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第31話:先生と過ごす夜

「魚なんて久しぶりだな。今夜は串焼きにでもするか。それでも余るな……スープに魚の肉も入れるか。」

セシルは魚の下拵えを始めた。ナイフで鱗を丁寧に剥がし、次に薄皮を切り落として岩塩で揉み込んだ。半分は串に通し暖炉の前に刺して並べ、残りは野草のスープに入れて具材にした。


しばらくすると、シンプルな野草と魚のスープ、そして魚の塩焼きが完成した。セシルはスープを持ってアリスの元へと戻った。アリスは暖炉の前で魚の焼き加減を見つめ、時折串を返していた。


「休んでいてよかったのに。結局手を煩わせてすまないな。」


「いえ、休んでるついでですから大丈夫です。……美味しそうな香り……。」


「スープに魚を入れてみたんだ。お前の料理には敵わないが、今日はいつもより豪華だぞ。」


「ありがとうございます、先生。」

私は先生から木の器を受け取り、スープを一口飲んだ。いつもの質素な野草のスープに魚の旨味が加わり、美味しさに驚く。魚の身は少しぱさつくが、久々のタンパク質が美味しくて夢中でスープを頬張った。


「どれ、魚も焼けている頃だ。たくさんあるからゆっくり食え。」

焼き上がった魚の串焼きを差し出してくれる。私はそれを受け取り、思い切りかぶりついた。


「ん!美味しい……!」

先生は私が食事に夢中になっている様子を見て、どこか嬉しそうだった。エルフの食事はいつも質素で、それ自体は嫌いではないが、たまには美味しいものが食べたい。塩気があるだけでこんなに美味しいなんて……。感動している私を見ながら、先生は口を開いた。


「この世界での暮らしはどうだ?」


「え?」

突然の質問に驚き、少し考えた後、私は笑顔を浮かべて答えた。


「はい、楽しいです。不便に感じることもありますけど、それでも毎日が楽しくて、明日が楽しみで仕方がないです。元いた世界では毎日が辛くて、苦しくて……明日なんてこなければいいって本気で思っていました。でも今は、明日は何をしよう、早く明日が来ればいいのにって気持ちでいっぱいなんです。だから今は……すっごく楽しいです!」

先生は私の言葉に何かを察したのか、静かに見つめて小さく呟いた。


「そうか。」

先生もスープを飲みながらゆっくりと話し始めた。


「私も、明日がこなければいいと思う日があった。」


「え?先生も……」

その言葉に驚き、同時にミカエルのことを思い出した。ミカエルを失った時、先生もそれだけ辛い思いをしたのだろうか。でも、私は深く聞くことはしなかった。

先生は顔を上げ私を見つめると至極幸せそうな顔で微笑んだ。


「でも今はお前がいる。明日何をさせるか、どうしてやろうか考えるのが楽しい。」


「それってどう扱いてやろうかって考えて楽しんでません?」

その言葉に若干笑顔がひきつりそうになるが先生はけらけらと笑って続けた。


「もちろん、楽しんでいるとも。修行が厳しくなればなるほど、お前の成長にも繋がるしな。」


「絶対成長だけじゃないですよね!?いじめてますよね!」


「いじめてなどいない。きっちり修行をつけてやっていると言ってくれ。」


「世の中ではそれはいじめに入るんですよ〜!」


「ははは!」


こうして先生と笑っていられるのも、あと何日なんだろう。

旅立つのは怖い気もするけど、それ以上にわくわくもしている。どんな町があって、どんな人がいるんだろう。どんな世界が広がっているんだろう。どんな魔法があるんだろう。

私はルミナスリアのほんの一部しか知らない。私の知らない世界を知るためにも、この離れ難い時間を胸に刻んで忘れないようにしよう。


こうして先生と過ごす楽しい夜は、穏やかに過ぎていった。

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