第38話 激戦
魔法戦が始まった。
発生させた渦潮は俺を取り囲むように移動してくる。
俺は今のところ最も慣れ親しんだ魔法になっている「風刃」を正面の渦潮に向けて放つ。
――シュッッ!!
渦潮とぶつかった時に音を立てたが、特に勢いに変化は見られず。渦潮に飲み込まれた後、「風刃」は消滅してしまったようだ。
『なるほど。』
アクアドラゴンの名を冠するだけあって、魔法の威力はかなり高いものに見える。
『ははははは。見たか、これが妾の魔法「大海の潮流」じゃ。これだけの同時発動は妾のような高等種族じゃないお主にはたどり着けぬ領域じゃよ。』
「翻訳魔法」で得意げにそう告げてくる。
俺の種族「魔王」なんだけど種族的にはどうなのだろうか。
このままこれらの渦潮に巻き込まれたら確実に死ぬ。
俺はこれだけの魔法を同時展開することは出来ない。
アクアドラゴンが得意げに笑っていたことは慢心ではない。
俺は深呼吸をする。これは「水中呼吸」のスキルのおかげで問題なく行える。
ルナと約束してきている。負けることは許されない。
魔法はイメージが重要な要素だということを俺は知っている。
イメージが出来るのも才能だろう。これが俺はどうなのかというと、それは愚問だ。
前の世界での文明は相当なものだった。特殊効果などを含むさまざまな映像、CGなども含めた画像などのメディアなどに日常的に触れる機会があった。
更にはイメージが出来るということが大幅に役に立つ理数系の学問を10年以上に渡って学んできたことなどを含めてもいい。
ともかく、前の世界で過ごしてきたということだけで、その人生、かなりのイメージの力を養う経験をしていたと言える。
そう。俺はこの世界に来る前からして、強力な魔法を放つことが出来る要素の1つを既に獲得していたのだ。
――見せてやるよ。異世界人の力を。
俺は大きく腕を開いて完全に水平になるまで腕を持ち上げる。
そして、手の平を外側に向ける。
水属性にした魔力を両方の掌に集める。
――「超高圧水波・回転」
俺は掌から周りの水を速く、まるでビームのように放ちながら1回転する。
それは圧倒的な威力で俺を取り囲んでいた渦潮に激突し、消滅させていった。
そして、渦潮を消滅させたのち、それはアクアドラゴンに迫る。
アクアドラゴンは回避を試みるも、翼に当たる。
『くっ……。何じゃと!!?』
俺の反撃は終わらない。
正直「どうだ? お得意の水属性魔法を水属性魔法で破られた気分は?」とでも言ってやりたかったが、その気持ちを抑え、突撃する。
しかし、やつの判断は早かった。
すぐに「水の息吹」と俺の「風刃」の水属性版を放ってくる。
「水刃」と呼ぼう。
俺はそれを見極め回避しながら接近する。
上下左右、自在に動きながら。
確実に前進していく。
『ちょこまかと……。すぐにくたばってしまえばよいものを…………。』
当然近づくにつれて、弾幕は激しく、避けづらくなっていく。
「水刃」右に避け、「水の息吹」を体を回転させながら左に避ける。
避けられないものは「風刃」で相殺させつつも着実に進んでいく。
そして、弾幕の隙間から見えたアクアドラゴンがニヤリと笑った気がした。
次の瞬間。俺は本能的に危険を察知して、相殺させようと思っていた「水の息吹」を少々強引に躱す。
「くっ……!」
肩に痛みが走る。「水の息吹」が掠り、ダメージを負ってしまった。
だが、重傷を負うことは避けられた。
あのまま「水の息吹」を相殺させていたら確実に「水の息吹」の死角に潜んでいた「水刃」が直撃して、致命傷を負っていたに違いない。
そして、間髪いれずに今度は 「水刃改」――すなわち追尾弾を放ってきた。
せっかく接近したが、ここは離れざるを得ない。
肩を片手で抑え、上級光属性魔法で治癒させつつ、追跡する追尾弾から逃げ、「水の息吹」の射線にも気をつける。
今が一番ピンチかもしれない。
なんとか肩の治療を終えた俺は上手く追尾弾を撃墜させようと試みるが、ウォータードラゴンの名は伊達じゃない。水属性魔法なら極めたと言っていいほどの域で制御を行ってこちらの迎撃をすり抜ける。
同じ“特級”とは思えないな。
俺はどうにか現状を打開しようと思いついた策を即、実行する。
この追尾弾を迎撃する。俺は攻撃をせずに。
追尾弾から逃げ回りながらタイミングを計り誘導する。
やつは俺が反撃しないのを“出来ない”と判断したのか、先ほど渾身の渦潮を破られたことも忘れて愉しそうに「水の息吹」で攻撃してくる。
決着は近かった。
俺は精密に動き、誘導した追尾弾を「水の息吹」に当てて相殺する。
そして、「神速」を使い。一気に懐に潜り込む。
極限まで威力を高めた「風刃」を近距離から放つのだ。
「風刃」を放とうとした瞬間――時が止まったかのような感覚に襲われる。
――何故だ。何故お前は腕を振り上げているんだ。
思考が加速する。何故俺は渾身の大技を破られたアクアドラゴンがすぐに慢心した態度に戻ったのを不思議に思わなかったのだろう。
俺は冷静な判断が出来ていなかったのだ。俺は完全に誘い込まれていた。
すぐにでもこのドラゴンの爪は俺を貫くだろう。
ここで終わるのか。
俺はもう死ぬ覚悟で、この「風刃」を放つことしかできない。
今、死ぬということを受け入れなければ俺はこれを放てない。“敗北”してしまう。
これを放てばやつは倒せる。
“引き分け”か……。ルナとの約束守れなかったな。
心が痛むのを感じる。
ドラゴンの幼生体のものより劣るが、「インベントリ」には戦いの後、アクアドラゴンを回復させるための魔石が入っていた。
……出し惜しみしたのは間違いだったかもしれないな。
それにしても死ぬ瞬間に体感時間が早く感じるというのは本当だったんだな。
そんな思考を最後に、俺は「風刃」を放った。




