第21話 白狼の訓練成果
俺はオークの特殊部隊に所属している。
一応、王の直属の部隊ということになっているが、軍部の派閥に属している。
そして先日、命令が下った。「サキュバス国との戦争において先遣隊、本隊とは別に複数部隊で奇襲をかけろ。」とのことだ。
先遣隊、本隊が苦戦したときの保険だそうだが、あの王は心配性すぎないか? 元帥様のほうがよっぽど王にふさわしい人物だろう。
――あんな石橋を叩きすぎて壊すタイプの人間に仕えていても面白くねぇ。
だが、任務に手を抜く気はない。てっとり早く終わらせることができれば、サキュバスを味わうチャンスでもあるからな。
「森を抜けたらどこを狙えば効果的ですかね?」
「そりゃあ、城を目指しつつ、サキュバスを捕まえていけばいいだろ。この国に碌な財産は残っちゃいないさ。」
「それもそうだな。」
俺の隊は森を使ってオーク国と逆の方角からサキュバス国に攻め込む。道中で何度か魔物に遭遇したが、俺たちの敵じゃねぇ。
「この辺の魔物なかなか強いっすね。」
「うちの国と違って討伐するやつがいないから、浅いところまで魔物が出てきてるんだろ。まあ、魔物は相当ヤバいやつじゃない限り人里には出てこねぇよ。」
「人里に出てくるやつなんているんですか?」
「ん?お前は新入りだったか。俺たちの国に一度、ドラゴンの幼生体が入ってきて大騒ぎになったことがあるぞ。」
「ドラゴンの幼生体ですか?」
新入りが不思議そうな反応をする。さしずめ幼生体と聞いたからだろうな。
「ああ、ドラゴンの幼生体は、まだ成体になったときに何になるかはわからないそうだ。ロックドラゴンだったり、ファイアードラゴンだったり、どう変わるかはわかってないようだがな。」
「そうなんですか。」
「それでそのまだ未熟な幼生体に対して国の兵士が数百人単位で死んだ。ありゃ化けもんだ。」
「ええっ!そんなに強いんですか!」
「だから言ったろ?人里で[隷属の首輪]も付けずにいるような魔物を見つけたら近づかないほうがいい。命が惜しければな。」
「はい。気を付けます。」
「まあ、成体のドラゴンに出会ったら逃げても無駄かもしれないけどな。」
そんな話をしながら森を抜ける。
「人の姿が見えませんね。」
「微妙なところに出ちまったのかもな。」
サキュバス国の人口は少ない。よって、空家など、利用されていないところも多いと思われる。
「チッ、ハズレかよ。とりあえず城の方に向かってみるか。」
城に向かって部隊を進めていくとサキュバスを見つけた。
「サキュバスだ!捕えろ!!」
部隊員に指示を出して、サキュバスを追わせる。サキュバスは逃げる。思ったよりは早いが、種族として能力の勝る俺たちの方が速さは上だ。そのうち捕えることができるだろう。
そのとき、白い何かが部隊員の1人に物凄い速度で向かっていった。
何が起こったかわからないうちにその隊員は首が落ち、倒れた。
死んだのだ。
俺はその白い何かを見やるとどうやらウルフのような姿をしていることが分かった。
オークは軒並み今起こったことが理解できずに固まっている。そして、サキュバスはその隙に逃げて行った。
逃げて行ったサキュバスを見送った後そいつはこちらを一瞥した。
『ご主人の守るものに手を出すなんて許しませんよ。』
脳内に声が響き、凄い威圧を感じる。こいつが喋っているのか。
ドラゴンなどの強力な魔物は魔法で意思疎通出来るものがいると聞いたことがある。だが、それは単なる作り話だと思っていた。
俺の脳内で警告音が鳴り響いているように感じる。こいつは危険だ。
――人里にいる魔物。強力な魔物のみが使えるという魔法での意思疎通。一瞬感じた平衡感覚も失うほどの威圧。そして、目にほとんど追えないような速度で1人殺して見せた強さ。
全ての要素がこいつは危険だと教えてくる。
そもそもこんな真っ白な毛の色をしたウルフは森を進む途中では見なかった。何者なんだこいつは。
「隊長、さっき森で話してましたけど、こいつ凄く強いんじゃ……。」
新入りが泣き言を吐く。
「ああ、ヤバいな……。」
王はこいつの存在を知っていたから慎重になっていたのだろうか……。
それにしてもこの兵力で勝てるはずがないだろう。
こいつが本隊のほうを襲っていたら、本隊が壊滅するレベルの被害は受けそうだ。
こんなやつが防衛している拠点を抑えるなんていう作戦自体どうかしてる。
「……なぁ、今すぐ帰るから見逃してくれねぇか。」
口から出たのはそんな言葉だった。冷や汗が止まらない。
『ご主人からは殺せと命をいただいております。それに、ご主人との訓練の成果も見たいですし、少しは楽しみましょうよ。』
そのウルフはそんなことを言うと他の部下達の方を向いた。
『この群れのボスは最後に残してあげます。』
その言葉に悪寒が走った。
「俺はようやくこの特殊部隊に入れたんだ。初任務で死ねるか!!」
新人も含む俺の部下がウルフに斬りかかる。
『……遅すぎます。』
ウルフが部下の後方に一瞬で移動したかと思うとその光景は訪れた。
『試しに色々な箇所を狙ってみましたがどれも出血死しそうですね。』
目の前には血まみれの俺の部下だったものが散らかっていた。
俺の心は恐怖で塗りつぶされた。
『はぁ…………。最後はあなたですね。』
見逃してくれる気はないらしい。ここで俺の運命は決した。
「せめて死んでいった仲間のために」なんてことも、もう考えることはできない、ただ、目の前の恐怖から少しでも逃れようと、震えながら剣を構える。
するとそのウルフの姿がブレた。
その瞬間太ももに激痛を感じる。
驚いて痛む箇所を見るとミスリルの装備は貫通し、着いた傷は凍っていた。
そんな……こいつはあの伝説の氷魔法まで使えるというのか……。
『傷口は凍らせて止血してあります。あなたはいつまで生きていられるのでしょうね?』
目の前のウルフがそんなことを言う。
どうやら簡単に死ぬことは出来ないらしい。
ノリノリで書いていたらかなり酷いことになりました。
ヴァイスはこんな予定じゃなかったのに……どうしてこうなった。




