第46話:サンクトリア
翌朝。朝の光が差し込む中、キャラバンの準備が整い、アリスたちは新たな冒険に向けて出発する準備を整えた。エレオノールがキャラバンの先頭に立ち、皆を励ます。
「さあ、皆!今日こそサンクトリアの町を目指して出発よ!着いたらたっぷり稼ぐわよ!」
「エレオノールさん、改めてありがとうございます。旅の道中もよろしくお願いします。」
アリスが頭を下げる。
「もちろんよ、アリス。一緒に素敵な旅にしましょう!」
翌朝、キャラバンが出発の準備を整え、エレオノールが皆を励まし、アリスたちはサンクトリアへ向かう旅に出た。
道中、アリスは異世界での自分の役割について思いを巡らせつつも、初めての町への期待に胸を膨らませていた。しかし、サンクトリアに到着すると、そこには荒廃しきった町が広がっていた。
「ここが……サンクトリア……。」
アリスが失望したように小さく呟く。町の様子に一同は動揺を隠せないでいた。
エレオノールが重い口調で答える。
「この町はノーザン王国とハーランド王国の間にある場所なの……この様子だと、戦争にでも巻き込まれた後かしら……。」
「酷い……。」
元々豊かな町ではなかったように見えるが、民家は焼け落ち、崩壊している家屋も多く見られた。その様子にキャラバンの仲間も不穏そうな顔をする。キャラバンを町の入り口に停めると全員がやっとその町に降り立った。
期待に胸を膨らませていた分、荒廃した街並みを見てアリスは落胆し胸が痛んだ。日本に居た頃は戦争なんて他国のお伽話程度にしか感じられていなかったが、こうしてむざむざと見せつけられると考えさせられるものがあった。
荒廃した町に一歩ずつ踏み込んでいく。すると町の人を見つけることができた。アリスはすかさずその人物に声をかける。
「こんにちは。すみません、この町で何があったんですか?」
「!?」
アリスの姿を見て固まる町民。そして次の瞬間大きな声を挙げてアリスを指さした。
「黒い魔女!黒い魔女だ!悪魔の使者だ!!」
「え?」
アリスは突然の事に驚き困惑した。
その声にぞろぞろと町の人間が現れる。
「化け物め……」
「魔女だ」
「黒い魔女め!」
「災厄を齎しにやってきたんだ!!」
町の人達は憎しみのこもった瞳でアリスを睨みつけると一斉に石を投げ始めた。アリスは驚いて頭を咄嗟に抱える。その姿を見てハッターが怒り狂った様に現れた。
「貴様ら!!我が主人に何をする!!」
突然現れたゴーストに人々は震え上がった。アリスは慌ててハッターの前に立ち塞がる。
「駄目!町の人を怖がらせないで!」
「しかし!!!」
ハッターは怒りを隠せない様子で恐ろしい顔をしてアリスの静止に大きな声を上げる。
「悪魔め!!」
ゴンッ
一人の町人が投げた大きな石がアリスのこめかみに直撃した。その姿を見てカイルもエレオノールも慌てて駆けつける。
「アリス!!!」
石はアリスの頭を直撃し、視界がぐらつき思考できない。痛みと血が流れる感覚だけが伝わってくる。エレオノールが憤りを隠せず声を荒げる。
「あなた達、酷すぎる!彼女が一体何をしたっていうのよ!」
「バリカントスもいるのか……やはり悪魔の使者だ!この町を滅ぼす気だな!!」
「違う、私たちはただこの町が異端者を受け入れてくれると聞いて……!」
「黙れ化け物!」
さらに石が飛び交う。それにカイルは激怒し体から炎を上げつつ双剣で石を叩き落とす。
「お前らなんなんだ!いきなり丸腰の人間に向かって石なんか投げやがって!!」
「こいつ、炎の悪魔だ!」
「やっぱり悪魔を率いてきたんだ!」
「黒い魔女め!」
「魔女を殺せ!!」
「奴を殺せ!!」
「貴様らぁ……!!!」
ハッターは両手と空中に無数のナイフを構える。怒り狂ったハッターの燕尾を掴んでアリスが告げる。頭から血を流しながらも必死で嘆願する様子は痛ましかった。
「駄目……手を出さないで……ハッター……」
「アリス様!!此奴らは明らかに敵意を持ってあなた様を殺そうとしています!!」
「私が黒い髪だから、魔女と間違われてるだけなの……話せばわかる……」
「話したところで通じる連中じゃないぞ!!」
カイルも飛んでくる石を剣で振り払いながら必死に抵抗する。
「でも、ここでこの人たちを殺せば私たちは本当に“悪魔”になってしまう……!だから二人とも駄目。剣を収めて……!」
アリスの悲痛の訴えに悔しげにしながらも二人は攻撃の手をやめた。ハッターの体は石をすり抜けていくが、カイルの体には容赦なく町の人々が投げる石がぶつかる。エレオノールが叫んだ。
「とりあえず、一旦避難しましょう!皆キャラバンに乗って!」
怪我をしたアリスを庇いながらエレオノールたちはキャラバンに乗り込んだ。カイルとハッターもそれに続く。全員を乗せたキャラバンは行く宛もなく町を離れるしかなかった。
町を離れるキャラバンの中、エレオノールが治癒魔法をアリスに施してくれた。
「アリス、大丈夫?」
「うん、血は止まったし大丈夫……」
アリスは痛みよりもショックの方が大きかった。同じ人間なのにここまで毛嫌いされるとは想定していなかったからだ。自分の覚悟の足りなさと、ただ髪が黒いというだけでここまで差別されるとは考えもしなかった。
怒りに震えるハッターと、どこか悲しげにしているカイル。
カイルもこの様な迫害を受けて居たのかと思うとアリスの胸は更に痛んだ。
「よくもアリス様にこの様なことを……」
ハッターが憎しみを抑えきれない様子で震えながら告げた。その手をアリスが魔力を込めて握る。
「憎しみに憎しみで返しても駄目だよ。和解の道をいくには私たちを理解してもらわないと……」
「でもあの様子じゃ俺たちを受け入れるなんて到底無理な話だぜ?それに……この先どうするよ。」
全員の間に暗く重たい空気が漂っていた。誰もがサンクトリアに希望を持っていたからだ。迫害されたものを受け入れてくれる場所、安らげる場所……自分達の居場所になるはずだったその町がこの様なことになっていることに誰もが口を塞ぎ込み失望していた。
「行く当てもないものね……私たちもあの町が最後の頼みの綱だったのよ。これから……一体どうしたら……。」
エレオノールたちが暗い顔で沈黙する中、突然、軽快な声がキャラバン内に響く。
「何かお困りごとかなぁ〜?」
「誰だ!?」
ハッターが反応し、キャラバンにいつの間にか現れた猫耳の男にナイフを構える。男はピンクの髪で女性的な魅力を持ち「キャット」と名乗り、情報屋兼男娼だと自己紹介をする。
「どうせ行く当てがないんだろう?銀貨一枚で寝泊まりできる場所を、もう一枚で町があんた達を嫌う理由を教えてやるよ。」
その言葉に全員が顔を見合わせた。エレオノールは頷くと銀貨二枚を差し出した。
「どーもー♡それじゃ、まず一つ目ね。この先にもう誰も住んでいない廃墟がある。森を抜けた先にあって、まず町の人間は森を越えることはないから安全だよ。それは保証する。次に毛嫌いする理由なんだけど……これが複雑でねぇ。」
キャットは手にした銀貨を投げながら続けた。
「あの町は元々は亜人族やそれこそあんた達バリカントスみたいな逸れ者を受け入れてくれるいい町だったんだ。でも、ある司祭が来てから町は一変しちまった。急に亜人族やドワーフ、人間以外の種族を異常なまでに毛嫌いするようになっちまってね。それで人間以外の全種族を追い出したって訳。俺もその一人。今じゃ宿無し金なし男なしってね……可哀想なキャットちゃん。泣ける話だろ?」
その話に全員が顔を見合わせる。元々違種族を受け入れてくれる寛容な町として知られて居たはずなのに何故そうなったか。するとキャットが立ち上がった。
去り際に「俺はこれで失礼するよ。ベッドの中でも歓迎だよ?」と軽口を叩きつつ姿を消す。
全員が顔を見合わせる中アリスは考えた。
「行く当てもないし、キャットさんを信じてその廃墟を目指しましょう。」
「そうね……今はそれに賭けるしかないわね。」
アリスはキャットの提案を受け入れ、全員が不安を抱えつつ廃墟へ向けて進むことを決めたのだった。




