クリストファ。
◇◇◇
それは、貴族院の主催の子どもだけのパーティで、
本来であれば社交界へのデビューは十五歳で貴族院を卒業してから、なのだけど、学院にいる間にそんな社交のいろはを学ぶべきという方針から毎年さつきの季節に行われているものだった。
初夏の日差しが学院の森の入り口に設られたパーティー会場を照らす。
今年は天候も良く、野外でのガーデンパーティとなっていた。
天候が悪ければ屋内となるところだったけれど、今年はパーティの開催期間は雨が降らない予報だった。
雨の精霊、レインが気を利かせてくれたのかな。
そんな話も囁かれていた。
兎にも角にも。
みな、この初夏の爽やかな気候に喜んでいるようだった。
花も樹も、清々しい香りを漂わせている。
「兄様。なんだかとっても気持ちがいい天気ね」
「ああ、マオ。君の初めてのデビューがこんないい日に恵まれて、僕も嬉しいよ」
「ふふふ。兄様のお顔もほころんでいるわ。とっても綺麗……」
マオが、ちょっと顔をあからめそうささやく。
僕にしてみたら、マオの喜ぶ顔の方が、綺麗で可愛くて大好きだって、そう思うけど。
会場にマオをエスコートして入場する。
今日のマオは花のような意匠の飾りがこれでもかと盛ってある、薄いスカイブルーのドレス。
豪奢な黄金の髪に、白い陶器のようにすべすべした肌に、そんなドレスがとても映えて。
かわいかった。
会場は野外といっても立食形式ではなく、ちゃんとテーブルや椅子が用意されていた。
端を料理が並んだテーブルで囲み、その内側に数人ずつ座れる白木の丸テーブルがいくつもあって、かわいい意匠のやっぱり白の椅子が置いてある。
中央はダンス用のスペース。
今日のファーストダンスはマオと踊ろう。そう考えつつ席を見繕って。
楽団がゆったりとした曲を演奏し、皆それぞれ思い思いの場所に腰掛ける。
まあそれでも大抵血縁、親戚縁者で固まってしまうのは、貴族院だからだろうか。
僕が席を決めて座った場所にも、フリーデン侯爵家と関係が深い家の子どもらが集まった。
学院長が、開催の挨拶を行い、続いて生徒会長を務める王太子、クリストファ殿下が中央北に設られた壇上に立った。
肩までの白銀の髪を背中に流し、その金の瞳で会場全体を見渡した殿下。
彼はまだ八歳のはずなのに、さすがわ王太子の役割を担っているといったところか、堂々とした姿で皆に語りかけた。
「本日は我々貴族院の学生にとって、本当の社交界の姿を学ぶための意義のあるもようしである。皆、貴族である矜持を持ち行動してほしい。もちろん学院は一部の魔力持ちの平民も受け入れているが、彼らのことも同じ学院の仲間として受け入れてほしいと思う。では、乾杯!」
右手に持ったグラスを高々と掲げ、殿下はそう締めくくる。
会場の皆も、それぞれ飲み物の入ったグラスを天に掲げ、本日のパーティの幕が開けた。
座る席は、自由だった。
特に、空いている席だったら途中で移動するのは構わなかった。
大人の社交界と違っているのは、この場の飲み物にお酒のたぐいがないことだけだろうか?
飲み物の種類は豊富にあった。
ありとあらゆる果実のジュース。
炭酸水で割ったソーダのたぐい。
スパイスが調合された刺激的なソーダもある。
珈琲やミルク、紅茶のような普通のお茶会で飲まれるものもあるにはあったけれど、やはり料理と一緒にいただくのであれば、ソーダの方が好まれそうだ。
「マオ。君の分も何か見繕って持ってくるから、ここで待ってるかい?」
「ええ、兄様」
マオの手元には最初にボーイが配ってくれた柑橘ジュースが少しだけ残っている。
僕のはもう飲み干してしまったけれど。
「そうだ。飲み物も頼んでこよう、何にしようか?」
「ごめんなさい。じゃぁゆずをソーダにしたものをお願いしたいです」
「了解。僕のソーダも一緒に頼んでおくから、先に届いたら受け取っておいて」
「わかりました兄様。ありがとうございます」
割と中心に近い位置にある僕らのテーブルは、端のご馳走からは少し遠い。
それでなくても今日は着慣れないドレスを着ているマオだ。
歩き回らせて疲れさせたくなかった。
周囲にいる令嬢たちは事情を知っている親戚筋のものたちばかりだった。
少しくらい離れたとしても問題にもならないだろう。と、気軽に離れたのは失敗だった。
「クリストファ殿下!!? どうしてこちらに!?」
料理をお皿に盛って運んできたところで、席に、僕のとなりのとなり、マオを挟んだ反対側に、なんとクリストファ殿下が座っていた。
「ああ、アンソニーか。いや何、皆と親睦を深めるために席を移動しているだけさ。ほっといたら私の周りはむさ苦しい男ばかりになってしまうからね」
むさ苦しいって……。
彼らは殿下の親衛隊だ。
殿下に変な虫がつかないよう、お眼鏡にかなう令嬢しか殿下の近くには近づけない。
「だったらそちらで集まっている令嬢たちの方に行けばいいじゃないですか」
殿下から寄って行った場合は親衛隊も諦める。そうそうむげな真似もできないからだろう。
「ふっ。バカだな、アンソニー。ほっておいても色目を使ってくる令嬢じゃ面白みもないじゃないか。うん。このこのようにウブな、貴族なれしてない女性の方が私は好みだから」
隣で真っ赤な顔をしているマオ。
もう、何か言われたのか?
どう受け答えをすればいいかわからず、困惑しているように見えた。




