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偽物聖女と毒吐きの龍  作者: 綴藤風花
5章 崩れゆく平和
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5-2 勝ち目

 そんな中ぼそりとグレイモントが呟いた。


「勝利に導けるとは到底思えないがな」

「グレイモント」

「父上、星聖女を選んでいるのはただの石だ。その石に選ばれた人間がいれば、勝利につながる? 迷信も甚だしい」

「やめなさい」

「状況が状況です。無駄死にさせるくらいであれば、無理強いする必要もありません」


 それに、ルシアン国王は口を結んだ。サフィーも内心グレイモントの言葉に不快感を覚えたが、彼の発言もあながち間違いではなかった。

 今度の戦は、敗北が確定しているようなものだ。その戦に臨むということは、自ら死を選ぶということにも等しい。それは、兵ももちろん、星聖女も同じことだ。女であるから見逃されるわけではない。ましてや今の星聖女は、偽物聖女とさえ噂されるサフィーだ。役目を果たせるとは、サフィー自身も到底思えない。


「サフィーリア嬢、君は、どうしたい」


 ルシアンの問いに、サフィーは言葉に詰まった。

 この国のために命を捧げることは、サフィーにとっては嫌なことではない。それでいて、自分が死ぬことで、大事な場所と人々を守れるというのなら、命を捧げることなど怖いものではないと思う。

 形あるものは、いつか消える。それが早いか遅いか、ただそれだけなのだとサフィーは思う。

 問題なのは敗北が目の前に見えているところだ。更に言えば、サフィーが死ぬということは星聖女の死、平和の死であり――それは敗北が見えているということだ。

 どれが自分にできる最善の選択か。サフィーはただ考えていた。

 だが、考えて、考えても。


(分からない)


 最善と呼べる回答は分からなかった。ここまでくると最善策などないのではないかと思えてくる。

 サフィーは、幾度も口を開いては閉じた。


 そうして、どのくらい時間が経ったのだろうか。

 「私には、分かりません」そう口にしてしまおうと思った。その時だ。


「――サフィー、行きなさい」


 突然降ってきた言葉にサフィーはぎょっとした。声のした方を見上げれば、静かな黄金がこちらを見つめている。

 そうして、彼は口を開いた。


「私も一緒に行きます」


 サフィーは目を見開く。


「だ、だめよ!」

「何故」


 サフィーが戸惑いながらも首をぶんぶんと横に振れば、ルナスは不思議そうに首を傾げた。


「だって、ルナスはここの国の民じゃないのよ。あなたがこの国のために命を危険に晒す必要なんてないわ」

「そうでしょうか。私は、今はここで生活しています。この国に住んでいます。生粋の民ではなくとも、それらを理由にするのはおかしいことでしょうか」

「そうだけれど、でも、でも」


 そこでサフィーは言いよどんだ。

 どこからどう切り取っても、ルナスはハーベリス王国に加勢すると言っているのだ。

 元来龍が圧倒的な力を持っている。その龍が一頭加わるだけで、おそらくだがハーベリス王国は勝てる。それほどまでに、龍は圧倒的であるのだ。ありがたい申し出、のはずであった。


 ただ、サフィーは口を閉ざしていた。彼女の表情は、悩乱そのもの。


 静寂。わずかにグレイモントに苛立ちが覗き、ルシアン国王はただ二人の様子を静かに見守っていた。

 首を縦に振れば、ハーベリス王国は有利になる。そう、首を縦に振るただそれだけで。それは、明らかなことだった。

 しかし、サフィーはその首を振る、ただそれだけの行為ができないでいた。

 サフィーは幾度か口を開き、閉じる。そして、震えた声で呟いた。


「それは――ルナスを兵器として扱うも同然じゃない」


 その言葉に、ルナスの縦の瞳孔が少し開いた。

 ルナスを戦場に駆り出すということは、人を殺すことを許容するという意味だ。人を殺すことを命じるということだ。その根本を考えると、安易に頼めるようなものではない。

 人の命を奪うということは、その人だけではない。その人を大切に想っていた誰かの人生を壊すことだ。幸福を奪うことだ。その残された人々は理由が何であれ、きっと殺した誰かを憎むのだろう。その怨嗟を、憎悪を、すべてルナスに向けさせるというのか。


 確かに、ルナスは今この国に住んでいるものの、元来はこの国の住民ではない。それに、彼がここで暮らしたのはほんの数か月程度の期間だ。自国のためと言わせるのなら、サフィーも諦める他ないような気がした。ただ、ルナスにとって、ハーベリスは生まれ育った国ではない。そのハーベリス王国のために人を殺す兵器になってくれというのは、あんまりにも無責任な気がした。


 すると、ルナスは静かな声でサフィーに尋ねた。


「でしたら、あなたはそれ以外の案を思いつくのですか?」

「それは――」


 サフィーは、口を閉ざした。

 ルナスが協力する。それ以上の最善案など、おそらく奇跡でも起きない限りはない。例えば、インダロス帝国の土壌が急に豊かになりハーベリスを攻める理由をなくすだとか、ハーベリスの国の科学者が誰も殺さないとても強い武器を思いつくだとか。それ程の奇跡が起きない限りないと言えた。

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