかしいだろ。』


 海から安易に出ない戦術といい、縄張りに入られて怒り狂ってる奴がする判断ではないだろう。


『それに加えて、お前最初からルナがいるのわかってただろ。何で見逃したんだ?』


『距離があったとはいえ、妾の「咆哮」を食らって耐えておったのに驚いてな。見たところの力量では3日以上意識を失っててもおかしくないと思ったのじゃが。』


 最初に生じた隙がおそらくそうだったのだろう。戦いの途中、俺は全然冷静に立ち回れていなかったな。


 戦いにまだ慣れていないようだ。改善点は多い。


『妾は全力で戦っておったし、彼女が多少何かしてきても構わないと思うたのじゃ。流石に予想外の結果になったがな。』


 少し嬉しそうに目の前のアクアドラゴンは言う。


『まさかあの距離から攻撃を当ててくるとはな。よい。妾の負けじゃ。好きにするといい。』


『……殺せと言わんばかりの様子のところ悪いんだが、俺はそれを聞くためだけに生かしたのではない。』


『ほう。』


『お前は引き続き、この辺りの主をやって貰いたい。他の魔物が住み疲れたら困る。』


『お主がそれでいいなら構わぬ。引き受けようぞ。』


『後、お前、「人化」のスキル持ってるだろ? 漁村が完成したらそっちに住んでもいいぞ。』


『ふむ……。ステータスを見透かすスキルでも持っているのか。見た目は人間なのにお主も面白いやつじゃな。』


『まあ、そんなところだ。』


『後、“お前”と呼ぶのはやめよ。妾には“ハクア”という母様に貰った名前があるのじゃ。』


『ああ、わかったよハクア。俺はロイだ。』


 話も纏まったところで帰ろうとしたら、後ろからハクアが声を掛けてきた。


『……ロイよ。お主、妾とずっと前に会ったことはないか?』


『人違いだと思うぞ。お前の言う“ずっと前に”俺は生まれてすらいないだろう。』


『そうか……。』


 何か引っかかることがあるらしい。俺は後ろを向いたまま手を挙げてハクアと別れる。


 帰ろう。ルナが待ってる。





「ロイ様!!!」


 海の青が夕暮れの色に染まる中、ルナがこちらに走ってきた。


「俺まだ濡れ鼠のままなんだから抱き着くなって。嬉しいけども。」


「よかったです……。本当に……。」


「ありがとう。ルナ。」


 涙声でそう言うルナの頭に手をやって撫でる。


「ルナがいなかったら、俺は多分死んでたよ。」


 俺はルナを抱きしめる。

 これじゃあどっちが助けられたのかわからないな。




 どのぐらいそうしていただろうか。空は既に暗くなっていた。

 ルナも落ち着いたようだった。


「じゃあ、帰るか。」

「はい。」


 そう言ったルナの笑顔にドキッとさせられる。


「今日のことといい、俺はルナに助けてもらってばかりだな。」

「もっと頼って貰えるように頑張りますね。」


 俺はルナの手を握って、城までの道のりを歩き出す。



 月は今日も変わらず、俺たちを照らしていた。

最近頑張って書いて、勢いで投稿ボタンをポチった後、「あ、ここおかしい」などいろいろ気づいたりして毎回修正するのが癖になっててヤバいですね。早く読んで下さった方に申し訳ないです。以後気を付けます。

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