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第61話:ネイリスト、町を作る!

 翌日、アリス達は新たなる目標を胸に、それぞれの仕事へと取り掛かっていた。エレオノール達が残していったスパイスやアクセサリーを整理していると、遠くから微かな足音が聞こえた。それは次第に大きくなり、何かがこちらに急いで向かってくることを告げていた。


アリスがその音に気づいて顔を上げた瞬間、森の中から一人の少女が飛び出してきた。少女は顔を蒼白にし、息を切らしていた。目は恐怖で大きく見開かれ、体は震えている。何度も後ろを振り返りながら、彼女は全力でアリスの元へと向かっていた。


「アリス様、助けてください!」


少女の声は切迫感に満ちており、彼女の全身から恐怖がにじみ出ていた。アリスは瞬時に動き、その少女を抱きしめるように受け止めた。少女の小さな体は冷え切っており、震えがアリスにまで伝わってくる。彼女はまるで何かから逃げてきたかのようだった。


「どうしたの?何があったの?」

アリスは優しく問いかけ、少女の髪を撫でながら彼女を落ち着かせようとした。


少女は涙で潤んだ目をアリスに向け、息を整えながら話し始めた。

「私はリリーです。町の孤児院から逃げてきたんです……エリシア様が、私たちを聖女誕生の儀式に使おうとしているの……!」


アリスはリリーの言葉に驚愕し、一瞬言葉を失った。彼女の胸には、無力感と共に激しい怒りが込み上げてきた。過去に守れなかった人々の顔が頭をよぎり、胸が締め付けられるように感じたが、それでも今回は逃げないと心に決めた。守りたいという強い気持ちと、今すぐ行動できない現実との間で、アリスは心の中で激しい葛藤を感じた。


『私に、本当に彼女たちを守る力があるのか……』

そんな迷いが一瞬心をよぎるが、アリスはその考えを振り払い、リリーをしっかりと抱きしめ直した。


「リリー、大丈夫だよ。私たちが必ず守るから。私たちは教団が行なっている儀式について知っている。それを止めたくて今、必死に動いているの。」


アリスの言葉は、リリーの心に少しずつ安心感を与えた。しかし、少女の目にはまだ涙が溢れていた。

「本当?私たちを助けてくれる……?ミゲルや……ミリアも……」


リリーの目に浮かぶ涙は、彼女が孤児院に置いてきた友人たちへの思いを物語っていた。アリスはリリーの頭を優しく撫で、彼女に向かって微笑んだ。

「大丈夫、約束するよ。絶対に助けてあげる。ミゲルもミリアも、孤児院の皆もね。」


その言葉にリリーは大声で泣き出した。アリスは、今すぐにでも動きたい気持ちを抑えながら、リリーの小さな体をしっかりと抱きしめ続けた。自分の無力さに歯がゆさを感じながらも、アリスは決意を新たにした。彼女には守るべきものがある、だからこそ自分が立ち上がらなければならない。


「ハッター、リリーに食事を与えてあげて。それからゆっくり休ませてあげてほしいの。」

アリスはハッターに振り向き、指示を与えた。


「かしこまりました。我が君。」

ハッターはリリーに優しく語りかけた。

「お嬢さん、私はゴーストですが、アリス様の忠実なしもべです。どうぞ怖がらないで。」


リリーは不安げな顔でアリスを見上げたが、アリスが深く頷いて安心させると、彼女はハッターの手をしっかりと握り、教会の中へと入っていった。



 その日の夜、キャットが最初の追放者たちを連れて帰ってきた。彼らは痩せこけ、目には深い疲労の色が浮かんでいた。服はぼろぼろで、足元は泥だらけだ。彼らが受けてきた酷い扱いが、その姿から痛々しく伝わってきた。


教会の扉を開け、アリスが迎えると、彼らは怯えた表情をしながらも、次第にアリスの温かい笑顔に安心感を抱き始めた。アリスは彼らに向かって優しく語りかけた。


「皆さん、ここはあなたたちの新しい家です。食事もあります。どうぞ安心して過ごしてください。」


追放者たちは、アリスの言葉に感極まり、涙を流した。

「黒い女神様……なんと慈悲深い……」

「私たちのような異端者にまでお慈悲を与えてくれるなんて……」


アリスの言葉と行動は、彼らにとっては救いであり、光だった。彼らはアリスに深く頭を下げ、心からの感謝を示した。リリーも食事を済ませると、他の追放者たちと身を寄せ合い、教会の広間で静かに眠りについた。


アリスは全員の様子を見渡し、彼らがようやく安心して眠りについていることに、少し安堵を感じた。


「結界も張ってあるし、外はアンデットたちが守ってくれているから、私たちも休もうか。」

アリスは仲間達に優しく声をかけると自分達もそれぞれが休む準備を始めた。


そんな中マーチが名乗りをあげ、申し出た。

「アリス様、僕だけが部屋を持っているのはおかしいと思うので、よかったら僕の部屋をアリス様の部屋として使っていただけませんか?」


アリスは一瞬戸惑ったが、すぐに首を横に振った。

「でもあれは元々先に住んでいたあなたの部屋だもの。私は広間で寝るから大丈夫だよ。」


「でも……」

マーチが何か言いかけた時、ハッターが先に口を開いた。

「アリス様、従者であるマーチが部屋を持ち、主人であるアリス様が広間で寝るなど、これは主従関係にある我らとしては見過ごせません。マーチの申し出を快く受け、彼の部屋で休まれることをご提案いたします。」


「でも……マーチはどこで寝るの?」

アリスが心配そうに尋ねると、マーチが答えた。

「僕はそれこそ広間で……」


「ダメだよ、あれはマーチが作った部屋なのに……。」

アリスは一瞬考え、そして決心した。

「それならマーチ、もう一つベッドを作って、その部屋で一緒に寝て?それなら私、マーチの部屋を使わせてもらうよ。」


「ぼ、僕が一緒に……?」

マーチが驚きながらも、少し緊張した様子で聞き返す。


アリスは微笑みながら頷いた。

「うん、護衛も兼ねて、ね?」


ハッターは少し渋い顔をしたが、アリスの意見に賛同した。

「まあ、護衛という名目ならば……しかし、我が君と同じ部屋で寝るなど……」

彼は内心で微かな嫉妬を感じながらも、それを隠し、冷静さを保とうと努めた。


その夜、マーチとアリスは新しいベッドを教会の長椅子で作り、布団を敷いて簡易的な寝床を整えた。アリスはその作り立てのベッドに寝ようとしたが、マーチに止められた。


「あ、あの……僕のはちゃんとしたベッドだから、アリス様はそっちを使って。」

マーチが申し訳なさそうに言った。


「え?でもこの布団、私も使っていたやつだし……」

アリスは困惑しながら答えるが、マーチが力を込めて言った。

「このベッドじゃ体を痛めるよ。僕のベッドも清潔とはいえないけど……アリス様が嫌じゃなかったら、ぜひ。」


「うん、わかった。」

アリスはマーチの申し出を受け、彼のベッドにそっと横たわった。ステンドグラスのサンキャッチャーが月明かりに照らされ、キラキラと輝き、美しい光の模様を作り出していた。


アリスはその光景を見ながら、少しだけ安心感を覚えた。

「ふふ、このベッド、マーチの匂いがするね。」


「ああ!ごめん!臭かったかな……」

マーチが慌てて謝るが、アリスは微笑みながら首を振った。

「ううん、そんなことないよ。安心する。ごめんね、ベッドまでもらっちゃって。」


「そ、そんなこと気にしないで……おやすみ、アリス様。」


「うん、おやすみマーチ。」

アリスはマーチのベッドに横たわりながら、彼女の心の中に微かな安心感が広がるのを感じた。一方で、マーチもアリスが使っていた布団に包まれ、彼女の温もりと香りに包まれて、初めて感じる安堵感に心が満たされていった。


その夜、二人は互いに安らぎを感じながら、人生で最も深く、優しい眠りに落ちていった。



 数日が過ぎ、教会には多くの追放者や異種族が集まり、賑やかになってきた。教会の広間では、新たに迎え入れられた人々が疲れを癒し、互いに助け合いながら新しい生活を始めていた。アリスと仲間たちは、彼らが安心して暮らせるよう、村を作り上げるための準備を進めていた。


エースは毎朝早く起き、畑の管理に励んでいた。彼は、かつて自分の力が制御できず、破壊をもたらした過去を思い出しながら、今ではその力を建設的なことに使えることに感謝していた。大地を耕し、種を植えるたびに、自分が生きる意味を見出しているようだった。


「今度こそ、俺は人々のために役立つんだ……」


エースはそう自分に言い聞かせながら、汗を流していた。畑に植えられた作物が少しずつ芽を出し、成長していく様子を見ると、心に静かな達成感が広がっていった。彼の中には、かつての破壊者ではなく、今は守護者としての役割が定着しつつあった。



マーチは狩猟で食糧を確保していた。一方、マーチは狩猟で食糧を確保する役割を担っていた。彼は教会を出て森の中を進みながら、動物たちの気配に敏感に反応していた。かつては臆病だったマーチだが、今では仲間たちのために自分ができることに集中することで、自信をつけていた。彼は森の中を慎重に進みながら、動物たちの気配に注意を払っていた。


その時、クックバードの群れを発見したマーチは、目を輝かせた。

「これは良い機会だ……。」

彼は息を潜め、罠を慎重に仕掛け始めた。手元が震えることなく、確実に罠を設置していく。マーチは自分に言い聞かせるように『これを成功させて、皆の食糧を確保しなければ』と心を落ち着けた。


数分後、彼の仕掛けた罠にクックバードの群れがかかり、彼は歓声を上げそうになるのを堪えながら、鳥たちを教会に持ち帰った。


「アリス……アリス様、見て!こんなに大量のクックバードの群れを捕まえることができたんだ。彼らを育てよう。卵を産んでくれるし、食糧の確保にもなるよ。」

マーチは興奮した声で言った。


アリスはその成果に目を輝かせた。

「すごいね、マーチ!これで食糧の問題も少しずつ解決できるね!あと……呼びにくかったらいつも通りアリスでいいよ。今更様付けで呼ばれる方がなんだかこそばゆいから。」


「で、でも……ハッターさんが……」

マーチは少し躊躇いながら言った。


「大丈夫、私がハッターに命令しておくから。名前は好きに呼ばせる様に!ってね?」

アリスは明るく微笑み、マーチを安心させた。


「う、うん。ありがとう、アリス。」

マーチは照れくさそうに微笑んだ。


キャットは、追放者たちや異種族の人々を集めてくる仕事を着実にこなしていった。彼は教会を拠点に、周辺の森や山を巡り、避難場所を求めてさまよっている人々を見つけ出しては、教会へと導いていた。キャットが叩く軽口が緊張感を和らげ、彼はムードメーカーとしても一役買っていた。


教会に戻るたび、彼が連れてきた人々は疲れ切っていたが、キャットの存在が彼らにとっての希望となっていた。彼が教会の扉を開けると、そこには温かい食事と安らぎが待っていた。


「ここが新しい家だよ。もう怖がらなくていい。」

キャットのその言葉に、多くの人々が涙を流し、感謝の気持ちを示した。



 教会の前には新たに鶏小屋ができ、少しずつ村の形が見えてきた。アリスはその様子を見て微笑みながら、集まった皆に声をかけた。

「私たちは少しずつ成長している。この調子で皆で力を合わせて頑張りましょう!」


その言葉に、移住してきた住民やアンデットたちは大きな歓声を上げて同意した。しかし、その賑わいが増すにつれて、教会内が住人で溢れ始め、次第に住居の不足が深刻になっていった。狭い教会内で互いに肩を寄せ合う住民たちの姿に、アリスは胸を痛めた。


「このままでは住む場所が足りなくなるね……。何か良い方法はないかな。」

アリスは悩みながら、仲間たちに問いかけた。


エースが考え込みながら、悔しそうに言った。

「家を建てるしかない。でも、俺たちにはそんな技術はないし……」


マーチも不安げな声で同意した。

「そうだな。僕も狩りや農作業はできるけど、家を建てるとなると話が違う……技術が必要だ。それに道具や、材料の選別なんかも……僕たちじゃちょっと力不足かもしれない。」

彼の表情には焦りと不安が浮かんでいた。


その時、ハッターが静かに口を開いた。

「隣国のストーンハイムには優れた建築技術を持つドワーフたちがいると聞きます。彼らの技術力を借りることができれば、住居問題も解決するかもしれません。」


その言葉に一瞬、希望の光が差し込んだ。アリスはその提案に目を輝かせた。

「それは素晴らしい案だね!でも、どうやって彼らに協力をお願いするの?」


ハッターは説明を続けた。

「キャット殿の話によりますとストーンハイムのドワーフたちは今、ハーランド王国の奴隷となっております。交渉次第では何人かのドワーフを解放し、こちらに来てもらうことができるかもしれません。」


アリスはハッターの説明に胸が痛くなるのを感じた。

「ハーランド王国の奴隷……じゃあドワーフ達はハーランド国の所有物となっているってこと?」


「その通りでございます。」

ハッターは冷静に告げた。


エースは頷きながら言った。

「俺たちがストーンハイムに行って、直接交渉してみるしかないな。アリス、どうする?」


アリスは決意を新たにし、仲間たちに向き直った。

「うん、私たちでストーンハイムに行って、ドワーフたちを助けよう。そして、ここに新しい住居を建てるために力を借りよう。」


マーチが手を挙げ、力強く言った。

「僕も行くよ。狩りの技術や知識が役立つかもしれないから。」


エースも拳を握りしめながら言った。

「俺も当然行くさ。建設に必要な材料も集めることになると思うしよ。」


ハッターは微笑みながら言った。

「もちろん私も同行します。我が君をお守りするために。」


しかし、アリスはふと立ち止まり、考え込むように腕を組んだ。

「でも奴隷の解放となると、それなりの交渉材料が必要になるよね……奴隷と同じ対価のもの……またはそれ以上の価値のものを提供できないと、奴隷を明け渡してはくれないよね。」


全員が頭を悩ませたその時、マーチが閃いたように呟いた。

「あ、あの……地下にある魔力の泉を使って、何か特別なアイテムを作ることはできないかな?」


「特別なアイテム?」

アリスが首をかしげる。


「ほらアリスさ……アリスは特別な魔法のネイルを生成できるよね?何か力のある素材を利用すれば特別なネイルが作れると思うんだ。それを交渉材料にするのはどうかな……って。」


その言葉にアリスもハッターも、ぱあっと顔を明るくした。

「確かに!私の作る魔法のネイルならドワーフ達の力を底上げして作業効率を飛躍的にあげることも可能かもしれないし、泉のあれだけ膨大な魔力を使えば、新しく強力なネイルが作れるかも。それに、おそらくネイルの魔法は私にしか作れないから、きっと希少価値は高いはず!」


ハッターも感心したように言った。

「マーチ、実に素晴らしい提案です。アリス様の作るネイルには特別な力があります。それは他国でも生産することのできない代物……ともなれば、伝説級のアイテムを提供することができるでしょう。」


マーチは少し照れながらも、頷いた。

「う、うん!アリスに負担はかかってしまうけど、このネイルアイテムなら交渉は有利に運べると思うんだ。」


エースも声を上げた。

「ナイスアイディアだぜ、マーチ!よし、早速ネイルの生成に取り掛かろう!!」


全員の意見がまとまり、ドワーフの奴隷解放の交渉材料として、アリスは特別なネイルの生成に取り掛かることになった。

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