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あなたがすき、だったから……。  作者: 友坂 悠


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12/25

フローラ。

 ◇◇◇


「うん。父さんがうちの子だっていうなら、この子は僕の妹だ。兄は妹を大事にするもの、だからね」


「そう、だな。アンソニー」


 (そうだ、アンソニー。兄は、妹でも弟でも、大事にするものだ)


 兄の忘形見アンソニー。

 (この子は、だんだんと優しかった兄、アルバート兄さんに似てくる)


 エドワードはアンソニーがマオを妹だって言って受け入れてくれたことに感謝しつつ、しかし彼に本当のことを言うのも躊躇われた。


 もともと、優秀だった兄がこのフリーデン侯爵家をつぎ、自分はいとこでもあるイライザ・ラウルと結婚してラウル伯爵となる、予定だった。親同士の口約束の、そんな軽い婚約であったけれど。貴族たるもの政略婚が当たり前望んだ相手との結婚など望むべくもない、そう教えられてきたエドワードにとって、そんな運命に逆らうという考えすら持つことも無かったのだった。

 しかし。


 たまたまの領地視察の際に現れた盗賊に、簡単に倒せるだろうと油断したエドワードに放たれた魔法銃の弾丸から、彼を庇って命を落とした兄アルバート。

 その日以来、エドワードの人生はそれまでとはまったく変わったものとなってしまった。


 ラウル家の子は女性が二人。

 イライザと、アルバートの伴侶となっていたアニータだけであったから。

 エドワードがアルバートに代わりフリーデン侯爵となることが決まった段階で、彼女イライザとの婚約は解消されていた。


 お互いに家督を継がなければならなくなった身では、婚姻など望むべくもない。


 それに。


 兄アルバートにはアニータとの間にアンソニーという子が居た。


 自分は……。

 この子、アンソニーに家督を継がせるまでの臨時侯爵だ。

 エドワードはそう心に決めていた。


 そして、自分に子があれば絶対に家督争いの元となる。

 それは避けるべきだ。

 本来であれば今ここに生きているのはアルバートであったはず。


 だから。


 エドワードはアンソニーを養子に迎え、実の子のように愛情を注いだ。

 そして、自分は決して子を為さないと誓ったのだ。


 しかし、周囲がそれを素直に許しはしなかった。


 侯爵が生涯独身でいるのは世間体的に宜しくない。

 だの。

 アンソニーを養子にするのであれば兄の妻であるアニータと結婚すればいいのだ。

 とか。

 そんな外野の声は日に日に高まってきていて。


 アニータとの結婚?

 そんなもの、兄への裏切りに等しい。

 彼女の生活は保証する。一生この家で面倒をみる。その気概はあった、けれど。

 結婚となると話が違う。


 兄が愛した彼女を、自分が凌辱するなんてことはどうしてもできなかった。



 そこで白羽の矢を立てたのが、フローラだったのだ。


 なんでもよかった。アニータとの結婚を避けることができるのであれば、それで。








 エドワードが彼女、フローラと出会ったのは、夜の街、それも健全とは言い難い、そんな酒場だった。


 あまり大きくない店構えの中には数人の女給。客はただ酒を飲むだけではなく、彼女らとの会話を求めてやってくる、という、そんな形態の店。

 ただ酒を飲み食事をする、それが目的なら大きな広い酒場に行けば事足りる。

 しかし。

 エドワードの目的は違った。

 後腐れのない女性。ある意味、お金で自分の目的のために利用できる女性。

 そんな女性を探していたのだ。


 そもそも、偽装結婚だなんて普通の女性に頼めるものでは無い、そう思っていた。

 だってそうだろう。いくらお金を積んだとしても、自分の、人生のそれも一番若く本来であれば一番輝く時間を、数年だとしても手放すことができるそんな人、そうそういるものじゃ無い。


 居たとしたら、それは自分の人生なんか捨ててしまっているような、そんな存在だと。

 一応そう分析して、やってきたのがここ、夜の街。

 夜の酒場街、だったのだ。


 条件も、もちろんある。

 世間体のためだけの相手だ。お飾りの侯爵夫人が務まるだけの容姿、気品、そういったものももちろん必要だった。

 出身は平民であったとしても、少々の教育で貴族として振る舞うことができるだけの教養も欲しい。


 そんな、都合のいい女性がそうそういるものか。

 そもそもそんな女性であれば、本当の玉の輿だって狙えるだろうに、何を好き好んで人生の貴重な時間を犠牲にできるものか。

 そういう疑念も、もちろんおいておいて。

 それでも今の状態を解決するための手段として、藁にもすがる思いでこうして毎夜、夜の街に繰り出していたのだった。


 カラン。

 扉を開けるとそんな涼やかな鐘の音。

「あら、いらっしゃい。お一人?」

「ああ。一人だ」

「こちらにどうぞ、ふふ、よくみたら素敵なお召し物ね。ハナちゃん、このお客さんについてくれる?」

「はーい、ママ」

 呼ばれてやってきた女性がエドワードの腰掛けたソファーの隣に、すっと潜り込むように座って。

 ソファーはギリギリ二人が座れる程度の小ささだった。当然、身体は随分と密着してしまう。

「こんばんわ。お客さん、ここは初めて?」

「ああ」

「わたしはハナ。よろしくね。今日はお飲み物、何にします?」

「そうだな……、まずはエールを貰えるか」

「はーい。わたしの分もいい?」

「ああ」

「ママ、エール二つお願いね」

 そうカウンターに声をかけるハナと名乗った女給は、軽やかに笑うとエドワードの顔を覗き込むようにして」

「お客さん、お貴族様、かな? あなたの瞳、宝石のように綺麗ね」





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