僕の天使。
ありがとうございます。
ここからは少し、アンソニー視点で物語を進めます。
よろしくお願いします。
僕の天使。
マオは、小さな僕の天使だ。
その輝く黄金の髪、煌めくサファイヤの瞳。
もうそれだけみたって彼女はここフリーデン侯爵家の家系に連なるものだって言うのはすぐにわかった。
父様の、本当の子?
父様の部屋の外から様子を覗き見ていた時に聞こえてきたセリフ。
「子供がそんなこと心配しなくていいよ。君はもううちの子だ。このまま学校にも通わせてあげるから」
そう優しく話す父様。
ちょっと羨ましかった。
男女の違い? いや、それだけじゃない。
父様は僕にはそんな顔、見せてくれたことはなかったから。
僕にはもう一人、父さんがいる。
幼い頃に亡くなってしまったから、もう顔だって思い出せない。
肖像画でしかみることはできないその姿は、今の父様とよく似ているけれど、もう少し優しい雰囲気を纏っている気がする。
「今日から私が君の父さんだよ。アンソニー」
そう顔を覗き込んでくれた時のことは、今でもはっきりと覚えている。
子供ながらに、父さんの棺桶に縋って泣く母上を宥めるのにも疲れてしまったそんなタイミングだった」
「おじさんが父様になるの?」
「ああ、そうだよ」
「母上は? おじさんの奥様になるの?」
「いや、そう言うわけじゃないんだ……」
ちょっと困った顔をする父様。
その理由はすぐにわかった。
父様が今のマオとそっくりな女性を連れてきたから。
だから、僕にはマオを見た時からわかっていたんだ。
彼女が僕の従妹で、そして妹だってこと。
父様の、本当の子供なのだろうってことくらい。
それに、そうじゃなかったら父様の隣の部屋、フローラさんの寝室だった場所に、彼女、マオを寝かせるだなんて、ありえなかったもの。
あの部屋は、もうずっと綺麗に整えられていた。
きっと、フローラさんがいつ帰ってきてもいいようにって、父様はそう考えていたんだって。
聖女に。
翌朝。
朝ごはんの場でマオを改めて紹介してもらえた。
「アンソニー。この子はマオ。うちで預かることになった。仲良くしてやってくれ」
と、父様。
「マオと言います。よろしくお願いします」
そう、ぺこっと頭を下げるマオ。
なぜか、父様はマオを自分の子だとは紹介してくれなかった。けど。
「マオは、うちの子になるの?」
そうストレートに聞いてみる。
昨日、父様がそうおっしゃってたのは聞こえていたし。
マオは、顔を真っ赤にして、父様の方を見ている。
「ああ、そうだよアンソニー」
ふふ。どんな事情があるのかはわからないけど、父様はマオには自分が実の父だとは名乗るつもりがなさそうだ。
じゃぁ僕だって、それに合わせてあげなきゃいけない。
「そっか、よろしくね、マオ。僕のことは兄様って呼ぶといいよ」
うん。マオは妹。なんだか嬉しい。初めての妹、かぁ。
そんな感慨に耽っていると。
「え、そんな……。恐れ多い、です……」
マオは顔を伏せて、泣きそうな顔になって。
ああ、だめだ。
泣かせるつもりじゃなかったのに。
マオは、絶対に笑っている顔の方が可愛いのに……。
フローラさんは、花のような笑顔で微笑む、綺麗な人だった。
マオは彼女にそっくりなんだもの。間違いないよ。
僕がフローラさんと過ごしたのは一歳から四歳までの三年間だけだったから、もしかしたら父様なんかは僕がフローラさんのことなんか覚えていないって勘違いしているかもしれない、けど。
僕には幼い頃からの記憶がちゃんとある。
父さんのことだって、ほんと、流石に顔までは覚えていないけど、ちゃんと覚えていたから。
「泣かないで、君はきっと笑った顔の方が可愛いよ」
僕はそんなどこかで見たようなセリフで、マオのことを慰めようとしたけれど。
マオはますます泣き出して、お母さんのところに行きたいと呟く。
お母さん、フローラさんは昨日病院に搬送されたはずだ。
なら……。
泣いているマオの顔を覗き込む。
「一緒に行こうか。良いよね? 父さん」
「ああ。任せるよアンソニー。マオを頼んだよ」
「うん。父さんがうちの子だっていうなら、この子は僕の妹だ。兄は妹を大事にするもの、だからね」
「そう、だな。アンソニー」
「マオは僕がちゃんと病院までエスコートしてくるよ。任せて」
そう宣言すると、僕はマオの手を引いて食堂を出る。
触れたその手がとても心地よくて。ああ。この子を守らなければ。そう決意した。
病院までは馬車で行き、そして病室までついたところで。
まだ五つになったばかりだと聞いたのに、マオの体から魔力が溢れてくるのを感じて。
神に祈りを捧げるように、両手を合わせ祈るマオ。
その姿は神々しい光に満ちているようにも見える。
ああ、きっと、この子は大きくなったら聖女のような存在になるのかな。
そんな予感があった。
貴族が使う魔法の最高峰。
聖女の力を行使できる存在に。
僕の天使は、きっとそれくらいのポテンシャルはありそうだと、確信した。




