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担当者

 あやうくパニック状態に陥るところだった。

ここはあの人材派遣会社が管理する暗闇の世界なのだろうか。

 そういえば、あの会社には葬儀社に似た雰囲気が漂っていた。

 スタッフ全員能面のような顔をしていた。

 制服は、黒だった。

 しかし、まてよ。

 こことあの会社が何かで繋がっているとすれば、元の世界に戻れるかもしれない。

 と思ったところで、自分の早とちりに気づいた。

 住所を言ったのは僕。相手は、そうですと答えただけ。

 初対面で冗談をいう人間はどこにでもいる。

 そうすれば、はやく仲良しになれると勘違いしている人たちだ。この電話の主も、そういったタイプなのだろうか。

 冷静になれたおかげで、この前人材派遣会社のスタッフから電話をもらったことを思い出した。

 からかわれた仕返しに、ホームページという言葉が通じるかどうかを試してみることにした。

「確かに僕が登録している会社からの電話のようですね」と言ってからつづけた。「まさか、今日の用件はホームページを更新しました。見て下さい。ということじゃないでしょうね」

 しかし、ホームページに関する質問は何もなかった。

「どうしてご存じなんですか。ホームページの更新の件を」

 あっさり、そう返された。

 どんなふうに言えば分かってもらえるだろうか、とホームページの説明方法を考えていた僕は、あわてて言った。

「実を言うと、他のスタッフから電話をもらったんです。名前は分かりませんが、男性でした」

「まことに申し訳ございませんが」と相手は言った。「我が社に男性スタッフは一人もおりません。社長も役員も女性でございます。それに担当者を決める会議は今日の午前中でした。同じことを申し上げますが、わたくしが、あなたさまの担当でございます」

 そんな話はどうでもよかった。僕はこの世界の住民ではない。ここに電話やインターネットがあったとしても、間違い電話に決まっている。

 話をつづけるのが面倒くさくなった僕は「僕の勘違いかもしれませんね」と言った。「なにしろ僕が死ぬ前の話ですから」

 しばらく待ったが、反応はなかった。

「もしもし、聞こえていますか?」

 僕は返事を催促した。

「つかぬことをお伺いいたしますが」電話口からかしこまったような声が聞こえてきた。「いまお酒を召し上がりでしょうか?」

 質問の趣旨が分からなかった。でも、僕は正直に答えた。

「体質的に飲めないんです。そのせいなのかどうか分かりませんが、今僕は蜂蜜風呂に潜っています。ひょっとすると、クロアゲハが集めてきた黒水仙の花の蜜かもしれませんね。なにしろここは、何も見えない真っ暗闇なんですよ」

 何の応答もないまま電話は切れた。


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