3-6 掛け金
証明――その言葉にサフィーは息を呑み、隣に立つバルドリックは眉間に皺を寄せた。
ルナスは、何を言っているのだろうか。証明など、できるはずがない。
「噂で耳にしただけですが、星の石が歴代の星聖女を選ぶ時とは異なる発光の仕方をしたようですね。そのため、『彼女が偽物の星聖女ではないか』と懐疑的になっている者も多いとか」
「ああ、そうだな」
星の石が光った。それが何よりも星聖女の証明のはずだった。だが、それを懐疑的に思われている今、星聖女であることを証明する方法などは他にはないはずだ。
「つまり、お前がそこにいるサフィーリア嬢を、星の石とは違う別の方法で星聖女であることを証明する。そういうことだな」
「はい。その通りです。悪い話でもないでしょう。私の証明が失敗すれば、この国で崇め祀られてきた星の石の力がただの偶然で成されていたものとなる。つまり、あなたの主張が正しいことを必然的に証明するでしょう」
あまりにも、リスクの方が大きすぎると、サフィーは狼狽える。いくらなんでも好き放題をし過ぎている。止めなくては、止めなくてはいけない。サフィーが口を開きかけた――その時だった。
「なので、もし私が証明に成功した暁には、彼女を私にください。サフィーリア・クリスタスを、私に」
――ん?
サフィーは、口を閉ざした。「ください」の意味が一瞬分からなくなり、反芻する。だが、反芻しても、混乱は増していくばかりだ。
ルナスの言葉にグレイモントはわずかに眉間にしわを寄せたものの、一瞬のことで彼はすぐにその表情をかき消した。それを見たルナスは穏やかに続ける。
「つまらないでしょう、報酬のない賭け事なんて」
サフィーは唖然とした。要するに掛け金にサフィーを要求してるのだ。
その様子を見たグレイモントは、静かにうなずいた。
「確かに。であれば、そうだな――もし俺が賭けに勝った暁には、お前がこの国に奉仕しろ」
「もちろん。皆様のどんな趣味にもお付き合いしますよ。鞭打ちでも、折檻でも、なんだって」
黄金は、上限に歪んだ。
しかし、そこでようやくサフィーは我に返った。呆然とこのやり取りを見ている場合ではない。慌ててサフィーはルナスの前に出る。
「ちょ、ちょっと待って、本気で言っているの?」
冷静に考えても、無茶が過ぎる話だ。星の石以外で星聖女と証明する方法など、あるはずがない。
「これを冗談とのたまうほど、私が能無しに見えますか」
わずかにルナスの瞳孔が開いた。それに、サフィーはぎゅっと口を結ぶ。ぎゅっと喉の奥が詰まるような感覚を覚えた。
どうやら、サフィーに異論の余地も、選択肢もないらしい。
今、ここにいるのは、本当にルナスなのだろうか。サフィーと共にヴィーン村で過ごした物言いがあれでも穏やかだったルナスと、目の前のルナスはどうも違うような気がする。
それこそ、今のルナスは紛れもない、龍――そんな風にサフィーには見えた。
狼狽えるサフィーを尻目に、グレイモントは頷く。
「いいだろう。その賭け、引き受けた。」
「ご快諾いただき、感謝します」
ルナスはそう言って頭を下げた。そして、わずかに口元から白い歯が覗く。
「安心してください。龍は誓いも、約束も、破らない生き物ですから」
その言葉に、グレイモントは目を細めた。
何に安心できるというのだ。サフィーは、頭を抱えずにはいられなかった。
サフィーの意思など一切無視して、話が進んだのだ。それだけならまだせめても良かったかもしれない。問題なのは、掛け金にされたことだ。
しかし、今更喚くわけにもいかない。喚いたところで状況は変わらない。そのため、サフィーは呆然と二人の様子を見つめていた。否、見つめることしかできなかった。




