第60話:新たなる誓い
アリスたちはサンクトリアの町から逃亡し、森の中にキャラバンを止め、疲れた体を休めていた。アリスはサンクトリアでの出来事を思い返し、心が重く沈んでいた。町の人々が自分たちを受け入れないこと、そしてエリシアの陰謀を知った今、何をすべきか考えがまとまらないでいた。
その時、エレオノールが静かに立ち上がり、アリスに近づいてきた。彼女の目には深い苦悩が宿っており、その顔には決断の色が見え隠れしていた。
「アリス……」
エレオノールは、優しくアリスの手を取ると、その手のぬくもりを感じるように一瞬目を閉じた。そして、ゆっくりと口を開いた。
「ごめんなさい、アリス。私たちはもうこれ以上ここに留まることができない。」
アリスは驚き、エレオノールの顔を見つめた。彼女の言葉には何か深い決意が込められているのを感じた。
「でも、どうして……エレオノールさん? 町の人たちに分かってもらうんじゃなかったの?」
エレオノールはその問いに、目を伏せたまま答えた。
「分かってる、アリス。あなたが正しいことをしようとしているのは。でも……私たちバリカントスは、ただ安住の地を求めていただけなの。私たちは戦士じゃない、ただ自分たちが生き延びるための場所が欲しいだけ。それに……」
エレオノールは少し声を震わせながら続けた。
「私には、仲間の。皆の命がかかっているの。もし教団に睨まれたら、私たちは生き延びることができない。あなたを見捨てるようなことをして、本当に申し訳ないと思っている。でも、私には彼らを守る責任があるの……本当にごめんなさい。」
エレオノールの声には、彼女の中で渦巻く葛藤と、仲間たちを守りたいという強い思いが込められていた。アリスはその言葉に、エレオノールの決断の重さを感じ、理解した。
「エレオノールさん……」
アリスは何度も言葉を探したが、最終的にただ彼女の手を強く握り返した。
「ここまで一緒にいてくれてありがとうございます。エレオノールさんたちの決断を尊重します。どうか、無事でいてください。」
エレオノールは涙を堪えながら微笑み、アリスの手を離した。
「アリス、あなたも気をつけてね。私たちがいなくてもきっと大丈夫よ、あなたは強い人だから。いつか、また会える日を信じているわ。」
そして、彼女は静かに仲間たちの元へ戻り、荷造りを始めた。彼女の決断は、誰よりも辛く、しかし彼女にしかできないものであった。
その時、キャラバンの外で物音がした。カイルが警戒しながら外を覗くと、一人の青年がシチューの大鍋に手を伸ばしていた。
「おい、何してるんだ!」
カイルが声をかけると、青年は驚いて振り返った。
「ちょっと待ってくれよ、俺は腹が減ってるだけなんだよ。」
青年は手を挙げて言い訳をしながら、にこりと笑った。
「誰だ?」
オーリンが弓を構え、緊張感を漂わせる。
「俺だ、キャットだ。町でちょっと厄介ごとに巻き込まれて逃げてきたんだよ。」
キャットはキャラバンに飛び乗り、空いた席に座り込んだ。
「なぁそのシチュー、もらってもいいか?腹ペコなんだ。」
アリスは彼の状況を察し、優しくシチューを彼の器に盛り付けた。
「どうぞ、食べて。なんだか疲れてるみたいだね?大丈夫?」
キャットは満足そうに笑い、シチューを一口食べた。
「ありがとう、助かるよ。……んん、美味い!」
キャットはシチューの味に舌鼓を打ちながら何があったのかを話し始めた。
「俺はこの町の周辺でずっとその日暮らしをしてるんだけど、この生活にももう限界でさ……種族間の差別は広がる一方だし、とうとう俺たち亜人族にも食糧を与えることは大罪だとあのババアは抜かしやがった。おかげで食うものも手に入れられない。町にも入れない……悪魔だよ、あのエリシアって女は。」
キャットは町での愚行に不満と怒りを露わにしながらもシチューをがつがつと口にした。アリス達も残ってしまった大量のシチューを仲間で分け合いながら食べることにした。
「それで、巻き込まれた厄介ごととはなんですか?」
ハッターが鋭い質問を投げかける。
キャットはシチューを飲み干し、深いため息をついた。
「実は俺、エリシアの計画を知ってしまったんだ。奴らは町の孤児院で子供たちを使って聖女誕生の儀式を行おうとしている。その儀式には、生贄が必要で……そのために町の人々を利用しようとしているんだ。すでにもう五人殺されている。」
その事実にアリスは驚きと怒りで目を見開いた。
「聖女の儀式……確か本によれば肉体的苦痛と精神的苦痛を苗床に聖女に相応しい肉体を育てるとかあったね……そんなことが……あの惨劇をまた教団は繰り返そうとしているんだ……。それは確かな情報なの?」
キャットはうなずき、顔を曇らせた。
「俺は情報屋だ、嘘は売らない。エリシアは一人の少女の肉体を媒介とし特別な聖女として新たなる神を生み出すつもりだ。わざわざ王都からこんな辺境の町にやってきたのはここなら人が何人死のうが気付かれないからさ。俺はその計画を知ってしまったから、町から逃げ出したんだ。」
アリスたちはキャラバンの中でエリシアの計画を知って重い空気の中、口を閉ざしていた。
キャラバンは教会に戻ってくると、バリカントスの一行はそのまま走り出し、教会の前には静寂が広がった。アリスは、一行が去った後もその場に立ち尽くし、夜風が彼女の髪を静かに揺らしていた。エレオノールの言葉が頭の中を何度も巡り、彼女の胸に重くのしかかる。
「私には何ができるんだろう……」
アリスは小さく呟いた。
エリシアとの対峙で感じた無力感が鮮明に蘇る。あの時、彼女は何もできなかった。ただ、エリシアの圧倒的な力に対して恐怖し、仲間たちを守るどころか、自分が足手まといになるのではないかと感じていた。サンクトリアの人々に拒絶された時のあの冷たい視線も、心に深く刻まれている。
「結局、私はただの重荷なのかもしれない……」
エレオノールが去り際に告げた言葉、『あなたは強い人だから、きっと大丈夫』という信頼の言葉が、彼女の中で次第に別の形を取り始めた。エレオノールは、あの状況でもアリスに対して信頼を寄せてくれた。だが、その信頼に応えることができるのだろうかという不安が彼女を苛む。
「私もただ、生き延びることだけを考えるべきなのかもしれない……」
その思いが一瞬心をよぎるが、すぐにその考えを振り払う。自分が何もせず、ただ逃げ続けることが正しいのか、胸の内で葛藤が渦巻く。
「でも、私には何ができるの……」
アリスは自分の手を見つめた。その手は、小刻みに震えている。しかし、その手の中には確かに力が宿っている。彼女はそれを感じていた。仲間たちを守りたいという強い思いが、彼女の中で静かに燃えていた。
「私は、ただ逃げるわけにはいかない……」
アリスは深呼吸をし、胸の中にある迷いや不安を整理し始めた。エレオノールが仲間たちの命を守るために下した決断。それと同じように、アリスも誰かを守るために戦うべきだと感じ始めた。彼女が行動しなければ、この地に残された人々はどうなるのだろうか。
アリスは、エレオノールの言葉が心の中で徐々に確かな決意へと変わっていくのを感じながら、静かに立ち上がった。
少し離れた所で考え込むアリスの姿を見て、キャットが頬杖をつきながら呟いた。「アリスって真面目だねぇ。そんなに悩まなくたっていいのに。たしかにあのババアのやり方は気に食わないし、気に入らない奴らも沢山いるけどさ。自分一人で抱え込まなくたって、誰かが解決してくれるのを気長に待てばいいじゃ〜ん。」
その様子を少し離れた場所で見ていたハッターは、冷静に口を開いた。
「アリス様はとてもお優しい方なのです。その様な問題を他人事のように見過ごすことができれば、そのお心を痛めることもないでしょう。私もこんな忌々しい町など見捨てて別の町を目指すことをご提案したいところですが……」
ハッターも、ここに残ることはあまり賛成ではないようだった。アリスを侮辱し、傷つけたエリシアへの怒りが、彼の表情に淡く浮かび上がる。
その時、アリスはハッターの言葉にハッと気づいたように顔を上げ、キャットに声をかけた。
「ねぇキャット。あの町には不満を持っている人たちもいるんだよね?それに、追い出されてしまった異種族の人たちも。」
「うん、いるよ。そりゃあもうたーくさんね。あっちこっちに散らばってはいるけど、国境を越えるのは難しいんじゃないかなぁ。俺も王都へ行けるならとっくにそうしてるし。」
キャットは尻尾を揺らしながら答えた。
アリスは顎に手を添えて考えた。今の自分たちには町の人々の理解を得る力も、教団の闇を暴く力もない。しかし、もし行く当てのない人たちを迎え入れることができたなら。アリスはハッターに相談するように言った。
「ねぇ、ハッター。ここに行く当てのない人たちを集めて味方にするのはどうかな?多くの人が追い出され、差別を受けているなら、沢山の人が集まると思うの。食料の問題はなんとかなるし、人数次第だけど、教会で寝泊まりもできる。それなりの人数なら迎えられると思う。味方を増やして、私たちを受け入れてもらえるように訴えかけるしかないと思うの。どうかな?」
ハッターは彼女の言葉を噛みしめるように静かに頷き、慎重に言葉を選びながら口を開いた。
「それは素晴らしい考えです、我が君。しかし、これはただの避難所ではなく、新たな秩序を作るということに他なりません。そして、そのためにはしっかりとした指導者が必要です。」
アリスは少し驚いた。彼の冷静で思慮深い声色が、彼女の決意を試されているように感じさせた。
「指導者……私が?」
「はい、アリス様。あなたがこの町の主導者となり、皆を導いていくべきです。そして、そのためには忠実な家臣が必要です。私たちがその役割を担います。」
「家臣……」
アリスはその言葉に戸惑いを隠せなかった。彼女にとって『家臣』という言葉は、単なる仲間とは異なる、重い責任を伴う言葉だった。かつて、家臣制度がどのように人々を縛り付け、裏切りを生んだかを聞いたことがあった。彼女はその考えに対して疑念を抱いていた。しかし、今の状況では、その重責を引き受けることで新たな一歩を踏み出せるのだと、彼女の中で理解が広がっていく。
「私にそんなことができるのかな……」
アリスが不安そうに呟いたとき、ハッターは優しく微笑みながら答えた。
「アリス様、あなた様にはその力があります。私たちはそれを信じています。どうか、私たちを信じてください。そして、この町を、そしてこれからの未来を共に作り上げましょう。」
彼の言葉は、アリスの心に深く響いた。仲間たちが自分を信じてくれること、それが何よりも力強い支えとなった。
「わかった。あなた達を信じるよ。」
アリスは決意を新たにし、仲間たちと共に新たな計画を立て始めた。近くの森や山に住む追放者たちに連絡を取り、彼らを迎え入れるための準備を進める。そして、その勢力を持って町の人々に訴えかけ、友好的な関係を築き、最終的には教団を追い出すための作戦を練り始めた。
「俺は追い出された住民を探して、この教会に連れてくるよ。俺なら顔は広いし、あんた達が言っていきなり衣食住を提供しま〜すって言っても、誰も信じないだろ?そこは俺に任せて。」
キャットが自信満々にそう告げると、アリスは深く頷き、次にオーリンとカイルに目を向けた。
「それなりの人数を迎えるとなると、食料問題が一番心配だね。カイルには引き続き畑の管理をお願いしたい。いいかな?」
「ああ、任せてくれよ。力仕事は得意だしな。それに、人数が増えるなら今までよりも効率よく作業ができるかもしれねぇ。アンデットたちにも手伝ってもらえれば、その辺は大丈夫だろう。」
「ありがとう。オーリンは……狩りをお願いしたい。長期保存ができるように干し肉を作ったり、タンパク源を確保するためにも、まずは狩猟が大事なんだと思うんだ。」
「そうだね、そこは僕に任せて。」
すると、ハッターが片手を挙げた。
「失礼ですが、我が君。狩猟ではそれなりの人数を賄うには限界があると思います。そこで提案なのですが、野生の生き物を捉えて、それを育てるというのはどうでしょうか?」
その言葉にオーリンが厳しい顔をした。
「それは名案だと思うけど、野生生物を捕獲して育てるにしても、カウベルのように畜産に向いている生き物は、そう簡単には手に入らないと思うな。野生で捕らえられるのは、精々フォレストラビットやフォレストディアーくらいだ。卵を産んでくれるクックバードなら、もしかしたら野生にもいるかもしれないけれど……」
「最初はフォレストラビットで十分でしょう。後に行商から譲ってもらい、こちらで繁殖させることも考えています。」
カイルはその言葉に驚いた。
「行商って……商売でも始めるつもりなのかよ。」
「さよう。そうでなければ、大所帯を賄っていくことなどできませんよ。」
「まるで町作りじゃねぇか……」
「すごいね、そんな大規模なプロジェクトになっちゃうんだ……」
アリスもハッターの提案には驚きを隠せず、口をぽかんと開けた。
「町に対抗する勢力を集めるのであれば、町を作るに他なりません。我が君、いかがいたしますか?」
ハッターは静かにアリスに問いかけ、彼女は真剣に思考を巡らせた。
町を作るなんて大規模なことは考えていなかったが、でも、このままでは自分たちの居場所も、迫害された人々も守ることはできない。アリスは覚悟を決めたように立ち上がると、深く頷いた。
「うん、私たちの町を作ろう。誰も差別されない、虐げられない、私たちの町を。」
その言葉にハッターは感激し、カイルとオーリンは唖然とした。
「お前、本気で言ってるのか?」
カイルはアリスの言葉に驚きを隠せずに告げた。オーリンも心配そうな表情で呟く。
「そ、そうだよ……町を作るなんて……」
二人が不安を感じるのは至極当然だ。自分だって不安で仕方ない。でも居場所がない以上、自分たちで町を作る他ないと考えたのだ。それに、迫害された人たちや教団が行おうとしている蛮行を知って見過ごすわけにはいかない。アリスの胸には確かな決意が宿っていた。
「うん、自分たちの居場所は自分たちで作ろう。私たちならできるよ。」
アリスも不安を抱えていたが、強い眼差しでそう告げた。カイルもオーリンも、その言葉に圧倒され、返す言葉がなかった。
しかしハッターだけは、その言葉にまさに文字通り舞い上がり、空中を浮遊した。「素晴らしい!アリス様が盟主となられる!いずれこの町を国へと発展させましょう!!そして、我が君が主君となられ、国王となるのです!!」
「こ、国王!?」
その言葉に三人は顔を見合わせる。
「ええ、アリス様はまさに国王の器!町の町長などで収まる器ではございません。いずれ建国し、この国をさらなる発展へと導くことでしょう!!」
ハッターは興奮した様子で告げる。
「で、でも国王なんて……私はただ、誰も差別されない場所を作りたいだけなんだけど……」
「現状、無差別の国家などありません。ならばアリス様ご自身の手で作られるのが一番早いかと。何も難しいことではございません。差別され、迫害された民を受け入れていれば、そのうち国として発展していくのは至極当然な流れかと。」
「く、国……」
オーリンはその規模に驚いて腰を抜かしてしまった。
アリスも、あまりに大きな規模の話に唖然とする。ハッターは不思議そうに首を傾げる。
「なんですか、建国をするという話ではなかったのですか?私はてっきりご主人様はそこまで見越してのお話をされているのかと。」
「そ、そんなことまで考えてもなかったよ……そんな未来のこと……」
「いえ、そう遠くない未来、あなた様は国王となられるでしょう。そうなれば今のうちから忠実な家臣を育てていく必要がありますね。」
ハッターは腰を抜かしているオーリンとカイルを見つめた。
「あなた達、アリス様の家臣になる覚悟はありますか?」
「か、家臣!?」
カイルとオーリンは互いに顔を見合わせる。
アリスも突然の提案に戸惑いながら、ハッターを見上げた。
「か、家臣だなんてそんな!カイルもオーリンも仲間だよ!」
「仲間という曖昧な関係であるからこそ、仲間を失うリスクがあるのです。忠実なる家臣ともなれば、簡単に君主を裏切ったりはしません。」ア
リスはその言葉に、エレオノールたちの後ろ姿を思い出して唇を噛み締めた。
ハッターは淡々と話を続ける。
「アリス様、これは重要なことです。カイル殿の戦力、オーリン殿の知力、そして私の忠誠心。それらは、あなた様が国を作る上で必要となる力です。二人にその覚悟がおありになるなら、家臣としての忠義をここで誓わせるべきだと、私からご提案させていただきます。」
アリスは二人の顔を見つめた。カイルもオーリンも突然の提案に戸惑っているようだった。しかし、先に立ち上がったのはオーリンだった。アリスの前に跪くと、頭を深々と下げて忠誠を誓う。
「僕はアリスさん……いえ、アリス様に忠誠を誓います。家臣となる覚悟はとっくにできています。こんな、何の役に立たない僕でも……アリス様の力になれるなら、この身を賭して尽くす次第です!」
突然のことにアリスは言葉を失う。どうしようとハッターを見上げるが、彼はそれが至極当然といいたげに満足げに微笑んでいるだけだ。
カイルも立ち上がり、アリスの前に傅いて誓いの言葉を述べた。
「俺も……アリスに、お前についていく覚悟はできてる!俺は森への贖罪も続けたい。それに……何より、俺は俺自身の力をコントロールできるようになりたい。そのためにも、お前の力が必要だアリス!」
アリスは困惑した様子で二人を見つめた。二人の覚悟は本物だった。その覚悟に応えられるのか不安を抱きながらも、ハッターが突然カイルの頭を叩いた。
「いってぇな!何するんだよ!」
カイルが叫ぶ。
「主人であるアリス様を呼び捨てにするなど許される行為ではありません。あなたもアリス様に忠義を誓うなら、アリス様と呼びなさい。これは執事長としての命令です。」
アリスは心の中で「いつ執事長にしたっけ……」と思いながらも、二人に改めて問いただした。
「本当に、いいんだね?」
二人は決意を新たに頷くと、傅いたまま深く頭を下げた。
「アリス様、それではこの二人に新たなる名前を。それが従者との契りとなり、二人はあなた様に忠義を誓うことでしょう。」
「わかった……」
アリスがカイルとオーリンに新しい名前を授ける瞬間、周囲の空気がピリリと緊張感を帯びた。夜空には無数の星々が輝き、その光が彼女たちを静かに見守っているかのようだった。アリスの手が淡い光に包まれ、その光が周囲に柔らかく広がっていく。
「カイル、オーリン……あなた達には、これから私と共に新しい未来を築いてほしい。そのために、新しい名前を授けます。」
アリスは深呼吸をし、自分の手の中に宿る魔力を感じ取った。その力が、彼女の中で静かに脈打ち、カイルとオーリンへと流れ込んでいくのを感じた。
「炎の戦士、カイル……あなたには“エース”という名前を授けます」
アリスがその名を口にした瞬間、エースの体が光に包まれた。彼の中に眠っていた魔力が覚醒し、新たな力として彼を満たしていく。光の中で、エースの姿が一層力強く、神々しく見えた。
「エース……これが俺の力なのか……」
エースはその力を感じながら、自分が新たな道を歩むことを実感した。
続いて、アリスはオーリンに向き直り、同じように名を授けた。
「弓の使い手、オーリン……あなたには“マーチ”という名前を授けます」
マーチの体もまた光に包まれ、彼の内なる魔力が目覚めた。マーチの体の中を魔力が駆け巡る。その光景は、まるで神聖な儀式のようで、彼らが新たな誓いを立てる瞬間を祝福しているかのようだった。
「す、すごい……今まで魔力なんてほとんど感じられなかったのに……」
ハッターはその光景に目を輝かせ、静かに言葉を紡いだ。
「アリス様、これで二人はあなた様の忠実なるしもべです。この魔力は、あなた様からの祝福の証。彼らはこれからもあなた様を支え、この町を共に作り上げることでしょう。」
アリスは二人に向かって微笑み、静かに語りかけた。
「エース、マーチ、これからもよろしくお願いね。私たちで、誰もが安心して暮らせる町を作ろう」
二人は深く頷き、彼女に忠誠を誓った。その瞬間、彼らの絆がさらに強まり、アリスの決意もまた一層固くなった。




