第25話:ネイリスト、精霊魔法を学ぶ!
次の日、先生は新たな修行を始めるといって私を呼び出した。
私は森の中に入ると、先生と共に森の泉へと向かっていった。木漏れ日が揺れ、鳥のさえずりと風の音が心地よく響く中、穏やかな水面が静かに揺れている。
「アリス、今日は新しい魔法について教える。精霊魔法……エレメンタル・グレイスについてだ。エレメンタル・グレイスは精霊との調和を利用して魔力を引き出す魔法の一種だ。精霊たちはこの世界のあらゆる要素に宿っており、我々の魔法を支える存在でもある。彼らとの共鳴を通じて、より強力な魔法を引き出すことができる。」
「精霊との共鳴って……具体的にはどういうことですか?」
「エレメンタル・グレイスは、精霊の力を感じ取り、その力を自分の魔力と融合させる技法だ。精霊は火、水、風、大地、そして光や闇といった元素に宿っている。これらの精霊と心を通わせることで、彼らの力を借り、自分の魔力を増幅させることができる。」
「すごい!でも、それって……どうやってやるんですか?」
「まず、心を静かにして精霊の存在を感じることから始める。次に、彼らと対話するように、自分の願いを伝えるんだ。精霊たちはその願いに応じて力を貸してくれることがある。重要なのは、精霊との信頼関係を築くことだ。」
「信頼関係……」
「そうだ。精霊たちは我々の行動を常に見ている。純粋な心で正しい目的のために魔法を使う者には、精霊たちも力を貸してくれるだろう。」
「なるほど……」
「エレメンタル・グレイスを使えるようになれば、魔法の効果を飛躍的に高めることができる。特にお前のように特別な魔力を持つ者には、この技法が非常に有効だ。」
「わかりました、先生。やってみます!」
「いいだろう。精霊たちとの共鳴を通じて、お前の魔法をさらに高めるんだ。さあ、エレメンタル・グレイスの修行を始めるぞ。」
私たちはさらに森の奥深くにある静かな清流のほとりまで歩いていった。
ここが新たな修行の場だ。私は深呼吸をし、神経を集中させる。
「今からエレメンタル・グレイスの修行を行う。精霊との共鳴を学ぶのだ。」
「はい、先生。」
「まず、この清流の近くに座って目を閉じてみろ。水の精霊と共鳴するためには、心を落ち着け、水の流れ……そしてリズムを感じることが重要だ。」
私は言われた通り、清流のそばに座り、深呼吸を繰り返しながら目を閉じた。
心を静め、耳を澄ますと、清流のせせらぎと風の音が心地よく響いてくる。
しかし、何も感じられない。
「先生、精霊の存在を感じることができません……。」
「焦るな。初めての修行で精霊の存在を感じ取ることは簡単ではない。もう一度、心を落ち着けて、自然の音に耳を傾けてみろ。」
私は再び深呼吸し、心を鎮めた。清流のせせらぎ、風のざわめき、鳥のさえずり……それでも、何も感じ取れない。
「先生……どうしても感じられません……。」
「精霊は急には姿を現さない。根気よく、自然と一体化することを意識するんだ。もう一度、集中してみろ。」
私は再び深呼吸をし心を落ち着けようと何度も試みたが、精霊の存在を感じることができなかった。
時間が経つにつれ、焦りと苛立ちが募る。
数時間後。
「……先生、私は本当に精霊と共鳴できるのでしょうか?」
「お前は特別な力を持っている。焦らず、自分を信じるんだ。共鳴は感じるものではなく、感じさせてもらうものだ。」
私は再び座り直し、深呼吸をした。今度は自然に身を委ねることを意識し、清流の音と自分の呼吸を一つにしようと試みた。
すると、ほんの微かだが小さな変化が感じられた。
清流の水が心の中に入り込むような感覚。私はその感覚に集中し、さらに深く自然と一体化することを意識した。
「先生……感じます。水の精霊が私に応えてくれているようです。」
「いいぞ、そのままだ。エレメンタル・グレイスは精霊との共鳴を通じて、自然の元素の力を引き出すことが目的だ。共鳴が深まるほど、魔法の力は強力になる。」
私はさらに集中し、深呼吸をした。掴みかけた精霊との共鳴を深めていく。
すると、清流の水が私の周りで舞い上がり、優雅な舞を踊るように輝き始めた。
「精霊がお前の呼び声に応えてくれたようだな。今の感覚を忘れるな。エレメンタル・グレイスはお前の力を最大限に引き出すための鍵だ。」
「はい、先生!この感覚をしっかりと覚えておきます。」
「修行を続けることで、他の元素の精霊とも共鳴できるようになる。これからも精霊との絆を深めていくんだ。」
私は立ち上がると心の中で清流の精霊に感謝の意を伝え、修行を終えた。
水はぱしゃんと音を立てて川に戻るといつもの穏やかな表情を見せていた。
「そして、アリス。お前に教えておかなければいけないことがある。」
先生は急に真剣な面持ちになると顔を近づけ内緒話でもするかのように囁き始めた。
「精霊魔法にはあと二つの技法がある。それは精霊召喚と精霊との盟約だ。召喚はより上位の精霊と協力関係になることによってお前でも再現が可能だ。だが……精霊との盟約は絶対に結ぶな。例えそれが彼らからの提案であったとしても、だ。」
「精霊との盟約……?それはそれ程に危険なものなのですか?」
いつになく真剣な様子の先生の顔に思わず小さく息を飲む。精霊との盟約……名前だけ聞けば精霊と協力関係になれる素晴らしい術に聞こえるが……。
「精霊との盟約は代価を与える代わりに精霊自身の力をその身に受けるという禁じ手だ。精霊と同等の力を得ることができるし、上位精霊と盟約を結べばそれだけ強大な魔法の力を得ることもできる。」
「それって凄い魔法じゃないですか……でも、どうしてそれが駄目なんですか?」
先生は伝えるのを躊躇う様に、しかし真剣な面持ちのまま私に精霊との盟約の危険性を伝えてくれた。
「禁じ手とされているのはその代価が大きすぎるからだ。提示される代価はその時により異なるが、基本は肉体の一部、精神の一部、または寿命、更には……生贄。あの精霊はまだ生まれたばかりの下位の精霊だから大きな対価は必要なかったが、上位の精霊……それこそ、アーケイン・スピリットと呼ばれるクラスの精霊になれば代価は“最も大切な者の命”なんて要求もされることがある。精霊からの代価を断ると契約を破棄したことになりその罰を受けることになる。その罰は……非常に重い。」
「……!」
その言葉に驚いて私は思わず口元を塞いでしまった。精霊の中にはそのような恐ろしい代価を要求してくるものもいるんだ……しかも、罰を受けるだなんて……。
私はその言葉に恐怖を感じながらも恐る恐る口を開いた。
「その罰って……?」
「術者の肉体や魔力を奪うことがある。あるいは、呪いをかけられて不治の病や、永遠の不運に見舞われるかもしれない。最悪の場合、精神的な苦痛を与えられ心を破壊されるか……魂ごと囚われ、永遠の牢獄に閉じ込められるか。まだ死んだ方がマシだって思える程の苦痛を代価として差し出せと要求してくることもある。」
「それは……とても怖い話です、ね……。」
私の手から血の気が引き、一気に指先が冷たくなっていくのを感じた。
今回は感謝の気持ち程度で済んだけど、下手をしたら魂ごと囚われてしまうなんて……この盟約が禁じ手と呼ばれる理由がよく分かった瞬間だった。
「そうだ。だからこそ、精霊との盟約には絶対に応じてはならない。代価を支払う覚悟がないならば、最初から精霊を呼ばない方がいい。」
私はその言葉に深く頷くと精霊魔法の危険性と恐ろしさを改めて知ることになった。何かを得るには何かを犠牲にしなければならない……精霊はその自然の摂理に則り、容赦無く代価を求めてくるのだろう。この魔法の使い方はよく考えて慎重に使おう。
私がそう固く心に決めると、先生はその様子を見て何かを悟ったのか小さく笑って私の頭を撫でた。
「さぁ、そろそろ家に戻ろう。明日はいくつかのネイルの生成に挑戦してみよう。」
「わぁ!やっとネイルができるんですね!」
「ネイルはあくまで魔法の基礎ができてからの補助だからな。今のお前になら色んな素材から力が引き出せるはずだろう。」
「とても楽しみです!明日も頑張ります!」
こうして私たちは精霊魔法の修行を終え、帰路についたのだった。




