ざまぁ!?逆ざまぁ!?公爵令嬢と王子のドタバタな茶番劇
――最近読んだの。
お友達が貸してくれた流行りの小説。
公爵令嬢が身分の低い女の子に嫉妬して、婚約者を奪われ、その罪を問われ地位を追いやられ、さらには娼館で男達にアレやコレや……。え、そんな目にも……?いや流石に……。
そこのアレやコレやなやつは後学のために活かすかもしれないが?いや、少しだけもっと深く読んでみたいが!
「私って公爵令嬢じゃない?本の描写みたいに深い赤髪で琥珀の瞳。猫目美人だし。更には面倒だけれど、王子の婚約者じゃない?」
別に自慢なんてしていないのだ。ただ混乱しているだけなの!
「私って性格が性悪?ねぇ、私って性悪なのかしら。それとも、実はつんでれ?愛されキャラなのかしら。どっちだと思う!?」
「とりあえず、お前はただの抜けてる公爵令嬢だ」
「浮気性のクズ王子に言われたくないわーーー!」
「おい、さすがに目の前でクズ王子呼ばわりされたのは初めてだ」
目の前のルクス様は、少し長い黒髪を緩く結んでいる赤目の王子様だ。相変わらず素敵だわ……。
そう。私は公爵令嬢で王子の婚約者、ローザリア=ランディーネ公爵令嬢なのだ。
この小説たちに出てくる全ての公爵令嬢が何だか他人の気がしないのよ。
見た目の描写も私に似ている。
「私、ざまぁされちゃうわ!いえ、逆ザマァ!?いやいや、私が主人公ならざまぁであってる!?」
パニックである。だって、全部が私の現実の話のように感じてしまうのだ。
「おい、落ち着けローザ。公爵令嬢が娼館落ちなんてあり得ないぞ。なんて過激な。……といかお前が気に入った小説は後でこっちに全部回すように。俺も読みたい」
婚約者の王子、ルクス様が言った。
そんなの嫌に決まっている。幼い頃からの婚約者兼知り合いに、ちょっとどころじゃないエッチな本を読ませるなんて!
「別に気に入っていませんから。公爵令嬢のその後があまりにも刺激が強すぎて、新しい扉が目の前に現れただけですから。扉は開いていません!」
浮気する予定の王子(仮)に何を相談しているのだろうか。
でも、高飛車でその後断罪される性悪な公爵令嬢(仮)には友人が居ないのだ。
まぁ、浮気王子(仮)にも友人なんていないから、付き合ってくれているんですけれどもね。
「今は二学期ですから……季節外れの転入生で、成績優秀で健気で笑顔が可愛らしい女の子が来たらそれがヒロインですわ」
「平民の女生徒の編入が決まったらしいが」
「ほらーー!それ、それです!お願いします、ルクス様。修道院エンドにしてください!それなら後で修道院から逃げますから。それか、娼館落ちでも私を溺愛する男性一人だけに売ってください〜……。所謂快楽落ちでいいですから!流石におじ様やら変態やら大勢は勘弁ですわ……」
遂に、この時がきてしまったのだろうか。
公爵令嬢=断罪。
この図式は公式なのだろうか。
「はぁ?修道院はまだしも快楽落ち?ふざけてるのか、お前は」
「本気だから、こんなにお願いしてますのに!」
「そんな事は絶対に起こり得ない。お前は俺の婚約者だぞ。どこのクソ野郎がそんな目に合わせるっていうんだ」
お言葉が荒れてるわ、珍しい。ルクス様の機嫌を損ねてしまった。これは久し振りに本気で怒っているわ。
――今は友人として大切にしてくれていても、私を断罪してそんな無体をさせる。それが小説のストーリーだった。
「じゃあ、ルクス様は浮気王子にはならないと誓えますか?」
「当たり前だ。何故今更婚約者を変える必要がある。俺にはお前が居るというのに」
「ならヒロインが現れて約束を破ったら!私を溺愛する人に嫁がせてくださいね」
「あ?」
「出来れば溺愛で甘々としてくださる方で!実は神様にも祈りたくないし、娼館落ちなんて以ての外なのです。無理やり誰かに嫁がせるエンドも少なからずありますし、それなら溺愛旦那様の所でお願いします!」
「お前、小説と現実を混同しすぎだろう。ヒロインだって?平民の少女に高位貴族の令息が何人も落とされるはずが無いだろうが」
ルクス様はテーブルの上で顎に手を当て、もう片方の手で私の額を小突く。
――無駄にいい男。モテる仕草。これは罠だわ……。
「じゃあ、賭けましょう。平民の女の子が高位貴族の男性複数と仲良くなり、アプローチを受けると。私が勝ったら、溺愛執着の方の紹介をお願いしますわ!」
「高位貴族の男が複数?平民に?あり得ないな」
「ここってどう解けばいいんですか?まだよく理解出来なくて。あっ!ごめんなさい、足元がよく見えてなくて……!きゃっ!」
男子生徒の胸に飛び込んでしまう少女。
ほら、ご覧なさい。
言った通りの展開だわ。もう名前も言いたくない騎士団長のご子息と、将来を有望視されている王子の側近がずーっと……ずーっと彼女に纏わりついているわ。
(やっぱり、あれは本当の事になるのね。浮気王子め)
本当は少しだけ期待していたのだ。
物語が現実になるはずは無くて、ルクス様だって私の事を憎からず思っていてくれていると……。
「男って最低ね」
思わず呟く。裏切られた胸が少し痛くて何かを殴りたい気分だわ。
「ええ、ローザ様。男って最低ですわ」
「私達、お父様から許可をもらって新しく婚約者を探す事にしましたの。アレは一応のキープですわね」
そこに、目の前で浮気している彼らの婚約者達が話しかけてきた。
親の許可の下で婚活。
羨ましい。
――これは、溺愛してくれる旦那様を自分で見つけるチャンスというものではないのかしら?
「いつ?いつ新しい婚約者を探しに行くのですか?私も新たな道を探してみたいですわ!」
「やっぱり、夜会や身近な方から紹介していただいたき、そのままお食事などデートをするのです。ローゼリア様も、公爵閣下の許可さえあれば新たな男性とお食事する位いいのでは?」
世の中に浸透しすぎた小説は親世代にまで及んでおり。
ハニートラップに掛かった婚約者にすぐ見切りをつける風潮が広まっていた。婚約は家の政略だが、学生同士だとそこまで深刻になる場合も少なく、慰謝料等の発生しない婚約解消で同意する事が多かった。
――王子?一番危ない案件ですわ。
そう答える女性たちはお互いに同意した。何故か私達はその台詞で心の絆を強めたのだった。
新たな絆を結んだご令嬢達と、日々男性との出会いを求めていたある日。
「ローザ。お前、何故他の男を見繕っているんだ。不貞は許さないからな」
ルクス様からの呼び出しが掛かってしまった。
「お父様もお許しになってますし。今は、浮気性の男性を見限るのは常識ですの」
「浮気なんてしていない!」
チラリと彼の顔を見る。久し振りだった。こちらが避けていた事もあるが、婚約してからここまで顔を合わせなかったことはない。
「私が何も知らないとでも?ルクス様が二人で平民とお話ししているのも見かけました」
「あれは、浮気とかそういう事じゃない。俺自身で少し確認する事があって……」
はいはい、言い訳言い訳。普段はあらぬ疑いを与えるからと女性と二人きりにならないでしょう、あなた。
「賭けもしましたよね?あの通り、高位貴族の令息が陥落しましたわ。あの時、貴方はそんな事が起きるはずがないと否定しましたが……」
「それは。確かに言ったが、俺自身は関係ないだろう?」
でも。
「信じられないのです。ここまで想像通りにいってしまっているんですもの。まぁ、小説が流行っているお陰で私も、彼らの婚約者も次を探せているんですが」
遠くから可憐な高い声が聞こえてくる。
「ルクス様〜〜!探したんですよ?今日は生徒会で会議のある日じゃないですか。資料もちゃんと頑張って用意したんですよ?褒めてください」
可愛らしく甘える彼女。名前?名前……アリーでしたっけ。
――ほら。普段から親しげにでもしてなければ出てこない会話。というか王子にこの態度って凄いのね。
この人、私以外に親しい友人なんて少なかったのに。
「あら、ルクス様!お話はここで終わりにしましょう。ではご機嫌よう」
二人を見てニコリと笑う。
「あ、賭けに負けたんですから、前言った事は守ってくださいね?……神もその他大勢も勘弁ですからね……!溺愛相手でお願いします」
余り聞かれたら困る単語は小声で伝えた。
「ローザ待て!話はまだ終わっていない!」
――クソ野郎〜〜!!ヒロインが乱入して来た時点でここは場面転換で終わりだわ。引き留めないでくださる?
物語なら、ヒロインが躓いたりぶつかってきたり、嫌味を言われる場面じゃない。
「では、私は失礼しますわ」
最大速で逃げる。とにかく冤罪、これは怖い!早めに『海外に脱出、そこで新たな出会いが?』
これを進めたほうがいいかもしれない。
さっきのあの親しげな二人の姿は、もう物語では少なからずお互いを意識して恋を自覚する時期なのよ。知らないけれど、多分。
私が主人公の逆ざまぁパターンでも、ルクス様はヒロインと通じちゃうんでしょう。
私に、言い負かされるルクス様が想像できないけれど。権力に物を言わせて裏取りしようかしら。
所謂逆ざまぁである!
「浮気の現場に突入して証拠を叩きつけてやるんだわ。泣かされるだけの私じゃないもの」
王家の護衛や侍従を買収したら情報が手に入らないかしら。いや、王族の情報を流したら罪になるかもしれないわ。
――やっぱりお父様ね。頼るべきは公爵閣下よ。
伊達に権力者をやっていない筈だわ。情報網があるのよ、多分。
そのお父様から、新たに紹介された相手が数人いる。高位貴族ばかりで、まぁお父様としても考えがあるのかもしれない。
チラリと後ろを振り返ると、身振り手振りで話す平民ヒロインとそれに相槌を打つルクス様。
これは婚約破棄からの……となるしかないのね。
先に助けてくれる相手を見つけておかなくては。
――ルクス様の馬鹿。嫌い。
思い出すのは、いつものお茶会。
無愛想なのに、瞳は優しかったし私にもちゃんと向き合って話してくれていた。
(好きだったのに)
私を娼館送りにするとは!許すまじ!
「あ、そういえば今日はルクス様の側近の……そう、セイン様。あの方からお食事に誘われているんだったわ」
最近よく私を気にかけてくれるセイン様って確か海外にも伝手が多いんでしたっけ?
セイン様の叔父が確か外交官で、と話をなさっていたわ。現宰相の父と外交官の叔父。
なんて心強い。
まずは、ヒロイン(仮)がいる学園から逃げる為に、他国の事や、留学のことなどを相談したほうがいいかもしれないわ。
今日のセイン様とのお食事の時に相談してみましょう。決心しながら歩き出すが。やはり足が重い……。
「そうなんですね、ローゼリア嬢は外国にご興味があると?」
セイン様との食事の際に、海外留学に興味があり、最近の学園からとルクス殿下からも少し距離を置きたいと相談した。
「外国へ行けば、もしくは今の環境が変われば、こんなに嫌な気持ちにならずに済むと思うんですの」
彼はルクス様の側近なのでこんな相談は困ってしまうだろうが……。
「ローゼリア嬢。お気持ちはよく分かります。最近の学園の有り様は酷い。少し、気分転換にでも行きませんか?」
「気分転換ですか?」
「はい、家が所有している避暑地があるのですが、港もあり海外の空気も味わえますよ」
「まあ!なんて素敵なの!」
「楽しい時間を過ごせることをお約束します」
「でも……、お父様が許してくださるかしら」
「少しお誘いするタイミングを間違えてしまいましたね。ただ、あなたが悲しい顔をしているのが耐えられないんです。では、休日に王都のご案内をしましょうか」
「王都くらいなら大丈夫かしら?」
「では、ローゼリア様の憂いを少しでも晴らせるようなプランを練っておきますね」
ふむ。
スマートな誘い方が様になっているわ。
そうね。ずっと男性はルクス様としか交流がなかったのだ。少しくらいいいかもしれないわ。
護衛も連れていけばいいんだもの。
そうよ『裏切られた女性同盟』の皆様も、その行動力が凄かったわ。
私は溺愛執着してくれる旦那様を探さなければいけないのよ。王子からも守ってくれるような。
「ええ、是非。楽しみにしておきますわ」
◇◇◇
「ローザが、娼館落ちになるらしい。または、溺愛執着の上に快楽落ちさせられるらしい!」
「真っ昼間から物凄い単語を聞いた」
乳兄弟で侍従のサイラスが飲み物を噴き出しそうになった。こいつは、幼少期から一緒に居るから本当の兄弟みたいな関係だ。
「俺がローザにそれをさせるらしい」
「あー……溺愛王子の執着快楽落ち?やりそうで怖いよね」
「そっちじゃないんだ!娼館落ちにさせるんだと、この俺が!」
「お前が?溺愛してるローザ嬢を?え、寝取られるのが好きな方向にシフトしちゃったの?流石にヤバいって」
「そんなわけあるか!そんな事考えただけで発狂しそうだ。……いつものローザの妄想だ」
ああ、あの可憐なローザに男共が群がる姿なんて想像するのも悍ましい。
「え、溺愛執着快楽落ち?やだ、ローザ嬢の妄想が、激しい。え、ちょっと萌え……」
「想像するなよ。首を落とすぞ」
両手を上げて降参のポーズを取るサイラス。
流石にこちらの苛立ちがよくわかっている。
「溺愛執着旦那を紹介しろと言われた……」
俺は顔を両手で覆う。なんて憐れなんだ。
「でも、アレでしょ?最近女の子達に流行ってる小説。悪役のご令嬢が正にそんな目に合うやつがあったな。現実と混同し過ぎだよね。流石女の子っていうか」
「読んだのか?」
「いや、無理だって。あまりにも気障ったらしい男の台詞に本を投げ出したくなるんだもん」
「貸してくれ。俺がそんな本を買った時点で色々な所に情報がいってしまう……」
「いいけどさ。変な性癖に目覚めるなよ」
「想像させるな。……ローザは少し抜けているが基本的に馬鹿じゃないんだ。その流行りの小説を読んでみよう」
サイラスから借りた本を三冊程読んだ。
――公爵令嬢の娼館落ちエンド。様々な男に次々と……。悲惨すぎて色々と死にたくなった。
――修道院エンド。彼女の懺悔に泣きたくなった。浮気をした王子が全て悪いだろう!
――溺愛執着からの快楽落ちエンド。快楽落ち!?嫌がる彼女が段々と……!くそ!耐えられない!死んでしまう!
「悪意を感じる。明らかにモデルがローザだ。そして、公爵令嬢のその後が……!多種多様な……駄目だ、想像すると死にそうだ……」
「女の子向けって体だけど、矢鱈と具体的に公爵令嬢がエッチな目に合うんだよね~。そこがまた……ひっ!」
「貴様、読んだな」
「いや、だってさ。ルクスがそんなになるなんて気になっちゃうからつい興味が。というか、流行っているから読んでる男は多いと思うぞ」
「殺す。あれを書いたやつは殺す。読んだ男も想像したやつも殺す。ヒロインとやらも殺す」
「本性出てるって。怖いって」
「ローザが言っていたんだ。ヒロインは爵位が低いか平民で、成績がいいか特待生で、新入生か転入生だと」
「まぁ、具体的で有り難いね。今度の平民の子なんか当てはまっちゃうなぁ」
「本当に来るのか?なあ!仮にも現実なんだから、小説みたいに高位貴族の奴らが何人も落とされるって事態はないよな!?」
「そりゃあ、自分の立場を必死に守らなきゃいけない奴らが平民ちゃんを持て囃す理由も無いしなぁ」
――数日後。
「あり得るんだねぇ。かわいい平民だから、愛人にしようって近づいてるのかな」
「俺は浮気王子とローザから呼ばれている」
「うわ~……」
掛ける言葉もないらしい。
「彼奴等のせいだ。この先、俺まであの状態に陥るとローザが思っている。というか世間が俺をそういう目で見てくる」
「うわ、思った以上に深刻な事態」
「俺を陥れるのが目的なのか?それとも国か?王族か?目的が微妙に把握出来ない」
「そういえばさ、あの平民ちゃん。調べたら実は……」
「隣国の王女なんだろ。側妃の子で、身分を隠して入学してきた」
「あ、やっぱり調べはついてたのか」
「ただの平民なら、隠れて処せたものを。面倒だ」
――そんな事実があるから、絡まれても無下に出来ず、平民にはあり得ない馴れ馴れしいあの態度を止めることも面倒だ。
この前は、ローザの前で馴れ馴れしくベタベタと!
「こうなると、あの小説は怪しいね」
隣国の王女相手に嫉妬で危害を加えれば、確かに本の通りになる可能性がある。
あまりにもタイミングが良すぎる。隣国の情報を掴んでいたか、こちらに招いたか。どちらにしろ、碌でもない。
「大方、王子が平民と恋に落ち、実はその相手は隣国の姫でした。というのが目的だろう。もしくはうちの国の高位貴族にその姫を嫁がせたいんだろう」
「ふむ、回りくどいけど学生相手にしか出来ない手段だね。上手くいったら御の字程度かな?」
隣国の名ばかりの王女だ。この国の王子、ひいては王太子になる俺にはその選択肢はない。求婚状を送られても相手にしないだろう。
「あの小説を書かせたやつも身元が割れている。俺の側近だ」
「え!俺じゃないよ!?」
「知っている。身元は割れていると言っただろう。あの自称平民に親切にしているセイン、あいつだ」
宰相の子息の名前を出す。
「あぁ。ローザ嬢に歪んだ愛を抱いて……。そういやこの間、食事に誘ってたもんな」
「黙れ。聞きたくもない」
「あ、今日の放課後にも街中デートをするって言ってたような」
「何!?そんな事は許さない!用事を言いつけて阻止するぞ」
「俺、思ったんだけどさぁ。要はセインの奴はただ、ローゼリア嬢に惚れてるんじゃない?」
指を一つずつ折って、サイラスが話し出す。
「娼館落ちはそのまま奴の欲望で。修道院行きは、純粋な彼女に対しての憧れで。溺愛執着旦那になって彼女を快楽落ちにって事が本命の目的?」
「………斬りたい。気が晴れるまで斬り刻みたい」
「それ、俺のことじゃないよね?ね?怖いってばーー!」
大袈裟に距離を取る。ちっ!本当に斬るわけがないだろう。
多少、ストレス発散をしたかっただけだ。
勘のいいやつめ。
「でも大昔じゃないから、小説を書いたからって不敬罪で罪に問うのは不可能だからな?」
「ふん。裏からは手を回せるし問題はない。最初から隣国の王女に気付き近付いてもいるしな。とりあえずそこから尻尾を掴んでやる。」
「あぁ、なんで気づいたんだろうな」
外交官の叔父の筋が一番強いだろうが。
そこは本人に聞けばいいだろう。
しかし、散々ローザを妄想で快楽落ちにしてくれた奴だ。許さない。
「とりあえず、ご希望通り快楽落ちエンドにしてやろう。自分が落ちる方だが」
「ひえぇぇぇ」
――え、それって男?女?いや、やっぱり聞きたくない!色々と想像して、腕を擦るサイラス。
そんなサイラスは無視して、俺はローザの姿を探しに歩き出した。
――見つけた!まだ間に合う!
「ローザ!待ってくれ!」
漸く見つけた彼女はセインにエスコートされ馬車に乗り込む所で、正に間一髪だった。
「ルクス様?」
ローザが驚いた顔をしているが、声音を低くしてセインに問う。
「ローゼリアは俺の婚約者だが?男と二人きりで馬車に乗せ、出掛けるなど許すはずがないだろう?」
「申し訳ありませんでした。護衛も居ますし、悲しんでいる彼女の為になるなら、と。決して疚しい気持ちではありません」
「俺の前でペラペラとよく回る口だな。あぁ、筆もよく動くようだな?後でしっかりと事情を聞くとしよう」
――流石に顔色を変えたか。
後に控えていた護衛に、セインを連れて行かせ、ローザに向き合う。
未だに事態が把握できていないのだろう。仕方がない……仕方がないが。
「お前、浮気者だな。俺を捨ててセインに乗り換える気だったのか」
「な!そういうのじゃありませんわ。ただ、最近辛いことばかりでしたからセイン様が気遣ってくださっただけです!さっきのは一体どういう事ですの」
温室育ちで、男の欲望にも悪意にも鈍い彼女。
説明してもわかるまい。
ただ、早く彼女の誤解を解きたい。
彼女は、予定通りに俺の妻になるのだと教えたい。
そして。
綺麗な赤髪が風にそよぐ。
ああ、今回は本当に辛かった――。でも彼女が無事だ。それだけでいい。
◇◇◇
いつもの庭園だ。やはり私は彼と過ごすこの時間が好きなんだわ。
「ローザ。あの小説は、国家転覆が目的だと判明した」
「え!まさか小説で?恋愛小説でしたよ?」
「王子が馬鹿で盛大にやらかして幽閉されたり、継承権を剥奪の上、あらぬ所へ婿に出されていただろう」
「は!そういえば」
「それに、今回の騒動の中心のあの平民の生徒だが、隣国の王女だ。身分を隠している」
「なんて無謀な!国際問題になりかねません!」
「まぁ、普通はそうだな。周りの迷惑を考えない阿呆だ。隣国に、今回の婚約破棄騒動の顛末と一緒に苦情を入れ、送り返す事になった」
――そうだったの。あの小説にそんな裏があったとは。騎士団長のご子息の彼や……。
(はっ!最近求婚間近かと思ったサイラス様はどうなるの!?)
「あの、平民もとい、王女様に侍っていたメンバーは婚約解消してしまいましたが。元には戻りませんわよね…?」
「さぁ?それは当事者同士で決める事じゃないか?……それで、本当にお前が気になっている相手は誰だ?どうなったか教えてやるよ?」
「あぁ、その……最近交流があった宰相のご子息のセイン様がどうなったのか少し……」
「あぁ、あいつは真実の愛に目覚めたらしく、二十歳上のマダムと結婚したよ」
「!!まぁ、年の差ですのね!それに悩んでいたから、私に優しくして色々と口説く練習をなさっていたんだわ」
――危うく勘違いする所だったわ、恥ずかしい。
「で、お前と俺の約束があったろう」
「溺愛執着旦那からの快楽落ちエンドを手伝って下さると言ったこと?それは忘れて下さいませ……」
「俺自身でその全てを叶えてやるよ」
「……!ちょ、ちょっと!卑猥ですわ!それに淡白なルクス様には無理です!」
「試してみればいい。まずは溺愛からか……」
彼は身を乗り出して、私に口付けをした。
「な!なななな…」
「実はな、俺はずっとこうしたかったんだ」




