第34話 月明かりが照らす
数日が経った。漁村作りは順調に進んでいる。
オークは力持ちであるし、サキュバスも元々成人男性より身体能力が高く、訓練しているため、作業効率はかなりいい。
役所などにする予定の大きな建物も完成に向かっていた。
前の世界にいたこともあり、上下水道を作りたかったが、大規模なろ過の魔道具を作るほどの魔石がなく、今回は見送った。
ガラスも作ってみた。
土属性魔法がとても便利なので材料は探せば簡単に純度の高いものが手に入ったのでとても透明度の高いものが作れる。
フロート法と呼ばれる前の世界で一般的になっていたガラスの作り方をしてみるが、これが難しい。
溶解した金属の上にガラスを浮かべることで均一なものを作れるというものだが、溶解金属の上にガラスを流し込む速度にコツがいるので何度も失敗を重ねた。
一番難しい温度調節が火属性魔法で行えたのが救いだろう。
なんども検証と考察を重ね。ようやく満足のいくものが完成した。
そんな感じで俺は最近「ルナに訓練をつける。」「エナリと打ち合わせ。」「アネットと物作り。」のサイクルを行っている。
海竜を倒す算段はまだついていない。
漁村が完成したらオーク城に戻る予定でいるし、もたもたしてはいられないのだが。
「例えば自分が飛べない状態だとする。」
「ふむ。」
「例えば自分が飛べない状態で飛んでいる鳥を捕えようと思ったらどうしたらいい?」
「弓矢で落とすとか?」
「その鳥は矢を弾いたり避けたりしてくる上、こちらに攻撃してくるとしたら??」
「…………それ何かの頓智かい?」
アネットと会話をしながら船作りをする。これで既に3隻目である。
今は、外装をある程度作り終え、内部を作る作業をしている。
「そんなよくわからない話は置いといて。それで話は変わるけど、まだ海の魔物は何とかならないのかい?」
話変わってねーよ。
「想像以上にやっかいでね。」
俺は肩をすくめてみせる。
「そんなに数が多いのかい? まさかロイが倒せないほど強いわけないだろ?」
「まあな。」
まあ、前者なんだけどな。
俺が翌日した話を察してルナは俺がドラゴンに負けたことを他の人に話してはいない。
海に魔物がいるという話はサキュバスの中で話が広まっていたし、海に近づくやつもいなかったので魔物がドラゴンだということすら皆知らない。
資料にも「強力な魔物」としか書いていなかった。
やつに勝てる手札を俺は持っていないし、有効になる手に入れられる札もわからない。
このところずっと考えているが答えは出ない。
午前の作業を終える。昼食をとった後、建物作りの監督を始める。
建物はみんなにも意見を求めて、俺が設計した。「異世界知識」を駆使して頑張ったがかなり苦労した。
「おい。聞いてんのか王様。」
「ん? ああ。何だ??」
少しぼうっとしてしまった。エナリに話しかけられていたようだ。
「……ちょいと働きすぎじゃねぇのか?」
「漁村作りを終えたら休むよ。それで要件は?」
「おう。建物のここだけどな。設計によると…………。」
かなり疲れがたまっているようだ。前の世界ではこんなになるまで何かをしたことはなかったな。
「んじゃそういう方向で作業を進める。」
エナリが作業に戻る。
そんな感じで特に何事もなく作業が進んだのであった。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
いつからあの方のことを好きになったのだろう。
初めて会ったとき、彼に言った言葉
「私は魔王様が何かを齎してくれるんじゃないかと思ってますよ、私の勘は当たるんです。」
私は気づいていた。それはおそらく何かに縋ろうとしてそう無理やり思ったもの。心の底では何かが変わるなんて思ってはいなかった。例えるなら星に手を伸ばすようなこと。
彼は歩き出した。私を導いてくれた。
彼は私の料理が美味しいと褒めてくれた。嬉しかった。そしていつしか今まで気にも留めなかった“ありがとう”という形式的な感謝を言われることでも心が温かくなるのを感じた。
私はそんな彼の導くまま力をつける努力をした。
私は周りの人より弓が早く上達することに気づいた。彼は私が練習するのを時々見に来てくれた。なので、がむしゃらに弓の技術を高めた。
いつしか私は誰よりも弓が上手くなっていた。
そんな経緯で彼への恋心が生まれた。これが物語ならば何かがきっかけで文字通り「恋に“落ちる”」のだろうがこの気持ちは自然と湧き上がってきたものだ。
植物が育ち、やがて花を咲かせるように。
――現実ってそんなものでしょう?
彼への思いは日に日に強くなっていく。
私は彼に私の好意を受け取ってほしいと思うようになった。
さりげなく気づいてもらおうとしたが上手くいかなかった。
勇気を持ってサキュバスらしく思いを伝えてみたけど返事はしていただけなかった。
そして彼は海の魔物に負けてしまったらしい。
彼のことが心配だが、やはり今の私では彼の力になることは出来ないのだろうか――――
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
俺は目を覚ました。どうやら花畑で寝てしまっていたらしい。
城の方から誰かが飛んでくる気配を感じる。
「ロイ様こちらにいらっしゃったのですね。」
「ルナか。」
ルナが俺の座っている横に降り立つ。
俺は隣に座るように促す。
「よくここにいるってわかったな。」
「あなたが行く場所はミーナと似ていますから。」
「そうか?」
「ええ、オーク城でもミーナと一緒に上でサボっていたでしょう?」
「どこでサボってるのか気づいてたのかよ。じゃあ、サボってるの見逃してくれたならなんであんなに叱られたんだ?」
「ミーナの手前、ってのもありますし、飴と鞭ってやつです。」
「なるほど。」
ルナと一緒に星空を見上げる。
「前いた世界ではこんなに星が見えなかったんだ。」
「なかったではなく、見えなかった?」
「ああ、俺たちの住んでいるところが明るすぎたからな。」
「そうなのですか。それだけ栄えているのは羨ましいですね。」
暮らしていたところが違うから違う感想が出るのはあたりまえだ。
気の合う相手とよく言うが、この考え方の違いはとても心地よく感じる。
最近ルナから向けられる好意は感じている。俺もそれに答えてやりたいと思う。
外には出さないがいつも一生懸命な彼女に俺も知らず知らずのうちに惹かれていた。
しかし、俺はリーゼやミーナにも少なからず好意を持っている。
この世界では一夫多妻制は王族貴族なら当たり前で一般でも割とないことではないらしい。
俺は複数の人を愛するのは不誠実だとは思っていないが、1人を愛するにも、踏み込むならば覚悟が必要だ。
俺は自分に問いかける。
「あの、最近ロイ様は思い悩まれているようですし、私でも何か力になれることがあれば……。」
「ルナは俺の力にもうなっているよ。」
俺はルナの手を握る。
「月が綺麗だな。」
この世界でも月と呼ばれる天体は一際大きな光を放って俺たちを照らしている。
ルナは少し驚いた顔をしてこちらを見た後、少し時間が経ち、こう言った。
「ええ、本当に。」
そして、どちらともなく俺とルナの距離が縮まっていく。
――月は変わらず俺たちを照らしていた。
《称号「純愛の王」を獲得しました。》
《一定の「王」のつく称号を手に入れたため、ユニークスキル「真の王の器」の能力が解放されました。》




