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人間が生理的に無理なので魔王やります  作者: あんぱん隊長
第1章 サキュバスの国
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第19話 飛べない豚は

「お姉ちゃんやっぱり凄いなぁ。」


 ミーナは戦場を俯瞰(ふかん)していた。



 ミーナが率いているのは何を隠そう航空部隊である。


 この世界の魔族で今現在飛行能力を有しているのは、サキュバスとロイだけとなっている。


 翼がある種族もいるが軒並み退化してしまっているのだ。




 しかし、ドラゴンなどの魔物は飛行能力を持っている。


 どこの国も対空戦力を持たない現状。それらの襲撃は“天災”と呼ばれているのである。


 


 「浮遊」などのスキルを持つ魔族はそれなりにいる。だが、この世界では「魔族が飛べるわけない」という固定観念のもと、「飛行」スキル獲得に至るものは現れなかった。


 それを新しくこの世界に来た魔王――ロイは変えた。


 軽い洗脳に近い海兵隊式訓練の成果あって、サキュバス達はこの世界では常識はずれな「飛行」スキル獲得までの特訓をやりきったのだった。



「うーん……。お姉ちゃんの戦闘見て思ったけど、この戦術、オーク国に勝てるっていうか問題なく行けば殲滅戦だよね……。」

「そうですね。確実にオークに勝れる土俵で戦うわけですし。」


 ミーナは隣を飛行しているアンと話をする。


「あ、見えてきたよ本隊。」


 オークの本隊を確認し接近していく。



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


「バカな……!先遣隊がやられたというのか……。」


 先遣隊を率いていたオークには死んだことを確認することができる魔道具の指輪がつけられていた。この指輪は2つで1セットであり、片方の指輪をつけているものが死ぬともう片方の指輪が壊れるといった仕組みだ。


 この魔道具はオーク国の領土でまとめて多数出土したため、先遣隊オークが死ぬと王都と本隊に連絡が行くようになっていたのである。


「あの王が言っていたことは本当なのかもしれん。サキュバス国は油断していい相手ではないと。」


 王都で魔道具の監視をしていたオークは、あわてて王のもとに連絡をするために走った。



「王よ。先遣隊がやられたようです。」

「そうか。やはりな。」

「なっ……。王はこのことを予想しておられたのですか!?」

「そうではない。ただ嫌な予感がした。予感というと陳腐に聞こえるかもしれんが、今までの経験において、この感覚は馬鹿に出来ない。」


 王は貴族たちと会議の場に集まっていた。

 貴族の中にはこの報告を聞くまでは王が退位してからのことを考えるものまでいたが、状況は1変してと言っていい。今の知らせを聞いて状況を見る目を改めたらしい。


 先遣隊の騎兵はこの国が誇っていたものたちだったのだ。それが敗れるとなると。本体にも死者は大勢出るだろう。


「それで、何か策はあるのですか王よ。」

「なくはない。既に一応手は打ってある。」



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 オーク軍、本隊も同じく先遣隊が敗れたということに驚愕していた。

 

「それは本当なのか?ただ魔道具が故障しただけとか……。」

「そうだな。その可能性が高い。」


 本隊のオークは未だに先遣隊が全滅したという事実を信じることができずにいた。


「サキュバスは俺らに比べたら戦闘力がないと言っていいほどなんだぞ。しかも人間のように魔法も使えない。どうやっても勝てない。」


 本隊のオークは王都の貴族たちと違って、先遣隊の強さを訓練などで最もよく知っている。


 故に先遣隊がサキュバスという劣る種族相手に全滅したなんてことは、軍に所属するオークには信じがたいことなのであった


「あの例の痺れ薬の戦法を使ったのか。」

「そんな筈はない。痺れ薬の解毒薬は軍全体に行きわたっている。」

「ならどうして!」


「あの男が関係しているかもしれん。」


 ここで発言したものがいた。1年前サキュバス国に捕まって捕虜になったオークの王子である。捕虜になった失態のせいで、今は指揮官補佐の任にはついている。


「あの男とは?」

「あそこで捕虜となり、装備を剥がれたのちに、停戦の条件を提示してきたものがいた。牢が暗かったし、装備を剥ぐときはうつ伏せにされていたから、顔はよく見えなかった。根拠が声だけなので報告もしていなかったのだが……。」

「何故サキュバスの国に男が?」

「それはわからんが……。」


 ロイのことはオーク国内では知られていなかった。ロイが直接戦闘をしたオークは後にロイの手によって殺されて、ステータスとなっていたからだ。


「先遣隊がどうなったにせよ、サキュバスが生き残っていれば仕留めるのみだ。」


 オーク本隊の指揮官のこの言葉によってこの議論はお開きになった。




 そして、進軍を始める。


「ん?なんだあれは。あんな大きい鳥なんてこの辺にいたか。」


 オーク兵の誰かが発言したのであろうその言葉にオーク本隊の面々は空を見上げる。



 飛んでいたのはサキュバスであった。



「何故サキュバスが飛んでいるんだ!!」



 オーク軍は困惑した。サキュバスが飛べるなんて聞いたことがない。その驚きはペンギンが空を飛んでいるのを見たようなものだった。


 そこで、飛んでいるサキュバス達が何か落としてきたのが見えた。


 何が落ちて来たかは見ることは出来ないが後数秒で地面にたどり着くことはわかった。


「痺れ薬かもしれん!!身を守れ!!」


 痺れ薬が落ちてきたという推論にいち早く至った指揮官が指示を出す。



 しかし、落ちてきた()()は痺れ薬ではなかった。


 痺れ薬から身を守ろうと身構えたオーク達を襲ったのは激しい熱をもった風――爆風だった。



 オーク達が一気に吹き飛ぶ。



(何が起こったのだ……。あの飛んでいるサキュバスはこんな大規模な火属性魔法を使えるとでもいうのか!?)



 今度は指揮官も困惑せざるを得なかった。こんな威力のある攻撃なんて一度だって見たことがなかったのだ。


 これほどの強力な魔法が使えるとしたら、魔王ぐらいしかいないだろう。わからないことばかりであった。



「弓だ、早くやつらを打ち落とせ!!!」



 だが、いくつも死線を潜ってきた指揮官。この状況でいち早く判断を下す。


 その指示で放心状態から正気を取り戻した弓兵は飛んでいるサキュバスを打ち落とそうとする。



 ――しかし、届かない。



 サキュバスは空を飛んでいるのだ。オーク本隊はこれだけの人数がいても攻撃する手段を持ち合わせてはいなかった。



 一方的な蹂躙が、今、始まった。

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