「第一章 本体が史莱ムである件について」
「バンディ、よしよし!」真っ赤な史莱ムが、ろくに仕事をしない風神目掛けて超高速で飛びついた。
「ファーマス、もう少し真面目にしてもらえないか?お前は炎の魔神だろう?」バンディは少しだけ諦めたような微笑を浮かべ、目の前の火史莱ムを優しく抱き上げた。
温かくて、柔らかくて、可塑性抜群。これが火史莱ム・ファーマスだ。
戦争と、烈火と、ムナタ。これが炎の魔神・ファーマスだ。
提瓦特大陸。
モンデ郊外。
地下遺跡。
「モラクスよ、爺さんまた生きたわい!」
地下遺跡は瓦礫だらけで、沸騰する火元素の力が充満している。五芒星の祭壇の中に、どんぐりのような丸い影が立ち、絶えず歓声を上げていた。
「取り分けた眷属たちから神の目を取り戻したら、俺が本物の炎の魔神だと教えてやるからな。」
「それにムナタのあの小僧も、くそっ、火精霊に騙されたなんてな!」
すでに火史莱ムと化したファーマスは、祭壇の上で飛び跳ね続けている。ぶよぶよの体は相当滑稽で、どころか……ちょっと可愛らしい。
偉大なる炎の魔神ファーマスがなぜここにいるのか?それはとても長い話になる。
ファーマスの元の名は李牧。二十一世紀の地球で、『原神』の新出の雪山マップを攻略中、火把を探して凍りを解かそうとしていた李牧は、夜の空に奇妙な電光が瞬いていることにまったく気付かなかった。
次の瞬間、紫色の光が閃き、真剣にゲームに没頭する李牧に直撃。そして李牧は目を覚ました時、伝説のゲーム世界――提瓦特大陸、千年前の中央の国「璃月」に来ていることに気づき、千年前の璃月混戦に巻き込まれた炎の魔神・ファーマスとなったのだった。
提瓦特大陸に転生したばかりの頃、ファーマスはまさに潇洒そのもの。それに火属性という有利なパッシブスキル(バフ)も相まり、諸神が乱立する魔神戦争も彼にとっては日常の娯楽に過ぎなかった。炎の魔神は、武神モラクスに匹敵しうる存在だったのだ。
暇つぶしに、人間たちの流離う姿を見かねて武術、戦争、略奪を教え、一部の眷属に火元素の神の目を授け、戦争の国「ムナタ」を一手に築いた。
そして、最も壮大な事業を始めた。
そこに名を馳せる神「モラクス」が現れる。伝説の大海を治める漩渦魔神オセルを倒し、人間と契約を結んで中央の地に最大の人間国家と港を築き、「璃月」と名付けた。
転生者であるファーマスはこの「モラクス」という岩神を知っていた。元々は伝説の武神を避け、ムナタで古き国を維持するつもりだったが、油断したことにこのモラクスが、ムナタの火精霊を連れて押し掛けてきたのだ。
ファーマスはモラクスの言った言葉を覚えている。二人は空中で対峙していた。
「暴君よ。戦争はお前の娯楽手段ではない。下を見ろ、お前の民はとっくに苦しんでいる。」
モラクスの黄金に輝く瞳には怒りが宿っている。ファーマスもその意味は分かった。彼は人間に武術を教え、将軍を任命し、魔神戦争において彼は特に覇権を狙ってはいないが、流離う者たちを守るためには戦争を仕掛ける必要があったのだ。
「モラクス、戦争はより多くの者を守った。ムナタ周辺を見渡せ、漩渦魔神オセル、烈風魔神デカラビアン、東風の龍テバリーン。一人の人間国家もムナタほど団結しているところはない!」
「団結だと?」
モラクスがファーマスの後ろを見やる。ファーマスもその視線に従った。
「暴君、お前が俺の息子を殺した。」
「俺たちは戦争を望まない。平和を望む。」
「偉大なる戦争の神ファーマスよ、ムナタの民を解放せよ。」
地面から人々の激しい叫び声が聞こえてきた。奴隷主や将軍たちは火把を掲げ、武器を持って、どうやらファーマスの支配に反旗を翻すつもりだ。
「彼らには分からない……。モラクス、お前にも分からないのか。」
「赤炎戦場!」
ファーマスは先手を打ち、モラクスに攻撃を仕掛ける。六本の巨大な火柱が立ち上がり、モラクスに向かって突進した。拡散する火元素が半分の空を赤く染める。
ファーマスが提瓦特に来てから、本気を出したことは一度もなかった。だが、今や伝説の武神相手では、十二分の気を引き締める必要がある。
「靡堅不摧。」
岩元素はモラクスの身体周辺に集い、彼をしっかりと守りつつあった。
「震天撼地!」
火竜とモラクスの岩柱が激突し、結晶が爆ぜて空へと散り散りになった。
一方、一匹の火精霊がこっそりと两位の神々の戦いの端っこに隠れ、戦場に漂う火元素の力を吸収していた。
「これで決着をつけよう、魔神よ。」
数回合を重ね、二人とも互いに手が出せない状況だと分かっていた。その時、目ざとくモラク游戏副本中心で火元素力を吸収する火精霊を見つけたモラクスは、ふとひらめいた。
「天動万象!」
法瑪斯は巨大な圧力を感じた。空気中の岩元素力が彼の火元素力を上回り始め、法瑪斯はより多くの火竜を召喚し、地脈の力を引き寄せ始めた。
「これがお前の最大の技か、モラクス。」
岩元素だけで構成された巨大な星が、法瑪斯めがけて突進してくる。
「赤龍!」
沸騰する火柱が立ち上がり、その炎がムナタ全体を包み込んだ。
まさに最終決戦という時に、法瑪斯は突然自分の力に“欠損”が生じていることに気づいた。
「なんだって?!」
凄まじい炎の中、一匹の火精霊が楽しげに法瑪斯の火元素力を吸収していたのだ。
「こりゃいい!」
モラクスは法瑪斯が気を抜いたその一瞬をとらえ、再び大喝した。
「天動万象!」
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「モラクス、ずるいぞ!」地下遺跡の中で、火史莱ムの本体と化した法瑪斯は少しだけモラクスの陰謀に抗議したが、すぐに冷静さを取り戻し、この封印された遺跡を出て、外界がいつの時代かを確認しようとした。
眩い日差しが差し込む。
地下遺跡を出た法瑪斯は目の前の光に慣れるよう努め、視線を転じると、湖心島にそびえる雄大な城を見つけた。
「モンデ城?」
「モラクスの流星一発で、俺をモンデまで吹っ飛ばしたのか?」
「さて、物語は始まっているかな?」
法瑪斯は物語の中で血筋を探す妹「蛍」のことを思い出した。
「ああ、まずはバアルバトスのところに行ってみるか。あの風精霊は俺に随分な酒代を借りている。まさか見捨てないだろう。」
法瑪斯は自分のぶよぶよの体を見下ろし、思わず泣きたい気持ちになった。かつて最強の戦争の神、烈炎の君主ファーマスが、本体が史莱ムだなんて誰が想像できるだろう。
「たった二つの火元素の神の目さえ見つかれば、俺は人間の姿に戻れるんだ!」
決意を固めた法瑪スは、モンデ城目指してぴょんぴょんと“歩き”始めた。




