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そして物語は、次の章へ

 だが、先ほども言ったように、そのときの僕には自分が置かれている状況がまったく分かっていなかった。

 ソファに座り込んだ僕は、こう思った。

 どうやら、今みた夢を引きずったまま、次の夢が始まったらしい。 

 時計の針が三時十九分六秒で停止しているのは、偶然の一言で済ますことができる。だが、部屋の中には、夢の中でみた品物がいくつか残されていた。

 まずは枕元のノートパソコン。

 床のタオルケット。

 冷蔵庫の前の蜂蜜の瓶。

 コンビニのレシート。

 どうすればそのような状況が生まれるか考えてみた。

 タオルケットと蜂蜜は、寝ぼけているうちに無意識に取りだした。コンビニのレシートは過去に買ったときのもの。と考えれば筋が通る。

 しかし、ノートパソコンとなると話は別だ。

 ノートパソコンを借りたことはない。預かったこともない。本体のどこにも入力端子が付いていないパソコンなんて見たこともない。

 あの変なお婆さんからもらってきたのだろうか。

 いや、そんなはずはない。

 そうなると、パソピアを紹介してくれたコンビニの女の子が実在しなければならない。

あんなに可愛い女の子が、僕に一目惚れするはずがない。

 ここで結論がでた。

 今僕は、あたらしい夢の中にいる。

それにしても、マトリョーシカ方式の夢は、いつまで続くのだろう。

 

 しかしどこをどう見ても、自分の部屋にしか見えなかった。

 まだひりひりするほっぺたをさすりながら、部屋を眺めていると、テーブルの下の新聞が目にはいった。

 僕が購読している新聞と同じものだった。

 ある閃きが走った。

 夢の中の僕を真似てみようか。

 新聞の日付を確認しながらテレビのスイッチを入れた。

 意外な事実が待っていた。

 どのチャンネルも、新聞のテレビ欄と同じ番組をやっていた。テレビも新聞も、相変わらずパスワードの大量流失事故のニュースを伝えていた。

 心が揺れた。

 ひょっとすると、ここは現実の世界なのかもしれない。

 だが、ノートパソコンがある理由が見つからない。

ベッドに目を移した僕に、ふたたび閃きが走った。ノートパソコンの横に、真っ暗闇の中で持っていた携帯電話があったのだ。

 あれをみれば、夢か、現実か、一目で分かる。

 

 驚いたことに、僕が長年使っているものとまったく同じ携帯電話だった。

 取扱説明書は必要なかった。

 まず、発信履歴から確認することにした。

 夢の中で、携帯電話と言えば幻の焼酎の電話予約だったからだ。

 液晶画面に現れた数字は、予想どおり森伊蔵の予約番号。

 ここが現実の世界だったら、アルコールを一滴も受け付けない僕の携帯にこの番号が入っているはずがない。

 次は着信履歴。

 ボタンを押しながら考えた。

 ここがどの世界であれ、履歴には人材派遣会社の電話番号が残っているはず。

 日付が今日なら、今僕は夢の中。

 二日前の日付なら、ここは現実の世界。でもその確率はゼロに等しい。 

 画面に表れたのは、電話帳に登録してある人材派遣会社の番号だった。日付は今日。しかも、ついさっき。

 これで、ここは夢の世界だというのが確定した。と僕は思った。

 それにしても、単なる夢なのに、どうしてこんなにリアルな映像なんだ。僕がみる夢はいつもこんなふうだったのだろうか。

 携帯電話を眺めながらそんなことを考えていた僕は、あることを思いついた。

 リダイヤルボタンを押せば、先ほどの担当者に繋がるかもしれない。

 呼び出し音、三回で女の声がした。

「お電話ありがとうございます」

 先ほどの声ではなかった。僕は自分の名前を言ったあと、先ほどの女性の名前を言った。

「少々お待ちください」

 驚いたことに、保留音はビートルズのレット・イット・ビー。

 しばらくして聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「お待たせしました○○様。××でございます」

 どうせここは、夢の世界。どんなことが起きても、僕の脳の中だけのできごと。誰にも迷惑はかけない。だれも傷つかない。だれからも恨まれない。

「先ほどは、どうも」

 何気なさを装って言うと、相手も僕と同じことを言った。

「先ほどは、どうも」そのあと少し間をあけて彼女は言った。「調べてみました。アルバイトを含めて男性スタッフはただの一人もおりませんでした」

 勝ち誇ったような声にカチンときたが、冷静な声で言った。

「そのことを聞きたくて電話したんじゃないんです」と僕は言った。「さっきの夢と今の夢の繋がり具合を確かめたかっただけなんです」

 だが、相手はそのことには何も触れなかった。

「まだお酒が残っているようですね」

 からかっているような口調ではなかった。僕の体調を心配しているように聞こえた。

 だが、お酒という言葉が引っかかった。どうしても僕を酔っ払いにしたいらしい。

「さっきも言いましたが、僕は一滴も飲めないんです」

 しばらくの沈黙があって、彼女が言った。

「今のお言葉で、父を思い出しました。父はいつも申しておりました。俺は一滴も飲めない。飲んだことがない。父の死因は肝不全でした。葬式の夜、残された家族全員涙を流しました。もちろん酔っ払いから解放された喜びの涙です」

 相手はそこで話を止めて言った。

「また先ほどのように、電話を切るおつもりでしょうか」

「ちょっと待ってください」と僕は言った。「先に切ったのは、あなたでしたよ」

「いえ」相手はきっぱりと言った。「お疑いになるのなら当社にお越し下さい。通話記録が残っております」



 と、ここまで書いたところで『腹式七回シネマ館』を最初から読み返してみた。

 今日の分までいれると24万文字をオーバー。400字詰め原稿用紙換算で600枚。107話までの読了時間が約8時間。

 初めての長編とはいえ、実にひどい文章。長い割に内容が伴わない。

 自分で書いたはずなのに、文章が頭の中で映像に変換されない。話の行方が分からない。

 特に、11話『痛恨の早とちり』から14話『ダラダラ坂の消え女』は重症。

 自分がみた夢を思い出しながら書いたとはいえ、あまりにも意味不明。

 たぶんほとんどの人が、このあたりでギブアップしたはず。

 

  ※


「小説を書いてみろよ」

 と言ったのはPだった。ときどき僕が話す断片的な物語に興味を持ったらしい。

 もちろん最初は断った。

 物語は僕の頭の中ではなんとか形を成していた。

 それを映像で、と言われれば「ロケ地と俳優を用意してくれたら、やってもいいよ」と引き受けていたかもしれない。

だが、文章でとなると、完全にお手上げだった。 

 小学生の頃から、国語と算数の成績がとびぬけて悪かったのだ。だいいち小説自体に関心がなかった。

「でもよ」とPは言った。「勿体ないと思う。お前の頭の中には、色んな物語が隠れているような気がするんだ。バラバラになった状態でな」

「で?」

「それを繋げてみろよ」

「繋げる? どうやって?」

「今お前の頭の中にあるバラバラの映像を繋げるんだ。イメージを働かせてな。映像が繋がった部分だけでも文章にするんだよ。粗筋みたいなやつでもいいと思うよ。だれかがそれを仕上げてくれるかもしれないし」


 現時点でPは『腹式七回シネマ館』のことは知らないと思う。

 書き上げるまで言わない。書き上げたら、いの一番に教えるという約束を守っているからだ。

 この調子でいくと、この小説のことを知らせるまでには、もっともっと時間がかかりそうだ。

 Pに関するエピソードはいくつか書いた。だがPとの再会、および自分の中に隠れていた『腹式七回シネマ館』を発見する場面は、まだまだ先の話だからだ。

 といえば、やっとの思いでここまでたどり着いた読者のなかに「もう、だめ。我慢の限界を越えた。さよならバイバイ」と言う方もいるかもしれない。

 でもご安心。素人ながらも猛反省。

 読者になったつもりで書くように努める。(ただし、今の自分にできる範囲で……)




※ ※ ※ ※ ※





 そういうわけで、今日のサブタイトルどおり『腹式七回シネマ館』は、次回から次の章に移ります。(後書きにも書くつもりですが。本音を言うと、気分転換のためです)

 

 ここで注意していただきたいことがあります。


 タイトルは、


『腹式七回シネマ館【2】夢と現実と妄想が意味するもの』


 となる予定ですが、


【新規小説】


 としてアップします。

 

 読み続けて下さった方には、迷惑をかけるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。



南 まさき


頭に浮かんできた映像を文章にできるだろうか。

それを一日おきに原稿用紙三枚程度の小説として書けるだろうか。

そんな思いで書き始めて、もうすぐ4ヶ月。

本文中にも書きましたが、三号目付近で原稿用紙換算で600枚。

長い割に内容が希薄。意味不明箇所多すぎ。

でも、ここでやめるわけにはいきません。最後まで書き切ります。

そこでわがままをお許し下さい。

気分転換のために『腹式七回シネマ館』を終了し、第二章という形で新規に立ち上げます。

新タイトルは『腹式七回シネマ館【2】夢と現実と妄想が意味するもの』の予定です。

もちろん第107話からの続きです。


 読み続けて下さった方には、迷惑をかけるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 南 まさき


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