失踪。
ここからはエドワード視点三人称でお届けします。
エドワードが何を思っていたのか、解き明かしていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「なんだって!!」
エドワードは思わず大声をあげ、テーブルを叩いた。
腹心の部下、コーラルからの早馬の知らせに、自分の以前の妻、フローラが奇病にかかり意識がないと、そうあったからだ。
彼女とは契約婚で、3年で別れる予定だった。元々は妻を持ちたく無かったエドワードが金銭の援助と引き換えに婚姻を強要したようなものだと負目があったから……。
最初は、純粋に彼女に惹かれていた。
こちらが金に任せて無理を言っている、本来であれば嫌われても当然の自分のことを、フローラは厭わず献身してくれた。
そんな彼女に、だんだんと心を動かされていったのだ。
しかし。彼女の幸せを考えたらここで白い結婚だったときっかり証明して別れ、ちゃんと次の恋を応援しよう。
いや、彼女に本心を打ち明け、このまま婚姻を続けてもらえるよう懇願しよう。
そんな心に揺れうごいたまま、契約満了の三日前となり……。
決意をできぬまま、エドワードは酒に負けた。
いや、酒に、逃げたのだ。
夕食時のワインを飲みすぎた。
そう思った時にはもう歯止めが効かなかった。
自室に酒を運ぶよう執事だったコーラルに告げたエドワードに、フローラは心配そうな顔で「お体に触りますわ」とついてくる。
普段は隣の部屋で寝ていたフローラだったけれど、自暴自棄のようになって酒をあおるエドワードを気遣って、寝室までやってきたのだ。
追加の酒を運んで来たコーラルを部屋から追い出したところで、もうエドワードの意識は無かった。
そのまま、きっと、過ちを犯してしまったの、だろう。
「探さないでください」と、そう一言書き置きし、フローラが姿を消していたことに気がついたのは、翌日の昼になってからだった。
探さないでくださいと言われても、そんなもの素直に聞くわけにはいかなかった。
だから、心当たりには全て連絡し、詳細を求めた。
実家のケイプロック男爵家にも早馬を飛ばした。
元々、前男爵、フローラの父が残した莫大な借金の肩代わりをしたのがエドワードだった。その後親戚筋の男性を養子に迎え男爵位を継がせ、彼女の母が路頭に迷わないように、と、懇願したのがフローラだったから、彼女がケイプロック男爵家に帰るという可能性は低いとは思っていた。
契約期間は満了していないのだから、今彼女が男爵家に帰れば、肩代わりした借金の返済に追われることにもなりかねないのだから。
彼女がそんな判断をするとは、エドワードには思えなかったのだ。
だけれど……。
フローラは、家をでて行ってしまった。
事故でもさらわれてでも、なく。
自分の意思で。
それほど、昨夜のことが嫌だったのか。
そう思うと、胸が張り裂けそうだった。
無体な真似を働いたであろう痕跡もあった。
だから、自分が悪かったのは、もう間違いがないのだけれど。
それでも。
酔って記憶がなかったとはいえ、心の奥底には慢心があったに違いない。
きっと、少しは、受け入れてもらえるのではないか? と、そんな気持ちも絶対にあったはず。
彼女がエドワードのことをそこまで嫌っていたなんて、そんな様子はおくびにも出さず、さとらせず、今まで過ごしてきたのだ。
だから、間違えた。
間違えて、しまったのだ……。
首都メルロマルク中を探し回り、周囲にも捜索の手を伸ばしたところで、エドワード自身には限界が来た。
これ以上、国中を捜索するには今の自分には時間が足りない。
それに、探し出してどうしようというのだ?
彼女の幸せを願うなら、そのままそっとしておいてあげるほうがいいのでは?
そんな考えも頭をよぎる。
いや、きっと、ただただ謝りたかったのだ。
エドワードは、フローラに謝りたくて。
そう心を整理して、フローラと共に歩む人生は諦める。
自分には、そんな資格はない。
だから。
コーラルにフローラの捜索を託し、もし出会えたら、エドワードが真摯に謝罪したいと言っていたと伝えて欲しい、ただそれだけを依頼した。
フローラを助けるための資金も用意し、送り出したのは、フローラが失踪してから半年は経った後だった。
そして。
彼女が失踪して一年後。
コーラルから、フローラが見つかったとの連絡が入ったのだった。
安堵、した。
生きて、無事に、いてくれたことに。
しかし、彼女はエドワードには内緒にしてくれとコーラルに懇願したそうだ。
いい。嫌われてしまった自分など、もう彼女の目の前に赴く資格もない。そう心にし。
せめて、コーラルには彼女のそばにいて、時々でいい、無事な知らせを送って欲しいと、そうお願いした。
もうここからは仕事じゃない。コーラルが望まないなら受けなくてもいい。
エドワードはコーラルにそう言って。
彼女が見つかったという辺境の地で、コーラルが事業を起こせるだけの資金を送った。
「私は、エドワード様を崇拝しています。どうかこの先も部下として働かせてください」
彼がそんな手紙を送ってきてくれたことに、甘えたのだった。




