第12話 転移と魔力過多症
お、遅くなりましたぁ……
い、いやでも、前よりは早い……ハズ。
堕天使と高位魔族の子供。
堕天使と言っても堕ちた悪い天使と言うことではなく、魔族になったため、魔族の堕天使という種族になっただけである。
魔族になっても毛色が変わるわけではないので、母親の白い髪と父親である高位魔族の赤い瞳が受け継がれた。
まだ私の存在が分かりにくかった頃、外で転移魔法の練習をしていたら刺客がやってきて、殺されかけたんだそうだ。その時誤って自分の体に転移魔法をかけてしまって、お腹の中にいる赤ちゃんだけが転移してしまった。
そして転移した先は私の両親だった——と。
なるほど……つまり私はあっちとこっちの世界を行き来した、ということになるのね。
「体が小さいのはそう理由もあるやもしれんな」
と難しそうな顔をしながら言ったのはお父様。
「負担がかかりすぎて、という意味ですか?」
「ああ。そういうことであっている」
「魔力が体の中に圧縮されて入っているのも原因ね」
こう、ぎゅっと……!と手でぎゅっと感を表現するお母様。
可愛い。
「魔力、ですか?」
「ええ。あなたが住んでいた世界に魔力というものはなかったのよね?」
「あ、はい、そうですね」
「こちらの世界では誰しもが魔力を持っているものなのよ。貴方からも、少し滲み出ているわね。流石に負担が大きいんでしょう」
「つまり……魔力過多症と症状が似ている?」
と、サラサラの金髪を長い耳にかけながら知らない病気の名前を口にしたのはフィーデさん。
「魔力……過多、症ですか……?」
なにそれ、魔力が多すぎるってこと?
「魔力過多症というのは所謂、魔力が溜まる器から溢れ出てしまっていることを指すんだ。例えば……魔王様、このコップ借りるね?」
「ああ」
「こんなふうに——」
フィーデさんの指先から水が出てくる。
(すごい。これが魔法——!)
「この水を魔力だと仮定するよ? これが普通の人間の場合」
コップの真ん中より少し下あたりで水が止まる。
「それで、これが魔族」
水が足されて、満タンになる一歩手前で水が止まった。
「え?こんなに多いんですか?」
「まぁ、魔族と人間では器の大きさ自体が違うからね。比率的にはほぼ一緒なんだけれど。で、これが魔力過多症の人——」
ビキ、とガラスのコップにヒビが入る。
中では水がぐるぐる渦巻いていて、いまにも溢れ出そうだ。
「魔力過多症の人の厄介なところは、これ以上器が大きくならないように——ええと、魔力過多症の人って、大体、体が成長するにつれて器もおおきくなるし、その分魔力量が増えるから抑えるのに余計な体力や精神力が持って行かれてしまうんだ。だから体が無意識に大きくならないように制限を掛けてしまうんだけど……」
「貴方の場合は器が小さい頃のままなのよ。大体、成長につれ過多症ではない人も少なからず大きくなるのだけど……」
「なるほど、つまり私はあちらの世界で何かしら器に制限か何かがかかっていて、魔力が溢れ出そうだけど、過多症のように器が制限をかけている状態だと体が錯覚して、体が無意識に成長しないよにしていた、ということですか?」
「そういうこと。頭いいですね。理解力が高い」
「あ、えっと……」
「大丈夫だ、ユキ。ここにはあんな奴らいないから。頭がいいというのは誇って良いことだ。堂々としていて良いんだよ」
「っはい。ありがとうございます」
「……続けて良いかい?」
「あ、はい!」
「つまり、君の場合は原因と結果が逆転してしまっているんだろうね。コカトリスが卵を産むのが先か、卵がコカトリスになるのが先か……みたいなね」
それってもしかして『鶏が先か卵が先か』みたいなやつ?
「でもでもー。こっちの世界じゃ制限なんてないはずだよねー?」
ヴァイロンさんが、あれー?と小首をかしげ、そう疑問を口にする。
「多分ね。もしかしたら明日くらいに体が成長して大きくなるかも知れないし、じわじわ時間をかけて大きくなるのかも知れないね?」
「でも、成長しない可能性も十分にある……?」
「んー、否定はしないけど、ほぼ無いんじゃないかな。さっきから本当に少しずつだけど魔力が滲んできているし」
「え、本当ですか!?」
「ええ。今日明日は注意したほうがいいかも知れないね。体調崩す可能性が高い」
「あー、確かにー」
「公爵、今日は」
「泊まらせてもらいます」
「分かった、手配しておこう」
「助かります」




