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偽物聖女と毒吐きの龍  作者: 綴藤風花
8章 すべてはこの手のひらにあった
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8-3 決着

 サフィーはリュシオンの手札を1枚。抜いた。そして、その抜いた札を見つめて、サフィーは目を細めた。手札をカードから2枚抜くと、それを捨て札として捨てる。


(本当に?)


 サフィーはぼんやりと思った。龍と人は何もかも違う。それは本当なのだろうか。であれば、ルナスと過ごしてきたすべてが張りぼてだということになる。だとすれば、妙な話だ。


 ルナスは善良とはあまりそぐわない龍だった。自由で、身勝手だった。サフィーを騙す目的があったとすれば、もっと善良であった方が信じ込ませやすかったと思う。現にサフィーはルナスがあの性格だったからこそ、ハーベリスに留まる目的を訝しんでいたのだから。ルナスもその点に関しては、疑われていたことは分かっていたはずだ。それでも、彼は善良になる選択肢を取らなかった。


 ああ、そうか。そうだったのだ。きっとルナスという龍は、リュシオンという龍は、狡猾な龍、凶悪な龍、そのものだった。だが、それでも決してすべてが狡猾で凶悪ではなかった。

 例えば、人を殺めたところでその人自身のすべてが悪になるかと聞かれればサフィーは難しいと思う。元よりすべてが善悪の2択に分かれるような世界であればきっと人間は争わないのだろう。


 それは龍も同じだ。きっとルナスは、無垢で、まっすぐで、故に悪なのだ。


 ぎゅっと胸が苦しくなった。ぎゅっとカードを持つ指に力が籠った。サフィーは、残ったたった1枚の手札を見つめ、やがてリュシオンに向き直った。


 ルシアンは息を呑んだ。ルクスラは頬杖をつき、その様をただ静観していた。

 サフィーは、手元の1枚。その1枚をルナスの方へと差し出す。

 勝敗は、決した。


 (そういえば、ルナスにゲームで勝ったの初めてね)


 ぼんやりと思う。ルナスは、ボードゲームの腕は徳逸していた。だから、サフィーはいつも手も足も出なかった。大なり小なり運が絡むこのゲームだからこそ、サフィーは勝てたのだろう。

 リュシオンは、サフィーの差し出したカードに手を伸ばし、それを手に取る。かと思えば、サフィーを見つめた。そして、少し、ほんの少し、目を見開いた。


「ねえ、ルナス――」


 気づいたのだろう。サフィーの澄んだ青い瞳から、今にも涙が零れそうなことに。その人差し指と親指に幾ばくかの力が入っていることに。カード越しに手が震えていることに。

 サフィーはそれらを誤魔化すかのように、震えた溜息を零し、笑みを浮かべる。


「楽しかった?」


 その言葉と同時に、サフィーは指を離した。これで、終わりだ。

 リュシオンはサフィーが手放したカードを見て、目を細めた。それと同時に、彼の口元がわずかに緩む。


「ええ、楽しかったですよ」


 そうして、カード2枚を捨てると、残った1枚を場に置いた。ルクスラは、それを見て「おや」と片眉を上げる。


「宮廷魔術師、じゃない?」


 ルシアンは目を丸めた。机の中央に置かれた、1枚のカード。それは7の数字のカードだった。

 すると、うつむいたサフィーが口を開く。


「最初、リュシオン殿下がカードを私に見せた時、宮廷魔術師のカードは1枚のみでした。普通であれば、宮廷魔術師を引いたほうが負けのルールに見えます。けれど、

 彼は『手札が先になくなった方の勝ち』とは言いましたが、残るカードを指定してはいませんでした。つまりは、宮廷魔術師を得ているプレイヤーが、最後の1枚を知ることのできるルールだったんです」


 リュシオンは、その言葉に静かに耳を傾けていた。そして、カードの7を指先でいじりながら口を開く。


「あの時、あの状況で、サフィーなら真っ先に私の相手に名乗り出ると見込んでいましたよ。私に、選択の余地があればサフィーを指名しましたよ。言ったでしょう。このゲームには運と頭脳が必要だと」


 そうして、冷め始めた紅茶に口を付けたリュシオンは、ぼそりと呟いた。


「まずい」


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