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第28話:ネイルの実験と、新たなる旅立ち

 夜の森に踏み出した先生は辺りを見回し、興味深そうに腕を組んだ。月光が森の隙間から差し込み、木々の影を作り出している。


「アリス、これはいいぞ。夜目が効くどころではない。昼間とほとんど変わらず見通しがよい。さらに闇の中に潜むものの姿まではっきりと見える。」


「へえ!そんな効果が……シャドウウルフの目の力でしょうか?」


「そうだろうな。奴らは暗がりの中で移動する。このように見えているのかもしれないな。」

なるほど……と私はノートにメモを取っていると、突然先生の姿が消えた。


「あれ?先生?」


「ここだ。」


「わぁ!?」

先生は突然私の真後ろから声をかけた。移動した?でも足音も聞こえなかったし、先生の魔力も気配も感じなかったのにどうして!?


「なるほど、奴らはこうやって移動しているのか……影の中に潜んで移動したんだが、これは隠密に使えそうだな。自分の痕跡や魔力の流れを残すことなく移動できるらしい。実に便利だな!」


「効果がわかったのは嬉しいですけど、心臓が止まるかと思ったのでやめてくださいよ……」


「はは、すまんすまん。じゃあ最後に闇の魔法を使ってどれだけ効果が上がったか見てみようか。」


「はい、お願いします。」

先生は私から少し離れると手を前にそっと差し出し、小さく呪文を唱えた。


「……地獄のヘルファイア

先生の手には真っ黒な炎が燃え盛り、激しく揺らめいている。すぐに手のひらを握りつぶし炎を消滅させたが、先生は少し焦った様子でため息を漏らし、胸元を撫で下ろした。


「最小限の力で発動させたつもりだが……何十倍、いや何百倍にまで効果が膨れ上がっているぞ。これは危険だな……でも、完璧にコントールできた。やはりお前のネイルは素晴らしい。」

先生はそういうとネイルの魔法を全て消滅の魔法で瞬時に取り払った。


「闇の魔法はエルフにとっては消耗が激しいな……せっかく塗って貰ったばかりだが、落とさせて貰ったよ。すまない。しかし、シャドウウルフの能力も引き継いでいる上に闇の魔法を適合者でない私にここまで力を引き出させた上に完璧に操ることができるようにしたなんていうのは最早これは神の御業みわざといっても過言ではないな。それに、ベースとトップを使えばこれらの危険な塗料も爪に塗ることができることもわかったしな……今日は実に実り多い一日だった!」

先生はどこか興奮した様子でそう言った。やはりこの人も魔法が大好きなのだな。

尽きない探究心と、どこまでも追い求めるその情熱は私も同じ。

先生に似ているところを感じて嬉しく思った。


「はは、流石に誉めすぎな気もしますが……先生がそういうならきっと、それだけの力を持つものが作れたんですね。」


「ああ、自信を持っていい。それに、ここではそろそろ素材も採取も研究も限界も近い。お前、町へいってみるのはどうだ?」


「町、ですか?」

突然の提案に私は驚く。しかし先生はそうさせるのが当たり前だというように腰に手を当てて天を仰いだ。


「お前のネイルの魔法の可能性は無限大だ。だが、この森では閉鎖されすぎて十分な素材も手に入らない。特にドワーフの鉱山、ストーンハイムでは珍しい鉱石も沢山取れるし、アルカンタの街では交易が盛んだ。きっと様々な素材が手に入ることだろう。この森では手に入らないものがこの世界には沢山ある。お前にはこの森は小さすぎるんだよ。」


「町……」

町があるなら確かに行きたい。そこに行けば他の種族との交流もできるだろうし、夢だったネイルサロンだって開けるかもしれない。

ネイルの力でいろんな人の助けにもなれるだろうし、確かにずっと森にいるより可能性は広がる。でも……


「先生は、ついてきてくれるんですか?」

先生はその言葉に静かに首を振ると顔を上げて月夜を眺めた。


「私はこの森からは出ない。そう決めている。それにエルフは石の壁や鉄の檻の中では生きていけない。町は私たちにとっては居心地の悪い場所なんだ……まぁそれは私が古代エルフ人だからかもしれないが。今の若い世代なら町で暮らすエルフもいるかもしれない。でもな、私はこの森をもう何百年も離れたことがないんだ。そしてこれからも離れるつもりはない。だからな、アリス。お前は一人で町を目指すんだ。」


「……」

その言葉に少し寂しくなった。先生はついてきてくれない。

私一人で旅をしなくちゃならない。それはとても不安で、怖くて、恐ろしい決断だった。

この森にずっといれば先生とそれなりに楽しく暮らせるかもしれない。だけど、私はこの力をもっと知りたい。それにこのネイルの力でこの世界を変えたい。


「それに、弟子というものはいずれは師の元を去るものだ。小鳥が巣立つ様に、お前もいつまでも私に甘えていては駄目だ。自分の翼で飛び、自分の行きたいところに行き、安らげる止まり木を自分で探せ。お前の居場所はこの森だけじゃないはずだ。」

先生の言葉に喉の奥がきゅうっと詰まり、目頭が熱くなった。

先生は私がこの世界に来てすぐに助けてくれた恩人であり、私に魔法のなんたるかを教えてくれた恩師だ。私がこの世界で生きていく厳しさや可能性を見つけてくれた人でもある。

そんな先生の元を離れるのはとても寂しく感じた。いつまでもここに居たいという気持ちと、ここに居たままではいけないという自分の気持ちがぶつかり合っていた。


「先生……本当にありがとうございます。私、一人で町を目指します。先生に教えてもらったこと、ここで作ったネイルの力で色んな人を助けたい。この世界で私が役に立てることがあるなら、やってみたいです。」


先生は微笑んで頷いた。

「お前はこの世界に必要だ。だから神はお前をここに遣わせ、私と出会うように仕向けたのだろう。何せこの森には私一人しか住んでいないからな。」


「え!?先生はお一人でこの森に住んでいるのですか?でも最初のころ平和条約がなんとかとか……他のエルフに見つかったらとか言ってたじゃないですか。」


先生は遠くを見つめながら、重い口を開いた。

「人間との平和条約が締結されているのは本当だが、ここにはそもそも人間はおろかエルフさえも近づかない。それほど危険な森だから、禁忌の森と呼ばれているんだ。お前のことが最初はわからなかったからな……自分の身を守るために、他のエルフや仲間がいるように感じさせ、嘘をついてお前の様子を伺っていたんだ。すまない。」


「そうだったんですね……。気付きませんでした。」


「はは、こんな簡単な嘘に気付かない時点でお前がこの世界の人間じゃないということはすぐにわかったよ。お前の動向を観察していた。観察していて分かったのは、特別な魔法に恵まれ、ドジでまぬけで、料理がうまいが器用貧乏で、真面目な努力家ってことくらいだな。」


「なんかちょいちょい駄目出しも入ってません!?」


「はは、気のせいだろ。さて……そろそろ帰るか。明日から旅の準備をして、一ヶ月後には町を目指せ。私もお前の旅が無事であるように旅支度も手伝ってやるから安心しろ。もちろん、修行もな。」


「ええ!?まだ修行も続けるんですか?」


「当たり前だろう。魔力感知や操作がうまくいったからってまだまだ一人前とはいえない。この先戦闘や精神的に追い詰められた時も冷静に魔法を使えるようになるには、魔力の扱いを極限まで極めてもらうつもりだ。それを一ヶ月でみっちり叩き込む!いいな?」


「うう……頑張ります。」


「それから体力作りもな。毎日の筋トレ、ランニングも続けてもらうぞ。」


「ええ〜!!!??」


「ははは、早く旅立ちたくなったろ?」


「ちょっぴり……」

私は素直に明日から激しさを増すであろう修行やトレーニングに愕然とした。


「正直でよろしい。旅支度の合間には森の中はもちろん、外でも戦闘や魔物との遭遇は避けられないからな。なるべく知識と備えはあったほうがいい。さ、明日から一ヶ月、旅に向けてきっちり備えるぞ!」


「は、はい!」

こうして私は先生に肩を抱かれながら家へと帰っていった。一ヶ月後の旅立ちの日を目標に、明日から私の旅の準備が始まる!

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