表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽物聖女と毒吐きの龍  作者: 綴藤風花
6章 貴方のための月彩晶
49/68

6-9 祝い事


 ハーベリス王国軍がインダロス帝国軍を退けたことが知れ渡ると、王国内はそれはそれは大騒ぎとなった。無理もない、武力を持たないとされたハーベリス王国の民たちは敗北を覚悟していたのだ。脅威は一時的であるが、去った。例え、それが龍によってもたらされたものであっても、だ。

 

 これがきっかけとなり、「サフィーは本物の星聖女なのではないか」そういった噂は、疾風の如く広がっていた。噂が広まるのは早いということは、よく聞く。だが、サフィーはその言葉の意味を今回身をもって体感した。先にルシアン含めた軍隊が通ったのも要因の1つではあろうが、滞在する村々で「窮地だったハーベリス王国を救った星聖女」としてもてなされる。最初はありがたかったサフィーだが、3つめの村を過ぎたあたりから、予定が大幅に遅れていることに気がついた。


 とはいえ、人々の好意を無碍にするわけにもいかず、結果的にはどんどんと各村の滞在時間が長引き途中からサフィーたちは予定を間に合わせることを諦めた予定通りに王都に着くことを諦めた。そのため、仲間の1人に遅れる旨の伝達を頼み、サフィーたちは人々の好意1つ1つを受け取っていった。

 そうしていくうちにサフィーはあることに気が付いた。村々を渡り歩いていく中で、サフィーはルナスが村人から恐れられていないことに気が付いた。

 しかし、それもそのはずで、何せ彼は今回のインダロス帝国を退けさせる結果に至った決定打だった。おそらくは、サフィーの噂と共にルナスの話も町々を駆け巡っていったのであろうことは想像に難くなかった。

 とはいえ、ルナスは気が長い方では決してない。ましてや、サフィー以外の人間と慣れ親しんでいる様子は見たことがない。そのため、村人に絡まれると明らかな不機嫌を浮かべていた。その姿を見るたびに、ひえと体温が一気に下がったが、どうにかルナスは耐え抜いてくれた。

 それと同時に、やはりルナスという龍が人間に友好的ではないことをサフィーは改めて知った。バルドリックも苛立ちながらも、サフィーとルナスの祝い事には最後まで急かすことなく付き合ってくれた。彼の性格を顧みるに、予定より遅れているのは生真面目さが許さなかったが、かといって国民の好意を足蹴にできなかったのだろう。

 

 そうして、サフィーたちは予定よりも3日遅れて王都へとついた。

 

 王都は遠くから見て、最後に見た時と何も変わらなかった。当然と言えば当然だ。ただ、不思議と最後に見た時よりもずっと鮮やかに見える。陽光に照らされた色とりどりの家に、大きな庭を抱えた宮殿。不思議と、きらきらして鮮やかだ。そんな王都にたどり着く直前、サフィーは緑色の生地に王族の紋章が金刺繍された布をまとった白馬の上に案内された。凱旋式だ。

 バルドリックから事前に話は聞いていた。おそらく、国民から勝利を讃える式が催されると。


 それに対して、サフィーは思った――いやだ、と。ほめたたえられるようなことは何1つしていない。サフィーはその場にいただけだ。したとしたら、ルナスだ。

凱旋式

 しかし、現実は無情。サフィーの意思は一切関係ない。あれやこれやと、サフィーは白馬の上に乗せられ、金管楽器の音が高らかに鳴り響いた。もういっそのこと、振り落としてくれと白馬に願ったが、さすがにこういった式で用いられるであろう白馬なだけあって、威風堂々としておりおおらかだ。ゆったりとした歩調で、進みだす。白馬の脇にはルナス、そしてバルドリックが沿うように歩いた。ルナスは負傷していてもちろんのこと、バルドリックも長旅で疲れているだろうに顔色1つ変わらないことに、サフィーは尊敬した。


 王都の街路は、間近で見れば更に鮮やかだった。多くの人々が、一目その星聖女を目に焼き付けようと溢れている。色とりどりの家々には小さな旗が取り付けられたロープが建物と建物の間に飾られ、その建物の窓辺には大小様々な花が飾られていた。色彩豊かではあるものの、絵具をごちゃごちゃに混ぜたような散らかった印象を受けないのが不思議だ。


 また出店も多く並んでおり、多くは星聖女の事を綴った絵本であったり、歴代の星聖女の顔が掘られたカメオのアクセサリーだったり、とにかく星聖女を讃えるものが多く並んでいた。

 歴代の星聖女と同等な扱いを受けていることが、サフィーは不思議であったし、気分がいいとはお世辞にも言えなかった。だって、何もしていない。それでいて、人々に感謝される。

 それと同時に、ここで賞賛の声を上げる人々はルナスが処刑されかけていた時、ただ観ていただけであることを思い出す。ただ観て、彼の首を落とされることを望んだ。そんな彼らがルナスを讃えているのか。それに気づいてしまえば、気分は悪いものとなった。

 だが、そんなものだとも思った。人々がサフィーたちに向けて花びらを撒く。青ガラスのような空に、色彩が散っていく。鮮やかであるにもかかわらず、なぜか空虚だ。サフィーは白馬に揺られながら、その光景を静かに見つめていた。


 宮殿につき、休息をとる暇もなくサフィーたちはルシアン国王の元へと向かった。数日ぶりの顔合わせである。

 ルシアンの姿は王座の間にあった。王座の間はサフィーたち一行が入ってもたっぷりとした余裕のある空間をもち、天井から壁面に至るまで豪華な装飾が成されていた。壁画は勿論のことタペストリーからこの国の歴史や神話が見て取れる。外装と同様、内装も豪華絢爛だった。」。大きな鏡の前の王座、そこにルシアンはいた。傍にはグレイモントが控えている。

 サフィーたちは、王の前で頭を垂れた。しかし、間もなく、ルシアンは顔を上げるように告げた。


「ご苦労だった、皆の者。特に、星聖女サフィーリア、龍のルナス。君たちには礼を言っても足りないな」


 少しルシアンは苦笑した。その言葉に、サフィーとルナスは改めて深く頭を下げる。


「故に、褒美を与えよう。何がいい」

「恐れながら、陛下。もしお許しいただけるのであれば、マインヴィーニにわずかばかりの資金をお援けいただきたいです」


 サフィーは、悩む隙もなく答えた。それに、ルシアンは少し片眉を動かした。そして「君は――」そこまで言いかけたところで、黙り込む。


(何か、気分を損ねるような真似をしてしまったかしら)


 インダロス帝国を退けたとはいえ、勝利とは言い難いため経済の活性化はそこまでは見込めないであろう。厚かましいお願いだったかもしれないと、サフィーは思ったが、間もなくルシアンは穏やかに目を細めた。


「わかった。できる限り力を尽くそう」


 その言葉に、サフィーはほっと肩を撫でおろした。これで、少しの間は資金繰りに頭を抱えずに済みそうだと、目を伏せた。


「で、君はどうする。ルナス」


 ルシアンは、サフィーの隣にいるルナスへと目を向けた。彼は、考えるように口元に手を当てた。


 本当は、資金援助以上に望むことがあった。ルナスと一緒に生きるため、グレイモントの婚約者候補からは除名してほしいと。ただ、それはサフィーの立場で軽々しく言えるものではなかった。これらは、グレイモントの顔に泥を塗りたくる行為だ。

 なぜなら、たった1人の女さえ射止められない男、そういうレッテルをグレイモントに押し付けることとなるためだ。

 グレイモントに情があるわけではない。ただ、そんなことをできるほどサフィーは無情にはなれず、自分勝手にもなれないだけである。だから、せめてもの申し出が自分の持つ領土への資金援助であった。


「少し、考える時間をください」


 ルナスは、顔を上げるとそう答えた。ルナスらしいと言えば、ルナスらしい。それに、ルシアンは頷く。


「ああ、構わない。突然だと出るものも出ないか」


 そう言ってルシアンは目じりを下げた。そして、その他の兵たちを見回す。


「皆もご苦労であった。君たちの勇気と忠義を、誇りに思う。その功を讃え、わずかではあるが褒美を出そう」


 その言葉に、兵たちは歓声をあげた。

 かくして、ハーベリス王国の一難は去ったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ