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偽物聖女と毒吐きの龍  作者: 綴藤風花
1章 偽物聖女、龍を拾う。
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1-6 龍人

(良かった。ゲイルは見つけてもらったのね)


 グレイモントの傍にやってきた赤髪の騎士と、黒馬を見てサフィーはほっと肩を撫でおろした。どうやら無事追いついた飼い主の元へ戻れたようだった。


(ゲイルを貸していただいたのに、放ったらかしにしたこと――今度、バルドリック様と会ったときにお詫びしなくてはいけないわね)


 グレイモントが迎えに来た馬車へと乗り込んだのを確認し、サフィーは後ろを振り返った。

 そして、改めて息をついた。どうやら、危機は脱したようだ。


 彼を抑えていた兵士たちは、状況がうまく呑み込めていないのだろう。うろたえているばかりだ。サフィーは彼らを一瞥すると、声をかけた。


「彼は、私が預かります。下がりなさい」


 その言葉に兵士たちは礼をすると逃げるようにして、グレイモントの馬車を追いかけていく。


(さて、と――)


 残っているのは、わずかにみじろぐ龍人だけ。サフィーは鬱陶しくなった髪を解き、龍人に歩み寄った。

 一歩一歩を、踏みしめる。

 人々の視線が刺さる。どよめきが聞こえる。ただ、躊躇はできなかった。


 サフィー自身、龍人と相まみえるのははじめてだった。ゆえに、恐怖が一切ないわけではない。だが、ここまで来た以上、逃げ遂せるという選択肢を取るわけにはいかなかった。

 サフィーは龍人を前で立ち止まり、しゃがみこむ。


 石畳の上に散らばった髪はやはり間近で見ても独特な色彩を持っており、花弁と見間違いそうになる。薄紫色の花弁のような色をしていた。ただ、ぞんざいな扱いを受けたせいか、それとも元からなのか、その髪はぼさぼさとしていた。


「ねえ、大丈夫?」


 サフィーが声をかけると、髪の隙間からあの金色が覗く。そして、サフィーは息を呑んだ。

 

 彼の金色は、金色と片付けるにはあまりにももったいない色だった。金色の中には、光の角度によって緑と青があちらこちらに泳ぎ回っている。それは例えば、月という器に、庭を収めたような、そんな金色だった。

 人には作り出せない、黄金。それだけではない。スッと縦に伸びた瞳孔も、人とは違う。


(でも、なぜかしら。この輝きに似た何かを、私は知っている気がする)


 サフィーがその不思議な瞳の虹彩に見惚れていると、それが不愉快だと言わんばかりに龍は目を細めた。口を開く気はないようで、むっつりと黙り込んだままである。


(こんなことされたのだから当然と言えば、当然かしら)


 元々、捕らわれた身だ。そのうえ、おそらくは兵士たちから乱雑な扱いを受けたのであろう。薄い麻の身衣から覗く肌には、少し青くなった痣や擦り傷がいくつか見て取れる。何が行われたのか、その場にいたサフィーには想像ができないものの、いい扱いを受けていなかったのは間違いない。

 つまるところ、この龍人は被害者だ。そのため、サフィーは努めて穏やかな声で語り掛けた。


「立って。迎えの馬車があるはずだから、そこまで行きましょう」


 ゆらゆらと彼の大きな尻尾が揺らぎ、もぞもぞと彼は体を動かす。喋りこそしないものの、サフィーの提案に応える意思があるのは明確だった。彼はゆっくりと立ち上がった。

 

 うずくまっていたため気づく余地もなかったが、この龍人は背丈がある。

 サフィーは背が小さい方だ。そのため、背丈の差には敏感だった。普通の男性でも見上げるのには苦労する。というのに、この龍人はさらに首を反らさなければならない。つまり、平均の男性よりも大きいということだ。

 それと同時に、自分はこの龍人の手綱を握っていることは本当にできるのだろうか、という不安感が今更ながら芽生えた。


 背丈に圧倒されたわけではない。決して。


 龍人が動いた。じゃらり。


(手枷――)


 そうだ。この龍人には、手枷がはめられていたのだ。それと同時に、サフィーは彼の手枷の鍵をグレイモントたちからもらい損ねたことに気付く。


 龍の腕につけられた手枷は、王族の使うものということがあって、ずっしりとした鉄製の手枷だった。これを長く放置しておけば、重みで痣ができてしまう。だからといって、今更宮殿へと向かったグレイモント一行を追いかけて、鍵を要求するというのは非現実的だ。グレイモントとの押し問答の際、そこまで機転が利かなかった己の未熟さをサフィーは恥じた。


(いっそのこと、この龍人が自分で破壊してくれればいいのだけど)


 大人しくしているということは、何か外せないわけがあるのかもしれない。


 とはいえ、こればかりは考えたところで解決する問題でもなかった。

 村に帰れば、鍛冶屋に赴けばこの鉄を切れる道具を貸してくれるかもしれない。悲観するにはまだ早すぎると、サフィーは龍人の手を取った。


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