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偽物聖女と毒吐きの龍  作者: 綴藤風花
8章 すべてはこの手のひらにあった
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8-9 訪れた平和

 ルナスは――リュシオンは立ち上がる。そして、後方で事の成り行きを見守っていたルクスラに視線を送る。


「兄上、行きましょう」


 そう言ってリュシオンは扉の方へと歩き出した。ルクスラはそんな彼に視線を送り、ため息交じりに呟く。


「勝手に話を進められると、僕まで叱咤されるのだけど」

「なら、止めればよかったでしょう」

「あいにく、あの空間に割って入る勇気を僕は持ち合わせていなくてね」


 そうして、歩み始めた二頭の龍の背をサフィーは見送る。もう、彼に向かって手を伸ばそうとは思わなかった。もう、手を伸ばさなくても、大丈夫だと思った。

 窓から差し込む光に、ちかりと。何かが応えた。


「あ――」


 なんだ、なんだ――最初から、彼の答えなど見えていたではないか。

 彼の淡い薄紫の髪を零さないようにと、きつく結われた黒いサテン織のリボンには、水を蓄えた月。少し、端が欠けた、月。サフィーが、彼と生活を共にしている間、その月は毎日のように目にした。

 最初にあの髪飾りの存在に気づいていれば、きっとあんなに彼を困らせなかったのだろう。そう思ってしまうと、必死なっていた自分も彼も、なんだか滑稽だ。不思議とサフィーの口元からは笑みが零れた。


 悠々と歩む彼らと、彼らを見送ろうとする兵たちの背を見送ったサフィーは、ふと、自分の手の中に納まる箱を見る。

 サフィーはリボンに手をかけた。彼女が、リボンを解くことに躊躇する理由は、もうなかった。

 リボンをつまむ指に、わずかに力を籠める。


 しゅるり、と白いリボンは魔法のように解かれた。


 サフィーは、ゆっくりと箱の蓋に手をかけ、開いた。息が、止まる。

 そこにあったのは、青だった。青と語らわれる色を濃縮し蓄えたような、あまりにも鮮明の青だった。大きな石ではない。だが、その存在感は圧倒的ともいえた。その青は、まるで目を覚ましたばかりのようで、ゆらゆらと海面のように光を優しく反射していた。そして、複雑な色彩を持つ黄金の石を中央に嵌めた銀色の花が、その青を囲っている。


(きれいな、青――)


 持ち上げれば、それは後ろに金具がある。ブローチだと、サフィーはすぐに理解した。


「もう、もう――私は言ってくれないと分からないわよ」


 それか、彼がずっと言葉足らずなのかもしれない。サフィーはこみあげる感情を零さないように、その石を胸へと押し当てた。


(石の逸話などと馬鹿にしていたのに――)


 しかし、それら含めて彼らしい。そして、嫌だとも思えない。


「お嬢様」


 横にやってきたアリシアを見て、サフィーは自分の視界が再び滲んでいることに気が付いた。アリシアもそれに気づいたようでハンカチを取り出すと、サフィーの目元にあてがう。

 だが、先ほどとは打って変わってその目に籠った熱が心地いいとすら思う。

 サフィーは、小さく笑みを浮かべて、呟いた。


「大丈夫よ、私は――」

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