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 子供の頃、歩いて隣町に行っただけで興奮した。踏み飽きたアスファルトでさえ、はじめてそこを歩く事に感動した。道沿いに建ち並ぶ住宅も、見慣れた景色のはずが、まったく違う、新鮮な景色に感じられ、ただ、歩いて隣町に行っただけなのに、帰宅した頃には、どこか偉くなったような気がした。

 それが、知る喜びのはじまりであり、知る喜びは私に「求める情熱」を教えてくれた。

 小学校から高校まで、当たり前のように進学し、そんな当たり前の毎日の中で、ふと、自分は何者なのか?と考えた時、わけもなく、子供の頃に行った隣町での興奮と感動と喜びと情熱を思い出した。

 それからの日々、私はただひたすらに、自分の情熱をいっしんに注げるものを探しつづけた。

 大学では見つける事ができず、大学卒業後に就職した会社でも本当の情熱を見つける事が出来なかった。

 私がはじめて就職した会社は、とある工業製品の小メーカーで、私は製品を製作する工場勤務に配属された。工場は、高卒者が大半で、せっかく大学を卒業したのにこれでいいのか?と思う日もあったが、周囲が若手ばかりで、若い自分も、自然とみんなと溶け込んでいき、いつしか大卒という最終学歴は忘れていた。

 この時期に、私は酒、たばこ、そして、セックスを覚えた。同じ工場に勤務する杉本麻衣という、当時、二十歳になったばかりの女性と、酒を飲み、たばこを吸い、休日はセックスに明け暮れた。

 若い工員の暮らしとしては、休日のたびにセックスができれば上等な暮らしぶりだった。この生活に不満はなかったが、しいて言えば、ここにも本当の情熱はまったくなかった。その気配すらなかった。

 働き、酒を飲み、女とセックスする。そんなサイクルライフ。興奮も感動もなく、情熱を注ぐものは何もなかった。

 そんな、寂しくて虚しい胸の内を、バックでたっぷりと可愛がった後の麻衣に打ち明けると、

「哲学に興味ある?」

と静かなトーンで聞いてきた。

「ないこともないけど」

「じゃ、今度の金曜日の夜、あけといて。一緒に行きたいところがあるの」

と高いトーンの喜び声で麻衣は言った。

 今度の金曜日の細かい内容はどうでもよかった。聞きもしなかったし、麻衣も細かくは言わなかった。一言でいえば、セックスしている女からの誘いを断る理由は、私にはなかった。



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