やっと言えたねッ
ぼくのなまえは、にしかわさとる。
小学校4年生。
ぼくは、いま悩んでることがあるんだ。
それは、昨日の放課後教室で残って宿題をやらされた帰り、遠足の天気のことが気になって、
「あーした天気になあれ!」
と、くつをとばしたら、ガシャーン・パッリーンと、大きな音がして校長室の窓ガラスを割ってしまったことなんだ。
大きな音にびっくりしてか、怒られるのが怖かったか理由はわからないけど、ぼくは靴を片方しか履いていないまま、逃げ出してきたんだ。
今日は、ぼくの一番楽しみにしていた遠足…
青空は、雲のドレスを着て、太陽のネクレスをして笑っているけど、ぼくの心は笑えない。
ぼくの靴だって校長先生わかるかなぁ。
困ったなぁ。
よし、ぼくだって男だ、いさぎよく謝りに行こう。
そう考えると勇気が出てきたぞ!
体操服を着ると、
「いってきまーす」
学校につくと朝の会が始まっていた。
校長先生が、遠足の注意事項を長々と説明していた。
いつもは、友達とおしゃべりばかりして、校長先生の話なんか聞いたことがなかったけど、今日はしっかり聞いた。
校長先生は、窓ガラスの割れたことなんかぜんぜん言わなかった。
もしかして、気が付いてないのかもしれないぞっ。
謝りに行かなきゃわかりゃしないや。
ぼくは、そう考えた。
遠足は、バスに乗って高原の原っぱまで行った。
ぼくは、窓ガラスを割ったことなんかすっかり忘れて友達と、いろんな事をして遊んだ。
帰り道、バスの中で先生が、ぼくの靴を手に持って
「この靴誰のか知っとるひと!」
と言った。
みんな、あっち向いたりこっち向いたりしてたんで、ぼくも知らん振りして、隣に座っていたみっくんに、
「誰のじゃろうのう」
と、いってみた。
先生は、昨日の校長室の窓ガラスが割られた事件のことを、みんなに説明した。
バスの中は、寝とるもんもおりゃーしゃべりょーるもんもおって、先生の話を聞いとったのは、ぼくぐらいのもんだった。
胸がドキドキして心臓が爆発しそうだった。
学校について、ぼくは今度こそ本当に、謝りに行こうと思ったんだ。
それで、バスから降りるとすぐに校長室のほうに向いて歩き始めた。
「おーい、にしかわ」
後ろで先生の声がした。
ぼくは、てっきりばれたと思って、
「先生、ごめんなさい」
と言った。
先生は、ニコニコ笑って、
「今から終わりの会じゃ、まだ帰るのは早すぎじゃ」
と言った。
ぼくは、なんだかホッとして教室に入った。
終わりの会は、今日の遠足の反省会だった。
女子のやつ、いつも長々と文句ばかり言うて・・・
早う、終わらんかなぁ。
「きおつけー、れい」
学級委員の声がして、終わりの会は終わった。
さぁて、校長室に行くかぁ・ぼくがそう思ったとき、
「さとるー帰ろうやー」
仲良しのまさるがやってきた。
「今日は、ちょっと用事があるんじゃ」
ぼくがいうと、まさるは
「用事いうてなんなー」
と聞いてきた。
ぼくは、困ってしまった。
まさるに、あのことを言うと、みんなに広まるからなぁ・こう考えると、
「まぁええわ、かえろうや」
と、一緒に帰ってから、
「ただいまぁ」
というなり、ランドセルを玄関に投げて、まさると裏山にクワガタを探しにいった。
夜になった。
ぼくは、校長先生の家に電話をかけて、謝ることにした。
ぷるぷるぷるーぷるぷるぷるー
やっぱり怖くなって切った。
明日学校に行って謝ろう。
そう思うと、急に眠たくなって、眠ってしまった。
へんてこりんな夢見たんだ。
校長先生と、ほかの先生たちが、怖い顔してぼくを追いかけてくる夢、走っても、走ってもなんだか前に進まないんだ。
今日は絶対謝るぞー!
朝の会がすんで、校長室のほうを見ると、割れた窓ガラスに紙が貼ってあった。
まだ、ガラス屋さんが来ないんだなぁ。
勇気を出してぼくは、校長室まで行った。
トントン、ドアをノックしたら中から
「どうぞ」
と言う女の先生の声がした。
ぼくは、誰も見ていないのを確かめてから、中に入った。
中には、校長先生と、見たこともない先生たちがいっぱいいた。
「ご用はなぁに?」
と女の先生が聞いた。
ぼくが、何にも言えずにだまっていると、女の先生は、
「今、会議中だから・・・」
「会議?」
何の会議か、ぼくはたまらなく気になった。
窓ガラスを割った犯人探しの会議かもしれない・そう考えると、いてもたってもいられなくなって、
「しつれいしました。」
と、丁寧に頭を下げて、走って教室に戻った。
1時間目の国語の時間、ひょんな話から、窓ガラスを割った犯人が、まだ見つからないことを先生が言い出した。
窓ガラスが割れたとき、先生も校長室にいたそうだ。
ぼくの心臓は、はれつすんぜんだった。
また、クラスのおせっかいの女子たちが、自分たちの手で犯人を捕まえると言い出した。
先生は止めたが、女子たちはやる気満マンだった。
放課後、ぼくはまた校長室に行った。
そこには、ガラス屋さんがきていて、汗をかきながらガラスをはめる作業をしていた。
ぼくは、なんだか気の毒になって、ガラス屋さんに、
「どうも、ごくろうさまです。」
と言って、持っていたノートで、あおいであげた。
ガラス屋さんは、ぼくをたいそう気に入って、校長先生のまえでぼくを思いっきりほめてくれた。
僕は、だんだん謝るチャンスがなくなっていくような気がした。
ガラス屋さんが、きれいにガラスをはめて帰ったあと、校長先生は、ぼくにごほうびだといってアイスクリームを買ってくれた。
ぼくは、校長室のいすに座って校長先生とアイスクリームを食べながら、今がチャンスだと思った。
「校長先生、ごめんなさい!」
ぼくがそう言うと、校長先生は、ぼくのもう片方の靴を持って、ニコニコしながら、
「やっと言えたねっ」
といった。
ぼくは、何だかうれしくなって、今直したばかりのガラスごしに外を見た。
きれいな青空が、雲のドレスを着て、太陽のネクレスをして笑ってた。
ぼくも、校長先生も、いっしょに笑った。
おわり




