表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/64

第43話:旅の道中

 エドガーの屋敷を後にし、アリス、カイル、ハッターの三人はサンクトリアの町を目指して歩き続けていた。森を抜けると、目の前には広大な平野が広がっていた。夕焼けは空を鮮やかに染め、遠くに連なる山々のシルエットを赤く浮かび上がらせていた。風が涼しく、草原を渡るたびに彼らの頬をそっと撫で、旅の疲れを少しずつ和らげていく。アリスは心の中で感じていた不安が、開放的な景色に溶け込むように消えていくのを感じ、微笑んだ。


「やっと森を抜けたね。」

アリスの声には安堵と、この新たな風景への期待が込められていた。彼女は目の前の風景に未来への希望を感じつつも、異世界での自分の立場に少しだけ不安を抱えていた。


「そうだな。森の中はなんだか不気味だったけど、ここは気持ちがいいな。」

カイルは深呼吸をし、広がる景色を楽しんだ。長い旅路の疲れが、風の心地よさによって癒されていくのを感じた。彼は普段見せることのない穏やかな表情を浮かべ、肩の力を少しだけ抜いた。


「そうですね、おばけも出なかったですし。」

ハッターはアリスの隣を漂いながら、軽やかに笑った。彼の言葉にアリスは小さく笑みを返すが、カイルは少し嫌そうな顔をした。


「もう、おばけの話はやめてくれよ、ハッター。」

カイルは軽くため息をつきながら言ったが、その表情にはまだ屋敷の記憶が残っている。彼は不安を感じることを認めたくない一方で、どこか安堵を感じている自分に気づいていた。


ハッターはにやりと意地悪そうに微笑みながら、カイルに問いかけた。

「おやおや、カイル殿。もしかして、お化けが怖いのですか?」


「んな訳ねーだろ!ただ、あの屋敷の雰囲気が嫌いなだけだ。」

カイルは強がりながら視線を逸らし、ハッターの言葉を受け流そうとした。しかし、彼の内心では、まだ完全に拭い去れない不安がかすかに残っていた。


「おばけって怖いですよね。私、見たら心臓が止まっちゃうかもしれません。まあ、もう止まっているんですけどね!ははは!」

アリスはジョークを笑ったが、カイルの反応を気にしていた。彼女の笑いには、今後の旅路に対する微かな不安が感じられたが、それでもこの場にいる安心感が勝っていた。


カイルはまたため息をつき、肩をすくめた。

「もう、やめてくれよ、ハッター!お前の死人ジョークにはついていけねぇよ。」

その言葉には安堵が含まれており、カイルがハッターを仲間として受け入れ始めていることが垣間見えた。


「そんなこと言わずに、カイル殿。そうだ、それじゃあクイズを出しましょう。幽霊の好きな果物を知っていますか?」

ハッターは、カイルをからかうように声を弾ませた。


「好きな果物?なんだそりゃ?」

カイルは警戒しつつも興味を引かれ、首を傾げた。


ハッターは突然手をだらんと揺らし、恐ろしい顔を作って驚かそうとした。

「答えは…Boo!(ぶどう)だよ!」


「うおぉうッ!?」

カイルは心底驚いて飛び上がり、ハッターは大笑いした。アリスもその様子に微笑み、緊張が少しずつ解けていくのを感じた。


「もう、そういうジョークいいってば!笑えねぇよ!」

カイルは顔を赤くして言い返したが、その声にはどこか温かさが感じられた。彼とハッターの間には、友情が芽生え始めていた。


アリスはハッターに微笑みを返しながら言った。

「でも、ハッターのおかげで気が軽くなるじゃない。ありがとう、ハッター。」

彼女の声には、感謝と共に、仲間との絆を深めていく喜びが感じられた。


「ああ、我が君!あなた様に喜んでいただけるなら、このハッター、いつでもどこでもカイル殿を驚かせましょう!」

ハッターは浮かれた様子で応え、その姿はどこか微笑ましくも忠誠心に満ちていた。


カイルは苛立ちながらもどこか笑いがこみ上げてくるのを感じつつ、叫んだ。

「余計煽ってんじゃねぇ!!やめさせろ!!」

彼の髪は炎のように燃え上がり、その怒りが視覚的にも伝わってきた。


ハッターは軽く手を仰いで、カイルの炎を吹き消す真似をした。

「カイル殿、気を沈めて。ちょっとした幽霊ジョークじゃないですか。ほら、燃えてますよ。」

彼の言葉には、軽やかさと仲間としての親しみが込められていた。アリスは二人のやり取りを見て、微笑みを浮かべ、彼らの間に築かれている絆を感じ取った。



 三人は再び歩みを進め、やがて日が沈み始めると、今夜の野営地を探し始めた。アリスは周囲を見渡し、徐々に暗くなっていく空を見上げながら提案した。

「そろそろ日も暮れ始めたね。ここら辺でキャンプでもしようか。」


ハッターはその提案に驚き、震え声で応じた。

「我が君、まさかこのような場所で野宿でもなさるおつもりですか……!?」


「そうだよ。この辺じゃ宿屋もないし、周りに民家もないからね。」

アリスは冷静に答えたが、ハッターの驚きが伝わり、彼を落ち着かせるために微笑みを返した。


ハッターは恐怖と後悔の表情を浮かべ、震えた声で言った。

「ああ、なんたること!……ご主人様を野宿させるなんて私は執事として失格です!こんなことであればお屋敷からベッド一式でも担いでくればよかった……」


「そ、そこまでしなくても大丈夫だよ。私も外でキャンプするのは慣れているし……」

ハッターの忠誠心に心が温まるのと同時に、あまりにも過保護すぎる様子に困ったように笑った。


「なんと!慣れるほど野宿をされていらっしゃったんですか!?ああ、なんと嘆かわしい!お可哀想なアリス様……!!……ですがご安心ください。アリス様と契約を交わした際に私もいくつかのスキルを手に入れたようなので。」


その言葉にアリスとカイルは驚きと期待が入り混じる表情を見せた。

「スキル?」


「はい。この様に!」

ハッターが指をパチンと鳴らすと、ベッドとテーブル、ティーセットが空から降ってきた。アリスは目を丸くして驚き、カイルも唖然とした表情を浮かべた。ハッターは誇らしげにティーセットをキャッチし、すぐに紅茶を入れ始めた。


ハッターの魔法に驚かされたカイルは、その豪華さに目を丸くしていたが、どうにも納得がいかない様子で口を開いた。

「すげぇな……でも、なんで飯じゃなくてお茶なんだよ。腹減ってるのに、まず飯が先だろ?」


ハッターは誇らしげに微笑み、紅茶を手にして堂々と答えた。

「旅の疲れにはまず紅茶が一番ですよ。これで元気が出るはずですから、安心してください。」


アリスは紅茶を一口飲んで、ほっとしたように微笑んだ。

「ありがとう、ハッター。本当に美味しいわ。こうやって少しでも落ち着ける時間があるのは、ありがたいわね。」

その一瞬、アリスの心の中で抱えていた不安は和らぎ、安心感が胸に広がった。紅茶の温かさが彼女の心を包み込み、異世界での旅路に対する自信が少しずつ育まれていく。


「やっぱり、こうして仲間と過ごす時間があるのは、いいもんだな。」

カイルは紅茶を見つめながら呟いた。


「そうだね、カイル。」アリスは優しく微笑んで応えた。

「私たち、いいチームだよね。」


カイルは照れ隠しに鼻をすすり、「まぁ、そうかもな」と短く返事をしたが、その表情はどこか柔らかく、穏やかだった。


しかし、そんな和やかなひとときは突然の音で打ち砕かれた。



突然、遠くから悲鳴と剣戟の音が聞こえてきた。



「何か起きてるな。」

カイルは素早く反応し、すぐに双剣を抜いた。その表情は一変し、冷静で鋭い戦士の顔に戻った。アリスもまた、短剣を手にして立ち上がる。張り詰めた空気の中、緊張が走る。


「もしかしたら盗賊に襲われている人たちがいるのかも知れない……助けに行こう!」


「おう!」

カイルは双剣を手に、アリスは短剣を握りしめ、声のする方へと全力で駆け出していった。ハッターもまた、二人の後を追い、幽霊らしい軽やかな動きで彼らに同行した。三人の冒険は、再び新たな局面を迎えようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ