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刑法私的解釈  作者: 尚文産商堂
閑話
251/338

閑話2 違憲判決

「ねえ、一ついいかな」

彼女が俺に聞いてきた。

「何?」

六法に指を置いて、いったん彼女を見る。

「違憲判決って、どんなのがあるの」

「刑法とかの教授が言ってるはずだぞ……」

言いながらも、俺は壁際にある判例集を持ってくる。

「違憲判決ってのは、簡単にいえば、憲法違反だとした判決ということだな。最高裁判所の大法廷で審判は行われるんだ」

横で今開けているページにしおりを挟み、裁判所法を開ける。

「裁判所法第10条には最高裁判所小法廷で取り扱うことができない裁判について規定されているんだ。3つあって、合憲判決を出した裁判と同じ時以外で当事者の主張によって憲法に適合するかどうかの判断をするとき、この場合を除いて憲法に適合しないと認めるとき、さらには憲法や法令の解釈適用について以前の最高裁判所の裁判に反するときの3つだな。これによって、憲法解釈が問題となる裁判や、判例変更についての裁判については、常に大法廷で裁判が行われることとなっているんだ。最高裁判所は、憲法第81条で違憲審査権が付与されている終審裁判所だということになっているから、最高裁の決定は極めて重要なんだ」

「ふんふん」

分かっているのかわからないのか、そんな気の抜けた返事をしてくる。

「違憲判決てのは、憲法の条文のいずれかに反したっていう判決になるんだ。考え方としては大きく二つ。法令違憲ということであれば、特定の事件においてその法令の全部や一部について違憲であると宣告をする。この特定の事件に限って違憲だとする学説を個別的効力説といって、それに対して、判決以降法令を無効だとするのを一般的効力説っていうんだ。但し、一般的効力説では、国会が唯一の立法機関だとしている憲法41条に反するという考えがあって、通常は個別的効力説だとされるな。法令違憲とされた事件は、尊属殺重罰規定の刑法第200条、薬事法距離制限事件の薬事法第6条2項、衆議院議員定数配分規定が公職選挙法、森林法共有林分割制限規定が森林法第186条、在外邦人選挙権制限が公職選挙法、非嫡出子億隻取得制限が国籍法第3条1項、非嫡出子法定相続分規定が民法第900条4号但し書き、女性の再婚禁止期間が民法第733条1項だな。憲法の授業だったら、どれかは必ず出てくるはず。ああ、ちなみに言っておくと、衆議院議員定数配分規定については、事情判決といって、法令が違憲としたとしても、公共の福祉の観点から、事情判決の法理を用いて、選挙自身は有効だという判断になることが多いな」

「それで、もう一つの考え方は?」

「適用違憲ていう考え方だな。法令は合憲であっても、その事件で適用すると違憲となるということだな。不当長期拘禁による自白、自白調書有罪認定違憲事件、講和条約発効後の占領法規違憲判決、強制調停違憲決定、第三者所有物没収事件、第三者追徴違憲判決、余罪量刑考慮違憲判決、偽計有罪自白認定違憲判決、高田事件、愛媛県靖国神社玉串訴訟、砂川政教分離訴訟があるな。特に靖国神社玉串訴訟と砂川政教分離訴訟の二つについては、授業でも出てくると思うから、覚えておいて損はないと思うぞ」

「なんか、事件の名前がいっぱい……」

「だな。でも、どれも憲法訴訟として違憲判決がでたものばかりだ。特に法令違憲は、その後の判例として使われるから、同じような事件に対して違憲判決となることが簡単に想像できるだろ。これによって事実上、条文は無力化されることとなるんだ」

「聞いておいてなんだけど、面倒……」

「言っちゃダメ。面倒でも、裁判てのはこれまでの積み重ねで今があるからな」

言いつつも、頭がパンクしそうな彼女を見て、元へと戻ることにする。

「それでは、続きいこうか」

俺はそういって、しおりを挟んでいたところへと六法のページを戻した。


[作者注:以下のサイトを参考にしました。

・e-Gov法令検索>日本国憲法(昭和二十一年憲法)

http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=321CONSTITUTION

・e-Gov法令検索>裁判所法(昭和二十二年法律第五十九号)

http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=322AC0000000059

・Wikipedia>違憲判決

https://ja.wikipedia.org/wiki/違憲判決


また、以下の条文を参考にしました。

・日本国憲法>第八十一条

 最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。

・裁判所法>第十条 大法廷及び小法廷の審判

 事件を大法廷又は小法廷のいずれで取り扱うかについては、最高裁判所の定めるところによる。但し、左の場合においては、小法廷では裁判をすることができない。

一  当事者の主張に基いて、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを判断するとき。(意見が前に大法廷でした、その法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するとの裁判と同じであるときを除く。)

二  前号の場合を除いて、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合しないと認めるとき。

三  憲法その他の法令の解釈適用について、意見が前に最高裁判所のした裁判に反するとき。

]

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